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第10話 両親への懺悔
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「さて!まずは、この『ごめんなさい』について考えてみることにしようか!」
ぱんっと手を叩いて、アルトがリリーからメモを受け取る。
「魔道具は一応ちゃんと機能してるっぽいんだよねぇ。あとで、僕ら以外のメンバーの指も借りて実験はするとして…。もし正常に動いてるとしたら、なんで表示名が『ごめんなさい』なんだろ」
「加護って基本的に女神様からもらうものだよね、信仰的に言うと」
「信仰的とか言ってるとまた神官から叱られるぞ」
リリーの言い方にトールが軽く頭をこづいた。
「だって、僕女神様にあったことないもん。女神様の声を聞くことができるっている加護はあるけれど、それが本当に女神様のものなのか判断する材料だって少ない。加護がただの体質って可能性を完全否定できる材料まだないでしょ。女神様を信じてないわけでもないけど、加護が女神様からの贈り物ってところを無条件に信じるわけにもいかないって思ってるだけじゃん」
どうやら、リリーは加護というものが信仰心に基づいて神より賜るもの、というところに懐疑的なようだった。随分と早口に喋るものだから、もしかしたらここが、リリーの「興奮するポイント」なのかもしれないな、とアイラはぼんやりと思う。
「じゃあさ、女神様がアイラになんかやらかしたとか?で、神託っぽく謝ってみたとか」
ディックが笑いながらいう。
アルトは苦笑しながらも、それもメモに追加していた。
その後はみんなでああでもない、こうでもない、と話をしていたが、特に進展することもなく、一度、ちゃんと神官に見せるほうがいいだろう、という話になった。
「でも、すぐに会える方ではないと…」
「すぐにはね。でも会いたい、来てほしいと依頼を出せない人でもないから。いつになるというのは確約できないけど、とりあえず依頼を出しておくよー」
そうアルトがまとめたとき、コンコンコン、と扉がノックされた。
「はーい、だれー?」
アルトの声に、扉の向こうから帰ってきたのはビアンカの声だった。
「ビアンカです。アイラはそこにいますか?」
「いるよ。入ってきていいよ」
「失礼致します」
ディックが扉を開けて入ってきたビアンカの腕には、古い鞄が抱かれていた。
「あ…」
「本当は昨日のうちに届けたかったんですけれど、遅くなってごめんなさいね。中身を確認してもらえますか?」
それは、この研究室に来る前にお願いをしていた、父の鞄。
受け取って、中を見ると、ペンダントも、写真も、揃っていた。
写真のなかで子供の頃のアイラを抱いて微笑む両親を見ると、唐突に涙が溢れて、止まらなくなった。
「ごめんなさい」
こんなに愛されて育ったのに、人の愛を壊すような娘になってしまって。
「ごめんなさい」
尊敬していた父や母のような癒し手になるって約束、守れそうになくて。
突然泣き出したアイラを、ビアンカが抱き締める。
「び、ビアンカさま…」
「涙を流すのは大事ですよ。もしかしたら私の優しさが不安かもしれませんが、とりあえず今は、それは無視してください。たくさん、泣けるだけ泣いて」
泣いても貴方の罪は軽くならない、と言い切った時とは真逆の、優しい声と、背中を撫でられる暖かさに、アイラは少しだけとまどって、でも抗いきれずに声をあげて泣いた。
ごめんなさい。
私は、貴方たちに胸を張れる自慢の娘でいたかった。
アイラはそう、心の中で叫んだ。
泣いていたアイラが落ち着いた頃、ディックがニコニコと笑っていった。
「アイラの涙には魔力なさそうだね!」
「は?」
ちょっと剣のある声でビアンカが返す。
「いや、だから、アイラの涙には魅了に関係しそうな魔力は、とりあえず今の所見られなかったよ!っていう…」
さっきの状況で、ディックはアイラの涙を観察していたらしいという状況に、アイラはあっけに取られ、ビアンカは不快そうに眉を寄せた。
「ごめん、ディックのためにも少しだけ擁護させて」
と言ったのはアルト。
「ディックはね、もともとは人の体液、血とか汗とか涙とかに魔力が含まれているのか、もしくは魔力を意図的に含むことができるのかっていう研究をしているんだ」
「ほら、聞いたことないかな。血液が毒になる魔獣の話!あれ、通常時の血液には毒性がないんだ。でも、攻撃、もしくは防御のために流す血には毒が含まれる。今の研究では、血液を毒に変える魔法がその魔獣の血統魔法として確立しているのではないかって説が有力でね?あ、血統魔法っていうのは、簡単に言うと種族として引き継がれる魔法のこと。魔法の才能は子どもに遺伝しやすいって言うじゃん?これもある種血統魔法の一種じゃないかって言われてて…」
「ディック」
やっぱり早口で喋るのは、何か好きなものがある人の特徴なんだな、とアイラは改めて思う。父を含めると、同じような喋り方をするのは四人目だ。
アルトに名前を呼ばれてハッとした様子で、ディックはこほんと咳払いをした。
「と、とにかく。ほら、良く女の武器は涙とか言ったりするでしょ?それがただの戯言なのはわかってるんだけど、男性より女性の方が泣いてることに違和感がない気がしたから、アイラの涙に、魅了に関係する何か魔力が込められちゃったりしてないかなって思って、申し訳ないなーと思いながらちょっと魔力測定眼鏡で見ちゃってました」
「申し訳ないとは思ってないでしょ、貴方」
ミィのツッコミに目が泳いだあたり、思ってなかったのだろう。
まだ二日目だが、アイラは確信した。
ここには、間違いなく「魔法ばか」しかいない。
その確信がとても、心地よかった。
ぱんっと手を叩いて、アルトがリリーからメモを受け取る。
「魔道具は一応ちゃんと機能してるっぽいんだよねぇ。あとで、僕ら以外のメンバーの指も借りて実験はするとして…。もし正常に動いてるとしたら、なんで表示名が『ごめんなさい』なんだろ」
「加護って基本的に女神様からもらうものだよね、信仰的に言うと」
「信仰的とか言ってるとまた神官から叱られるぞ」
リリーの言い方にトールが軽く頭をこづいた。
「だって、僕女神様にあったことないもん。女神様の声を聞くことができるっている加護はあるけれど、それが本当に女神様のものなのか判断する材料だって少ない。加護がただの体質って可能性を完全否定できる材料まだないでしょ。女神様を信じてないわけでもないけど、加護が女神様からの贈り物ってところを無条件に信じるわけにもいかないって思ってるだけじゃん」
どうやら、リリーは加護というものが信仰心に基づいて神より賜るもの、というところに懐疑的なようだった。随分と早口に喋るものだから、もしかしたらここが、リリーの「興奮するポイント」なのかもしれないな、とアイラはぼんやりと思う。
「じゃあさ、女神様がアイラになんかやらかしたとか?で、神託っぽく謝ってみたとか」
ディックが笑いながらいう。
アルトは苦笑しながらも、それもメモに追加していた。
その後はみんなでああでもない、こうでもない、と話をしていたが、特に進展することもなく、一度、ちゃんと神官に見せるほうがいいだろう、という話になった。
「でも、すぐに会える方ではないと…」
「すぐにはね。でも会いたい、来てほしいと依頼を出せない人でもないから。いつになるというのは確約できないけど、とりあえず依頼を出しておくよー」
そうアルトがまとめたとき、コンコンコン、と扉がノックされた。
「はーい、だれー?」
アルトの声に、扉の向こうから帰ってきたのはビアンカの声だった。
「ビアンカです。アイラはそこにいますか?」
「いるよ。入ってきていいよ」
「失礼致します」
ディックが扉を開けて入ってきたビアンカの腕には、古い鞄が抱かれていた。
「あ…」
「本当は昨日のうちに届けたかったんですけれど、遅くなってごめんなさいね。中身を確認してもらえますか?」
それは、この研究室に来る前にお願いをしていた、父の鞄。
受け取って、中を見ると、ペンダントも、写真も、揃っていた。
写真のなかで子供の頃のアイラを抱いて微笑む両親を見ると、唐突に涙が溢れて、止まらなくなった。
「ごめんなさい」
こんなに愛されて育ったのに、人の愛を壊すような娘になってしまって。
「ごめんなさい」
尊敬していた父や母のような癒し手になるって約束、守れそうになくて。
突然泣き出したアイラを、ビアンカが抱き締める。
「び、ビアンカさま…」
「涙を流すのは大事ですよ。もしかしたら私の優しさが不安かもしれませんが、とりあえず今は、それは無視してください。たくさん、泣けるだけ泣いて」
泣いても貴方の罪は軽くならない、と言い切った時とは真逆の、優しい声と、背中を撫でられる暖かさに、アイラは少しだけとまどって、でも抗いきれずに声をあげて泣いた。
ごめんなさい。
私は、貴方たちに胸を張れる自慢の娘でいたかった。
アイラはそう、心の中で叫んだ。
泣いていたアイラが落ち着いた頃、ディックがニコニコと笑っていった。
「アイラの涙には魔力なさそうだね!」
「は?」
ちょっと剣のある声でビアンカが返す。
「いや、だから、アイラの涙には魅了に関係しそうな魔力は、とりあえず今の所見られなかったよ!っていう…」
さっきの状況で、ディックはアイラの涙を観察していたらしいという状況に、アイラはあっけに取られ、ビアンカは不快そうに眉を寄せた。
「ごめん、ディックのためにも少しだけ擁護させて」
と言ったのはアルト。
「ディックはね、もともとは人の体液、血とか汗とか涙とかに魔力が含まれているのか、もしくは魔力を意図的に含むことができるのかっていう研究をしているんだ」
「ほら、聞いたことないかな。血液が毒になる魔獣の話!あれ、通常時の血液には毒性がないんだ。でも、攻撃、もしくは防御のために流す血には毒が含まれる。今の研究では、血液を毒に変える魔法がその魔獣の血統魔法として確立しているのではないかって説が有力でね?あ、血統魔法っていうのは、簡単に言うと種族として引き継がれる魔法のこと。魔法の才能は子どもに遺伝しやすいって言うじゃん?これもある種血統魔法の一種じゃないかって言われてて…」
「ディック」
やっぱり早口で喋るのは、何か好きなものがある人の特徴なんだな、とアイラは改めて思う。父を含めると、同じような喋り方をするのは四人目だ。
アルトに名前を呼ばれてハッとした様子で、ディックはこほんと咳払いをした。
「と、とにかく。ほら、良く女の武器は涙とか言ったりするでしょ?それがただの戯言なのはわかってるんだけど、男性より女性の方が泣いてることに違和感がない気がしたから、アイラの涙に、魅了に関係する何か魔力が込められちゃったりしてないかなって思って、申し訳ないなーと思いながらちょっと魔力測定眼鏡で見ちゃってました」
「申し訳ないとは思ってないでしょ、貴方」
ミィのツッコミに目が泳いだあたり、思ってなかったのだろう。
まだ二日目だが、アイラは確信した。
ここには、間違いなく「魔法ばか」しかいない。
その確信がとても、心地よかった。
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