遥かなる遺言

和之

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長沼家の前の路は行き止まりの狭い雑木林に覆われていた。そこを何とか大型の搬送車が枝すれすれに入ってきた。運転手の小野は元は野々宮達と同じ仕事をしていたが、品格の良さに会社がベンツの運転手に彼を引き抜いた、と云う話を店長から聞いていた。確かに物腰の柔らかい男だった。
「どうえ小野さん狭いところでしょ、そやけど上手い事入れるなあさすがや」
 近くを通る国道と旧街道は車の往来が激しい。新しく出来た住宅街も道幅何メートルかの設置義務があるらしく建て込んでいない。だがこの家の周辺だけは規制が出来る以前の建物だから込み入って見通しが悪く、傍まで来ても家の大きさが分からないほど周りを雑木林が取り囲んでいた。
「上客らしいですね。今朝は中沢さんからあんたが迎えに行くて聴いて安心したと言ってましたよ。それにしても古い家ですね」
「小野さん、中はけっこう広いでっせ、木を全部切って更地にしたら三十坪ぐらいの家が八件ぐらい建てられますね、道路負担がなければもう五割は増やせる」
「そこまでは無理でしょう」
「中へ入ったら分かるけど。家が目立たないぐらい立ち木が多いにゃあ」
 野々宮と桐山は「お迎えに参りました」と長沼家を訪れた。小野はベンツを敷地内に乗り入れて会釈した。周りは手入れの行き届かない古い車が無造作に留めてあった。
「小野さん、お金は持ったはるのやけど、見たら分かる質素な生活や」
 最初、垣根越しに覗いた桐山は、入り組んだ不便な場所に建っている家を見て納得した。だが中は凝っている、建物でなく室内の趣が亡くなった主(あるじ)の趣味なのか年代物の掛け軸、欄間の凝った彫刻や黒光りする流木や木の根や盆栽。それと対比して娘が二人嫁いで、残った娘ひとりにしては他の飾りが華やかだった。ひょっとすると二人の娘も時々里帰りしているのか? ・・・あとの女性と云えば故人の奥さんと喪主の妻だが、誰か生けるのか床の間や玄関にさり気なく置いてある生花は初々しい。
 外見はともかく内装には異なる風格があった。あとの三人娘だが誰が既婚者で誰が未婚者なのか一瞥だけでは判らなかった。とにかく一家の主が去って数時間しか経っていない。あのばあさん以外はそんなに早く緊張がほぐれる訳もないと、小野と桐山は思った。
「娘さんはそうでもないですよ」と野々宮は言った。   
 桐山はそう云うこっちゃと小野に言いながら、三人は車から降ろしたストレッチャーを持って入った。
 娘たちの主人と弟の奥さんはまだ見えていないだけで顔ぶれは変わっていない。男手は喪主とその弟と我々三人の五人で車まで故人を搬送した。その間は喪主の妻が心配そうに寄り添った。祖母と孫たちは傍観者として立ちはだかった。病院で傘を差し伸べてやった一人の孫娘は、済ました目で腕組みをして突っ立っていた。この女だけは緊張しているのか冷静なのかまったく解らない。
 長沼家は弔問客が百人を超えると云うので、高野のホールでなくもっと規模の大きい天王町の白川ホールが葬儀会場になった。そこの控え室に安置された遺体は、祭壇の設営が終わり次第、棺に納棺されて三時までには祭壇の前に置かれた。

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