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なき故人の思い出の品で一緒に持って往ってもらいたい物があれば、棺に入れて下さいといっていたが、棺には古い書物が一杯詰まっていた。なんやこれはゴミ捨て場やなあと桐山は今までの納棺では初めてやと唖然としていた。
「本人にとっては捨てがたい大事なものなんでしょうね」と野々宮が口を挟む。
「だが家族には二束三文なんか」と桐山は呆れながら閉じた棺に合掌した。
「だからこそ一緒に棺に入れたんじゃないですか」
「そうか・・・あの若い娘なんか賽銭箱に金をいれるように薄い本を放り込んでいたなあ」
野々宮は内ポケットから四つ折りになった会員の家族名のコピーを桐山に見せて「この人が礼子とか云うそうです。そして上の姉が雅美(まさみ)と優子(ゆうこ)です」と家族欄を指し示した。
「訊いたのか?」
「いえ、喪主の弟さんが向こうからさっき話してくれたんです」
「今日初めて見たが、あの目立たん男やなあ。目立たん男と言えばさっきからこっちを伺う中年の男が居るんや此処の親族は知らん顔やから別の弔問客か?」
「何処ですか?」
「あっ、もう消えたなあ、まあええわ。それでどうなってる」
納棺の説明の時に喪主と一緒に立ち会ってくれて、その時に姪のことを話してくれた。
「孫娘の名前は全て亡くなった故人が付けたんです。長女と次女には優雅であれとの思いを込めて命名したそうですか、三女が生まれて欠けているものを加える意味で礼を尽くせとの意味合いが込められているそうです。それはそうとして喪主にすればたまらんでしょうね。わが子に親が口を挟み、三人とも命名されて。喪主は次の子はとの期待を抱いていましたが続かなかった。礼子のときにもっと自己主張すべきだったと、それが彼の最大の後悔として今も胸に焼き付いていると弟は言ってました」
「えらいとこまで聞けたなあ。それは野々宮、お前の特権やなあ」
「ハア?」
「誰でもお前を見たら安心してこの人には話し易いと思い込ませる。得な性格やこの仕事には打ってつけやのに、なんで坂下のように取れんのや、わしはお前が歯がゆいてならん」
返事を窮する野々宮に優しすぎると桐山は語り掛け、ええこっちやと付け加えたが、それでは喰っていけんと厳しく付け加える事も忘れなかった。
ーーだが晩年父は悔やんでいた。それは自分の思いを込めた三人の孫娘がその名に恥じない人生を送ってないことです。それを兄に厳しく問いただした。お前が甘やかしすぎた。云わいる監督不行き届きだなぜもっと躾けなかったと、学業半ばまで成長した三人には手遅れだったが、それでも父は是正を兄に迫ったが、その板ばさみにも娘達は快活に育った。それが返って兄の心の慰めになっていました。これで良いんだと口癖のように私が訪ねると云ってました。そして三人が成人するに至って、父は諦め傍観するようになって今日に及んでいる。父の死をもって、やっと兄は解放されたと思う。父は口で厳しく言ってもやはり孫は可愛く、娘達にはとうに諦めていたが、やはり兄の前では厳しかった。父の二面性に気付かず、兄は一言も愚痴ることなく、心の底に今まで重く圧し掛かっていた。それが弟の私には痛いほど身に浸みていた。
父は私に「孫達に箍(たが)を締めるにはあいつの重しが必要なんだだから黙っておれ」と言ってました。それから父は読書し多くの本に埋もれていきました。姪たちはそれを知っているから「おじいちゃんのいい思い出ね」と言って惜しげも無く本を投げ込んだのです。
言われてみれば姪たちには、そんな大らかな風情が漂ってると思いませんか。特に末っ子の礼子には要注意ですよ、普段はお嬢さんぶってますがつむじを曲げると、てこでも動かない感情の起伏が激しい子ですからねぇと言われました。
「そうには見えんが。まあ葬儀が終わるまでは何事もなく穏便に過ぎるやろ、我々には係わりのないこっちゃ。弟は入ってくれそうか?」
「その話はまだしてませんがそれとなく互助会の話をして臭わせてますあとは切っ掛けですね、まあ出棺が終わってからですね」
それでも喪主が主体で段取りははかどっていた。時々弟か奥さんが口を挟んでいた。三人の娘達は甲斐甲斐しく身の回りの世話を焼いているが、これから始まるひとつのセレモニーに今までの退屈な毎日が紛れると云わんばかりに動き回っていた。故人の妻は悲しみに暮れることなく主人に代わって主(ぬし)のように控え室に構えていた。喪主夫妻とその母は喪服に着替えていたが他の者は祭壇の設営が終わると一旦帰った。
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