遥かなる遺言

和之

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 二人はロビーの一角で一塊になってる長沼家を遺骨が安置してある部屋へ案内した。待機している当社の女性スタッフが出迎えて「持病もないようで綺麗なお骨ですよ」と遺骨の状態を説明する。そのあと遺族が順次箸で拾って骨壷に入れた。最後にスタッフが仏さんのような形をした喉仏を説明して入れた。骨壷は桐箱に納まり白布に包まれて、埋葬許可書と共に喪主に渡された。これであの偉大な人物も消えてしまった。そんな雰囲気を漂わせて一向は分乗したハイヤーでホールへ戻った。
 ホールに残った親族と合流して初七日の勤行が始まる。本当は一週間後だが親族が全国バラバラになってからまた集まるのも一苦労と云う趣旨に基づく。しかしご当家にはその配慮は必要ないが、もう少し一族を引き止める何かがあるらしい。
 勤行が終わると初七日の会食は料亭でなく当ホールの別室で始まった。一連の葬儀を終えて肩の荷がおりたところを見計らってここからがサブロクの会員獲得の営業がまた始まる。
 まずはビール片手に当家以外に訪問できる口実を作れる目ぼしい相手を探す。店長と手分けしてビールを注ぎまわる。ちょっとした端々の会話から葬式に関心を寄せてもらい、費用の相談まで持っていければシメタもの。ご当家はこれからも何度でも寄れる口実があるからそれ以外の人へアプローチして行ったが、初っ端で喪主にお墓の相談で捕まった。
 明後日でもゆっくり相談しましょうと言っても、向こうはそうもいかない。仕方が無いここで印象を悪くしたくない。喪主の父は近くの寺に生前に墓を建て菩提寺にしていた。だが先祖の墓は雪深い丹後の山村に在った。交通の不便な昔ならともかく道路が発達した今日では、近くまでは車で行けるが道の無いそこからが大変だった。雑草が生い茂る路を虫に刺されながら登ってゆく。私だけなら我慢も出来ようが老いた母や親戚縁者の為にもこっちの墓へ移したい。つまり実家の墓を移転する相談だった。
 父が生まれた丹後の家は長男が継いだ。三男の父は樺太から脱出してからこの街に落ち着いて一家を成した。次男は戦死し兄は四十で病死して一人息子が東京へ出てしまった。実家のお墓は兄嫁が昨年亡くなるまで守ってきた。その息子は寺の催促にも応じずひと月前には、寺から親の墓が無縁仏になりますと通知された。父は近くの寺の住職と相談して、そこに墓を作って移す前に本人が亡くなってしまった。今こうして親父の遺骨を前にして今日にも曾祖父と一緒にしたい。事情を知ってるのは妻と弟夫婦と母と娘三人だけだが、この宴席を抜けられるのは礼子ぐらいしかいない。礼子が案内するのでついてはあんたに一緒に行ってもらえんかと云う。他の親戚筋を差し置いて奇妙な相談を受けてしまった。
 手続きは代理の人に頼んで終わっている。墓は地元の業者がすでに処分して、遺骨だけはその代理の人が預かっている。
 店長に相談すると「要するに本人の骨と本人の親の骨を今日自宅に一緒に帰してやりたいと云うことか。遠いんか?」
「車で片道二時間、往復四時間、帰って来るのは夕方になりますね」
 店長の返事を待たずに会員四つは堅いです、うち二本は七千ですと付け加えると間髪入れず「直ぐ走れ! あとは俺がやっとく」と桐山は彼の背中を押した。
 了解を得ると喪主は礼子を手招きした。喪主は父が生前一番気にしていたのが祖父の荒れている墓だった。病床の中で父は余命が短いと悟り、田舎の知人に依頼したが親の遺骨が戻る前に亡くなった。夕べは慌ただしく話し合った。しかし結論が出なかったが、今日は葬儀の流れの中で次第に思いが募り決めた。それを礼子は承知した。この親子の短い話しで夕べは控え室で相当やりやった事が伺えた。
「分かったわ」と礼子は一言云っただけで「じゃあ野々宮さんお願いします」と急がした。 
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