振り向けば君がいた

和之

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第四話

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 第4話


 経営者の山村が住む路地の突き当たりの家を本宅と呼んでいた。この家には山村と次女が住んで居る。家事は近所で通いで来るおばさんに任せていた。此の本宅には他に八人の住み込みの女性がいた。
  本宅の向かいに有る家の一階表側を事務所として使ってる。その奥と二階が男性用の寮になっていた。野村が入って五人になった。
 一階の奥は独立した一部屋として野村より一つ年下の白井義則(よしのり)が使っていた。彼は暇さえ有ればギターを弾いていた。事務所と白井との間だには通路を挟んで片側が庭でもう一方が階段とトイレそれと湯が止めてある風呂場があった。二階は真ん中の階段を挟んで二つの広い部屋があり、それぞれ襖で分けてあった。彼の部屋は二部屋続きなので入り口側には通路としてカーテンが掛かっていた。奥の部屋の睦夫(むつお)さんは四つ年上だが気さくな人物で何かするにも率先して遣ってくれる。深山陽介も事務所の二階に住んでいる。その手前の部屋には黒川がいる。彼だけはどことなく絵描きらしくなかった。                             
  本宅の玄関近くの応接間と居間、台所に繋がる場所が自由に出入りできた。応接間でレコードを聴いたり、居間でテレビを見たりと自然と寮の男女の憩いの場にもなっていた。
 本宅の有る路地の六軒向こうに工場があった。工場には通いと住み込み合わせて二十人ばかりの友禅の職人がいた。大半が二十代で六割が女性だった。
 普段は黙々と白生地の反物に絵を描く仕事だから聾唖者かと思うほど静かな職場だった。それが昼休みになると一斉にセミが鳴り出したように賑わうから最初は戸惑った。それと同時にそれぞれの個性が解った。女性を顔で順位付けしていたが、此の時に順位がだいぶ入れ替わった。だが希美子が一番人当たりが良くて気に入った。彼女の他にも数人ぐらい顔立ちの良い子が居たが喋り出すと品位が落ちた。気になるのは希美子さんが付き合ってる深山さんだ。だが上司だから色々と相談が出来る。その都度傍に居る希美子さんにも気軽に接しられた。その反動で陽子には適当に接した。それでも陽子は小言を言わず笑って観てくれる。野村にすれば心が穏やかではないが直ぐに希美子の顔を見れば吹っ飛んでしまう。
 希美子さんはどうも寡黙で真っ直ぐな人が良いらしい。彼女に言わせれば男の喋りはみっともないらしい。此の職場で野性的な人間は全てふるい落とされて深山さんしか残ってなかった。だけどべったりでもなく、二人の間には野村しか入り込めない隙間があった。
 その隙間とは彼女、波多野希美子の性格、生き方にあった。希美子は男にすがるタイプではなく、むしろ磨きを掛けて育てる方だった。だから野村の未熟さは彼女の母性本能も刺激してほっとけないらしい。    
 本宅には三十代の女性は一人だけで後は二十代ばかりだった。だから寮に住み込んでから野村の生活環境は一変した。まず朝昼晩の食事が賑やかになり、しかも若い女性と一緒だから華やかにもなった。なんせ二十歳前の野村には色々と気を遣ってくれた。特に希美子は姉のような存在だった。
 寮に居る他の四人の男性の内、白井を除く三人には同じく本宅の寮の女性と三組のペアがすでに出来上がっていた。十代の白井だけはまだ女よりギターに熱を上げていた。
  ここへ来てまだひと月と云うのに、寮に入ってからは毎日会ってるせいで希美子とは随分親しくなった。特に共用部分では順番待ちでかち合う事が多い。風呂は男女が途切れるまで順繰りだが、衣類の洗濯は洗濯機が一台だから空いた順で使う。野村が洗濯中に希美子が次に使うからと急かして来たことがあった。全自動じゃなかったから一々操作に行かなけゃあならなかったが途中から席を外した。彼女は呼びに行くのが面倒になり脱水までして持って来てくれた。
「深山さんのさえ洗濯した事が無いのにあたしに何て事させるの」と向かいの男子寮で偶然通りかかった睦夫さんに呼び出して持って来てくれた。それが寮に来て一週間目だった。此の時は「パンツ減ってない?」「ばかね!そんな趣味ないわよ」と云う会話で彼女は困惑して慌てて帰っていった。他の子なら洗濯機止まってるわよと怒鳴り込んで来るだろうし、代わりに遣っても洗濯物に張り紙をして暫く口を利いてくれないだろう。それは後で睦夫さんが部屋に来て話してくれた。
「うちの寮の本宅の女の子が洗濯物洗ってくれたんは野村君が初めてやで、まして希美ちゃんはああ見えてもイヤな事はイヤやとはっきりしてる子やのに・・・」と何でやろなあと不思議がってた。
  それはこっちが訊きたいところだが黙殺した。
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