振り向けば君がいた

和之

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第三十一話-2

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「そんな理不尽な」
「そう、そう云う土地柄なのあそこは」
  と彼女は快走する車窓を眺めて当てもなくポツリと言った。
 絵の仕事がしたいから出て来たのに本当は別に有ったのかも知れない。
    二人は暫く人生の様に流れ行く車窓を眺める。
「この前の柏木さんの帰りに汽車に乗って日帰りの短い旅でもしないって誘われた時、なら天橋立もいいと思ったけど、何も無い丹後の山里を指定した時は驚いたよ」
「本当のお母さんを紹介すると言えばあなた一つ返事で承諾したでしょう。それには私は驚いた、だってあなたに身構えられたらなんて答えていいかあれほど悩み抜いたのをあなたは全く知らぬげに返事をしたから調子抜けしちゃった」
「・・・」
 あの時の野村は失望されない為に間を空けず返事した。しかし本当はどう云う訳かと今も考えている。
「肝心な時になると返事しないのね黙んまりやさん」
「嬉しかった」
  と慌ててとにかく気持ちだけは伝えた。
「それだけ。・・・つまらない人ね」と彼の陰った顔を見て「でも男の喋りは私に言わせればみっともないから」と咄嗟に付け加える。
「でも深山さんの場合は難しい話よりおどけた話の方が多いですよね、あれは間が空かないようにあの人なりに気を遣ってるんですよ」
「あの人はなんであたしにまでそんな話し方をするの、見ていてイライラする」
「それを深山さんに言いました」
「言わなけゃあそうしてくれないのなら言わない方がいい」
「波風を今更立ててもしょうがない、そうなんですか」
「そうね、それでも繋ぎ止める原動力があの時はまだ残っていた事が不思議ねぇ。当に色落ちしてしまったものにいつまで惹き摺るのだろうって。色落ちしない恋が見つかる迄?果たしてそんな人が居るのだろかって昔は思っていて中々手放せなかったかも知れないわね」   
「最初の商品を抱えたままバーゲンセールで別の掘り出し物を探しているみたいやなあ」
 彼女は少し笑って骨董品と言い返した。
「骨董品は磨く必要があるんやろうなあ」
「そうでしょうね。暗い土蔵や土の中に眠っているんですもの。だから着物も同じ、最初に乗せる一筆の色を考えるでしょう。何百年も色落ちしないのだから、そんな恋がしたいわね。その見極めをつけたい、そのさいは彷徨《さまよ》わぬ恋がしたい」
 彼女は真面《まとも》に野村を見た。
「色落ちしない恋ってあるんですか」
 彼は少し照れ笑いを浮かべた。
「だから何度でも磨き直すのよ」
「メッキが剥がれますよ」               
「掛け値なしのあなたなら大丈夫よ」 
  自信ありげな希美子のこの言葉は頼もしかった。
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