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プロローグ
まもの使いと大悪魔
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夢を、見た。
俺こそが、唯一の恐怖である。
恐怖とは、己が他者にもたらすもの。
ずっとそう、思っていた。
まさか、俺が恐怖を感じることになるとは思いもしなかった。ああ、そうだ恐ろしい。とてつもなく恐ろしい。怖い、怖くて恐ろしいものが俺を覆い尽くしてゆき──
「余は、魔族の大王なり。
不滅となりし大悪魔を像に封じ、闇の秩序を護ろうぞ……」
カ、カラダが石になる。意識が沈む、崩れる、千切れ、途切れ……
「──ぐああああっ!!!」
「あ、目が覚めた?オハヨウ!アタイはアオハっていうんだ。アタイまもの使い志望でさ、いろいろ理由はあるんだけど、まず伝説の大悪魔である君を仲間にしたくって!それでなんとかここまで来て、君の封印を破っちゃったの。エヘ、スゴいでしょ!アタイのことは、モンスターマスター・アオハって呼んでくれても、フツーにアオハって呼んでくれても構わないよー!で、で!君の名前は?てか覚えてる?ま、いいや後で教えて!教えてくれるなら好きな食べ物とごシュミと得意なワザと好きなタイプのモンスターも知りたいな!ぜったい教えてよねっ。あーそうそう、えっとね……それからそれから」
「があああーーー!!!
だーッ!もう!うるッさいわァーーー!!!」
気が付けば、俺はどことも知らぬ荒れ地に居て、見知らぬ女に詰められていた。
彼女の肌は健康そうな小麦色、瞳は温かなオレンジ色で、髪は鮮やかな深緑。
カラフルな服装をまとっていて、暗黒の巣食う荒れ地にはどこか不釣り合いに見えた。
そんなヤツが、目をキラッキラに輝かせてガンガンまくしたてる。
俺はどれぐらい封印されていたのかとか、そもそもここは何処なのか、とか。そういうのを疑問に思う間もなく、マシーン・ガットリングの弾丸のように言いたいことと質問とを投げ掛けてくるのだ。
封印から解けた戸惑いと、状況の移り変わりの驚きでしばらく黙っていたが、そんなわけで俺はついに声を荒げた。というより、たまらず音を上げた、というほうに近い。
「おおう。そうだよね、封印から解けたばっかりってことは、意識も今目覚めたばかりってことよね。いろいろ話しすぎて、混乱させちゃったかな……?」
「おう!メチャクチャ混乱しとるぞ!
わかってくれて実になにより。じゃあひとまず黙ってくれないかな!情報が、情報が押し寄せてきててな!」
「まあまあ、落ち着いて落ち着いて。
どーう、どうどう……」
「俺は邪角ウマか何かではないぞ!!!」
──魑魅魍魎や悪鬼羅刹、怨霊悪霊に魔物に怪物が跋扈せし大魔界に聞こえたる、伝説のひとつ。
暗黒の森に封じられるは、いにしえの大悪魔。悪逆と滅びの限りを振り撒いたる其れは、大魔界の王者によって野望半ばで食い止められる。
もし彼の者を憐れみ、石解きの呪文を唱えるならば、暴虐非道なる大悪魔とて心より主人に仕え、いかなる望みをも果たさん。
「伝説を頼りに、山越え谷越え旅をしてきたんだ。そしてようやく君の封印を解けたんだし……仲間になってくれるかなって!」
「……えっと、普通にイヤだけど……」
「……えーっ!?」
えーっ!?はこっちのセリフだが?
誰だ、こ、こんな伝説を流したヤツは!
俺は魔物どもを従えはすれど、誰の仲間になる気もないぞ!?
いや、まさか……
「闇の神か!」
目覚め際の俺のこころに呼びかけてきた闇の神ならば、俺の復活の為に色々と目論んでくれていてもおかしくはない。それにしても、こんなおかしなヤツを寄越すことはないだろうに!
「……ヤミノカミ?あー、アタイの夢に出てきたモヤモヤがそう名乗ってたかも?大悪魔を仲間にしろって。そうしたら、アタイの夢を叶えてくれるよって」
ビンゴじゃ!当たりじゃ!もうイヤじゃ!
どうする……コイツが封印を解いてくれたのは、調子のよい闇の神の思し召しなのが確定した。ならば何か、俺がコイツの仲間になるのにも意味があるのではないか。
……よく考えなくても考えても、コイツは変すぎる。
伝説の大悪魔相手に全く物怖じせず、たったひとりで俺の封印を解きに来た。
「……アオハ、でいいんだよな。お前の夢ってなんなんだ?
伝説の大悪魔が仲間になるとして、お前はそれに何をさせたいんだ?」
そう質問すると、彼女は待ってましたとばかりに鼻の穴を膨らませた。
「アタイはね。究極のモンスターを見てみたいの!」
「究極のモンスター……死霊の親玉だとか、ドラゴンエンシェント、それこそ魔王と呼ばれし怪傑どものことか?」
「ううん、それらを更に超えた存在……誰も知らない、モンスターたちの頂点。……大魔界中のモンスターたちを集めてさ、君が配合術を用いれば、それが叶う。どんなモンスターだって作れるんでしょ?ヤミノカミからそう聞いたんだ」
「……そういうことか、闇の神め」
配合術──モンスターとモンスターを組み併せる秘術。キメラを造るような理論の秘術とは違い、配合された二体の魔物は、意識もチカラも統一された“個体”として一体に生まれ変わることになる。
例えば、弱いドラゴンと弱いドラゴンを組み併せて、より強いドラゴンを創る。か弱いはずのムシの魔物に、熟練の魔法使いの技を覚えさせる。四つ足の魔獣と死んだ騎士を組み併せれば、肉の腐り落ちた獰猛に暴れ狂う魔獣戦士のできあがり。
そう云うものだと、チカラとともにアタマに流れ込んできた知識で理解した。
突き詰めれば、今では滅んだ伝説のモンスターでさえ配合により創成できる。
だが彼女は、アオハは……その先のモンスターを目指しているのだという。そして闇の神のお願いというのは……創ること……いや、創り“直す”だったか。
何を、というのは聞かされていないが、授けられたプレゼントたるこの配合術に、究極のモンスターを作りたいというアオハを遣わすということは……彼女と目的を共にすることが、闇の神の目的達成に近付くというわけだ。
────これで、君だけのモンスターの軍勢を成せるってことさ。……デキレバ ダケドネ。
闇の神の言葉が思い出される。
つまり、俺だけの軍勢を作る、というよりは……
まもの使いアオハの仲間に、俺も加わるということになるのだろう。そしてそれは……俺の野望の実現にも、手っ取り早いように思える。
「わかった。お前には俺を解き放ってくれた恩もある……」
あまねくモンスターをかき集める、長い旅になるだろう。
「闇の神の思し召しもあるんだ、仲良くやろうじゃないか」
モンスターを集め、仲間を増やし、俺も強くなり……
「俺の名は……フィク…………フィクだ。
よろしくな、マスター・アオハ!」
この俺を封印した、憎き魔族の大王に……
「うん、よろしくねフ「ーイン、解いたね」
恐怖と絶望の煮詰まった復讐を果たし……えっ?
「えっ?」
いつの間にか、俺達の背後数歩に大樹が生えていた。
……生えていた?いや、この荒れ地に植物なんか生えるはずもない。し、そもそも生えていなかった。
しかしそこに居る大樹は、黒ぐろとした葉っぱを茂らせ、立派な枝がうねうねとして……
「大悪魔のフーイン、解いたね?」
しかも顔が付いて、流暢に喋り……
「じゃあ仕方ないね!!ひねりつぶしてやるよ!!」
根っこでドタンバタンと歩み寄ってきた!!?
「アオハ!今の俺にはチカラがない!
ここはとっとと逃げるぞ、ってもう結構遠ォー!!!」
「フィク!こっち!早く逃げてってば!!」
──大魔界。
はるか遠方の巨大な灯台に宿りし、邪悪な大火炎に背を照らされて、一人と一匹がドタバタと走り出す。
これが、まもの使いアオハと大悪魔フィクの、冒険の始まりであった。
俺こそが、唯一の恐怖である。
恐怖とは、己が他者にもたらすもの。
ずっとそう、思っていた。
まさか、俺が恐怖を感じることになるとは思いもしなかった。ああ、そうだ恐ろしい。とてつもなく恐ろしい。怖い、怖くて恐ろしいものが俺を覆い尽くしてゆき──
「余は、魔族の大王なり。
不滅となりし大悪魔を像に封じ、闇の秩序を護ろうぞ……」
カ、カラダが石になる。意識が沈む、崩れる、千切れ、途切れ……
「──ぐああああっ!!!」
「あ、目が覚めた?オハヨウ!アタイはアオハっていうんだ。アタイまもの使い志望でさ、いろいろ理由はあるんだけど、まず伝説の大悪魔である君を仲間にしたくって!それでなんとかここまで来て、君の封印を破っちゃったの。エヘ、スゴいでしょ!アタイのことは、モンスターマスター・アオハって呼んでくれても、フツーにアオハって呼んでくれても構わないよー!で、で!君の名前は?てか覚えてる?ま、いいや後で教えて!教えてくれるなら好きな食べ物とごシュミと得意なワザと好きなタイプのモンスターも知りたいな!ぜったい教えてよねっ。あーそうそう、えっとね……それからそれから」
「があああーーー!!!
だーッ!もう!うるッさいわァーーー!!!」
気が付けば、俺はどことも知らぬ荒れ地に居て、見知らぬ女に詰められていた。
彼女の肌は健康そうな小麦色、瞳は温かなオレンジ色で、髪は鮮やかな深緑。
カラフルな服装をまとっていて、暗黒の巣食う荒れ地にはどこか不釣り合いに見えた。
そんなヤツが、目をキラッキラに輝かせてガンガンまくしたてる。
俺はどれぐらい封印されていたのかとか、そもそもここは何処なのか、とか。そういうのを疑問に思う間もなく、マシーン・ガットリングの弾丸のように言いたいことと質問とを投げ掛けてくるのだ。
封印から解けた戸惑いと、状況の移り変わりの驚きでしばらく黙っていたが、そんなわけで俺はついに声を荒げた。というより、たまらず音を上げた、というほうに近い。
「おおう。そうだよね、封印から解けたばっかりってことは、意識も今目覚めたばかりってことよね。いろいろ話しすぎて、混乱させちゃったかな……?」
「おう!メチャクチャ混乱しとるぞ!
わかってくれて実になにより。じゃあひとまず黙ってくれないかな!情報が、情報が押し寄せてきててな!」
「まあまあ、落ち着いて落ち着いて。
どーう、どうどう……」
「俺は邪角ウマか何かではないぞ!!!」
──魑魅魍魎や悪鬼羅刹、怨霊悪霊に魔物に怪物が跋扈せし大魔界に聞こえたる、伝説のひとつ。
暗黒の森に封じられるは、いにしえの大悪魔。悪逆と滅びの限りを振り撒いたる其れは、大魔界の王者によって野望半ばで食い止められる。
もし彼の者を憐れみ、石解きの呪文を唱えるならば、暴虐非道なる大悪魔とて心より主人に仕え、いかなる望みをも果たさん。
「伝説を頼りに、山越え谷越え旅をしてきたんだ。そしてようやく君の封印を解けたんだし……仲間になってくれるかなって!」
「……えっと、普通にイヤだけど……」
「……えーっ!?」
えーっ!?はこっちのセリフだが?
誰だ、こ、こんな伝説を流したヤツは!
俺は魔物どもを従えはすれど、誰の仲間になる気もないぞ!?
いや、まさか……
「闇の神か!」
目覚め際の俺のこころに呼びかけてきた闇の神ならば、俺の復活の為に色々と目論んでくれていてもおかしくはない。それにしても、こんなおかしなヤツを寄越すことはないだろうに!
「……ヤミノカミ?あー、アタイの夢に出てきたモヤモヤがそう名乗ってたかも?大悪魔を仲間にしろって。そうしたら、アタイの夢を叶えてくれるよって」
ビンゴじゃ!当たりじゃ!もうイヤじゃ!
どうする……コイツが封印を解いてくれたのは、調子のよい闇の神の思し召しなのが確定した。ならば何か、俺がコイツの仲間になるのにも意味があるのではないか。
……よく考えなくても考えても、コイツは変すぎる。
伝説の大悪魔相手に全く物怖じせず、たったひとりで俺の封印を解きに来た。
「……アオハ、でいいんだよな。お前の夢ってなんなんだ?
伝説の大悪魔が仲間になるとして、お前はそれに何をさせたいんだ?」
そう質問すると、彼女は待ってましたとばかりに鼻の穴を膨らませた。
「アタイはね。究極のモンスターを見てみたいの!」
「究極のモンスター……死霊の親玉だとか、ドラゴンエンシェント、それこそ魔王と呼ばれし怪傑どものことか?」
「ううん、それらを更に超えた存在……誰も知らない、モンスターたちの頂点。……大魔界中のモンスターたちを集めてさ、君が配合術を用いれば、それが叶う。どんなモンスターだって作れるんでしょ?ヤミノカミからそう聞いたんだ」
「……そういうことか、闇の神め」
配合術──モンスターとモンスターを組み併せる秘術。キメラを造るような理論の秘術とは違い、配合された二体の魔物は、意識もチカラも統一された“個体”として一体に生まれ変わることになる。
例えば、弱いドラゴンと弱いドラゴンを組み併せて、より強いドラゴンを創る。か弱いはずのムシの魔物に、熟練の魔法使いの技を覚えさせる。四つ足の魔獣と死んだ騎士を組み併せれば、肉の腐り落ちた獰猛に暴れ狂う魔獣戦士のできあがり。
そう云うものだと、チカラとともにアタマに流れ込んできた知識で理解した。
突き詰めれば、今では滅んだ伝説のモンスターでさえ配合により創成できる。
だが彼女は、アオハは……その先のモンスターを目指しているのだという。そして闇の神のお願いというのは……創ること……いや、創り“直す”だったか。
何を、というのは聞かされていないが、授けられたプレゼントたるこの配合術に、究極のモンスターを作りたいというアオハを遣わすということは……彼女と目的を共にすることが、闇の神の目的達成に近付くというわけだ。
────これで、君だけのモンスターの軍勢を成せるってことさ。……デキレバ ダケドネ。
闇の神の言葉が思い出される。
つまり、俺だけの軍勢を作る、というよりは……
まもの使いアオハの仲間に、俺も加わるということになるのだろう。そしてそれは……俺の野望の実現にも、手っ取り早いように思える。
「わかった。お前には俺を解き放ってくれた恩もある……」
あまねくモンスターをかき集める、長い旅になるだろう。
「闇の神の思し召しもあるんだ、仲良くやろうじゃないか」
モンスターを集め、仲間を増やし、俺も強くなり……
「俺の名は……フィク…………フィクだ。
よろしくな、マスター・アオハ!」
この俺を封印した、憎き魔族の大王に……
「うん、よろしくねフ「ーイン、解いたね」
恐怖と絶望の煮詰まった復讐を果たし……えっ?
「えっ?」
いつの間にか、俺達の背後数歩に大樹が生えていた。
……生えていた?いや、この荒れ地に植物なんか生えるはずもない。し、そもそも生えていなかった。
しかしそこに居る大樹は、黒ぐろとした葉っぱを茂らせ、立派な枝がうねうねとして……
「大悪魔のフーイン、解いたね?」
しかも顔が付いて、流暢に喋り……
「じゃあ仕方ないね!!ひねりつぶしてやるよ!!」
根っこでドタンバタンと歩み寄ってきた!!?
「アオハ!今の俺にはチカラがない!
ここはとっとと逃げるぞ、ってもう結構遠ォー!!!」
「フィク!こっち!早く逃げてってば!!」
──大魔界。
はるか遠方の巨大な灯台に宿りし、邪悪な大火炎に背を照らされて、一人と一匹がドタバタと走り出す。
これが、まもの使いアオハと大悪魔フィクの、冒険の始まりであった。
応援ありがとうございます!
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