悠々自適な高校生活を送ろうと思ったのに美少女がそれを許してくれないんだが

逸真芙蘭

文字の大きさ
80 / 88
恋慕日記

相当あれだろ

しおりを挟む
 日本人は集団化が好きだ。
 陰キャだ、陽キャだ、ウェイだ、リア充だ、と。
 人間の集団を型に当てはめようとする心理は、どのようなものだろう。思えば、学生に制服を着せるというのも、そのような日本人の性格特性を形成する、一因となっているのかもしれない。
 未知のもの、というものは至極恐ろしく感じられる。型に当てはめて、とりあえず分類してしまえば、心理的には一応の理解ができたと思える。それを考えると、大まかな枠に当てはめるという行為も、ある程度は正当化されるのだろう。
 しかし、行き過ぎは良くない。単に、グループ化するだけならば、問題は生じようもないのだが、その行為には多分に、排他的で、差別的な思惑が入り交じる。
 オタク⇒根暗⇒キモい、みたいなものは、それの最たる例だ。
 偏見と、蔑視を以て、人々を十把一絡げに分類するのは、愚か者の所業だ。誰しも、よく関わりもしない人々を馬鹿にすべきではないし、多くの場合で、相容れない考えを持つように思えた人のことも、深く関わりを持って、そのを知れるようになったら、ストンと腑に落ちる説明ができる。
 だから、この耐え難い、苦行とも言うべき時間を、俺は甘んじて受け入れなければならない。

 そのような説明を自分自身にして、なんとか理性を保っていた。
 場所は、卒業式練習中の体育館。卒業式前日のことだ。
 俺は、ある一組のカップルに挟まれて、パイプ椅子に座っていた。彼らがイチャイチャ、話をしているのを、練習中も、この休憩時間中も聞き忍んでいた。女のほうが、体を揺らして、パイプ椅子を軋ませる度、「ギシギシいわせるのはベッドだけにしろよ」と心の中で毒づきながら、まぶたをピクピクさせていたのだ。
 そのような否定的な考えを持つことは、自身の人間性を貧しくするのかもしれないと思って、彼らがこのような公共の場で、だらしのないことをしているのにも、なにか深い訳があるのだろうと、自分なりに考えていた次第である。
 ……。
 うん、やはり無理だ。
 
「今日、午後休じゃん。カラオケでも行こうよ」
 と男が女に言った。
「えー、行っても結局いつもあまり歌わないじゃん」(意訳:私の体触ってばっかりなんだから♡)
「えー、いーじゃん行こうぜ」(意訳:おっぱいおっぱいおっぱい)
「まーいーけど」(意訳:もうエッチなんだから♡)

 長時間暇にされたせいで、俺の頭も狂っちまったらしい。画面下に変な字幕が出てくる。ブラウン管テレビみたく、こいつらを叩けば治るだろうか。いや、治らなくてもいいから叩いてやりたい。何が楽しくて、カップルに挟まれた状態で、彼らのイチャイチャを見物しなければならないのだろうか。
 おそらくこいつらは、蛍が尻を光らせる、という歌詞に興奮してしまったのだろう。虫の求愛ダンスをスコットランド民謡に組み込み、それを卒業式という真面目な式典で歌わせるのだから、日本人というのは変態に違いない(ほとんど歌われることの無い、三番四番はある意味もっと過激だが)。
 ……なるほど。蛍を見て人が興奮するのは、それが暗喩的に性行為を意味しているからか。であるならば、異性に「蛍を見に行こう」と口説かれたら、警戒した方がいい。かなりの確率でそいつは下心を持っている。これは真に近いだろう。

 ……俺は何考えているんだか。

 立っては礼をし、座って、立って、歌って、礼。それを何度か繰り返して、開始から三時間ほど経ってから、開放された。
 午後は休みである。せっかく時間が出来たので、たまには一人で名古屋にでも繰り出すか。

 一応部室には顔を出しておこうと思って、ホームルームが終わってすぐに、雄清と一緒に部室棟へと向かった。
 部室に入ったところ、綿貫と佐藤が椅子に座って、談笑していた。
 いつも通りに、軽く挨拶をして、俺たちも席に着く。

「深山さん今日は運動なさいますか?」
「いや、今日はすぐに帰ろうと思う」

 そこで雄清が、
「それにしても、一年というのは早いねえ。この前入学したばかりだと思っていたのに、もう三年生が卒業しちゃうなんて。感慨深くもなるよ」
 といった。
 確かに、この一年は、目の回るような忙しさのためか、あっという間に過ぎていった気がする。
「でも、卒業した後に、携帯電話の使用が解禁されるなんて、ちょっとかわいそうじゃない?」
 と佐藤が言う。
「そうか? 別に携帯電話が学校で使えないからと言って特に困ることはないだろうが」
「そりゃ、あんたは持ってないからそんなことが言えるんでしょうが」
「持ってなくても困らんという事は、別に使わなくても困らんということだ」
「……そうだけど」
「というか、俺は別に持ってないわけじゃないぞ」
「えっ、だってあんた」
 佐藤他、綿貫と雄清も眉をひそめた所で、俺はポケットから、真新しいスマートフォンを出した。
「買ったんだ?!」
「買ったというより、買ってもらったという方が適当だな」
 そうなのだ。俺もとうとう時代の波に流されて、この電脳機器を手にすることになってしまった。
「僕も知らなかったんだけど」
「今初めて言ったからな」
 がたっと音を立てて、綿貫が立ち上がった。
「あのっ」
「どうした綿貫?」
「深山さん、連絡先……」
 そう言って、頬を赤く染めている。
「ああ……うん」
 そう言って、俺は震える手つきで、綿貫と連絡先の交換をし、また、雄清の電話番号を入力して、その様子を見ていた佐藤と目が合い、「別に、あんたとなんか連絡なんて取らないでしょうけど、万が一にも緊急事態が発生した時には、連絡するかもしれないから、交換してあげる」とツンデレのテンプレのような態度で、スマートフォンを差し出してきた。
 そんなわけで、デフォルトで入っている夏帆ちゃんの連絡先の他、両親に加え、綿貫、雄清、佐藤の連絡先が、俺のスマートフォンに記録されることになった。
 まあ、佐藤の言ったように、俺は必要のない限り、連絡しないようにするつもりだ。
 スマートフォンを手に入れてから、俺が覚えた教訓は、連絡は頻繁にするものではないということだ。
 夏帆ちゃんに、おはようからおやすみまで、ライオンの提供をしたところ、しまいには既読すらつかなくなった。いや、多分忙しいんだろう。そうだ相違ない。いやそうしよう。


 家に帰ってから、私服に着替えて、すぐに外に出掛けた。三月上旬でまだ少し寒いが、それでもコートを着る必要がないくらいには、空気はぬるんでいた。自転車を漕いで、最寄り駅へと向かって、名古屋行の電車に乗る。
 平日の昼間とあって、電車はいている。適当な席に座って、窓枠に肘をつけ、外の風景を眺めていた。
 
 名古屋についてホームに降りてから、さて何をしようかと考える。……特に目的もないまま家を出てきたので、何をすればいいかわからない。まあいい、適当に散歩でもしよう。そう思って、桜通口を出て、真っすぐ進んでいった。

 スマートフォンを耳に当ててせかせかと歩いていく、ビジネスマン風の男。
 腕を絡ませて、ちんたらと歩いている、大学生風の茶髪カップル。
 硬いセラミックスの路面に、高いヒールをコツコツと響かせて歩く、スーツ姿の女性。
 姿も、身分も百人百様だが、誰しも何かしらの目的を持って、歩いているには違いない。
 この街を歩いている人間で、俺のように何の目的もなくぶらついているようなやつはどれくらいいるのだろうか。

 そんな事をぼんやりを考えながら、歩を進めた。

 三十分ほど歩いたところで、テレビ塔が見えてきた。そしてガラス張りの巨大な楕円状の構造物が目に映る。オアシス21だ。それを見て、ここが栄であることを理解する。栄で買い物をしたことはない。特に何か必要なものがあるわけではないが、見て回ることにした。

 ぐるりとオアシス21を見たあとは、近くのカフェに入って、読みかけの本をやっつけてから、名古屋駅へと戻っていった。特に何かしたわけではなかったのだが、不思議と俺は充実した気分で居た。

 名古屋からまた、電車に乗って家へと帰る。だいぶ日も延びてきて、一カ月前はこの時間でも、暗かったと思うのだが、西の空には、赤い光がまだ沈まずに見えていた。
 
 清州城やビール工場を見たあとぐらいだったろうか。俺と同年代くらいの女子の会話が耳に入ってきた。俺の後ろの席に座っているらしい。声の様子から、三人組だろうか。学校がどうとか、うちの先生はおかしいだとか、そんな話だ。よくあるティーンエイジャーの会話だ。特に意識して聞くようなことではないので、そのまま窓の外をぼーっと眺める。
 それでも彼女らの会話は耳に入ってくる。

「ていうか、カホって彼氏とはどうなの?」
 カホ、か。まあ、よくある名前だ。乗った電車に、妹と同名の女子が、近くの席に座る確率は、それほど低いわけではないだろう。俺の妹であるはずがない。何せ俺の妹は大阪にいるのだから、こんなところで、だべっているわけがないのだ。
「まあ、それなりに」
 カホちゃんとやらが答えたらしい。声まで俺の妹に似ている気がする。
「って、そのホーム画の人が彼氏?」
 おそらく、スマートフォンの画面を開きながら会話をしていたのだろう。
「違う違う。さすがに彼氏の写真は、ホーム画面にはできないよ。恥ずかしいもん」
「ふーん。じゃあ、それだれなの?」
「お兄ちゃん」
「は?」
 周りの友達は、耳を疑う、というような感じの反応を見せた。俺も大方そんな気持ちだ。あるいは、鬼威ちゃんという、珍しい苗字なのかもしれない。
「わたしのお兄ちゃん」
 ……。
 とんだ、ブラコンだな。妹をブラコンにしてしまうとは、どうしようもない兄貴には違いない。自立を促すためには、時に鞭を打つ必要があるのだ。
「いやいやいや、普通自分の兄を、携帯のホーム画にする方が恥ずかしいでしょ。ていうか、見た人十中八九それ彼氏だと思うよ」
「そうかな? 私的にはなかなか自慢の兄なんだけれど。頭いいし、基本的にハイスペックだし。最近はスマホ買ってもらって、はしゃいでいるのか知らないけど、メール頻繁にしてくるのが少しうざいくらい」
 なんか、胸に刺さるなあ。どうしてだろう。

「……まあ、顔は悪くないけど」
「それにすっごく優しんだよ。多分、荷物が重いから、迎えに来てって言ったら、来てくれると思う」
「ほんと?」
「やってみよっか」
 そのカホちゃんは、そのどうしようもない兄貴に電話をかけたらしく、後ろの席はしばし無言になった。

 須臾の後、俺のポケットが振動した。
 スマートフォンを取り出して開いてみた所、愛しの夏帆ちゃんからの着信である。
 耳にそっと当てる。

『お兄ちゃん、今日愛知に戻ってきたから、駅まで迎えに来てくれない? どうせ家にいるんでしょ』
 俺は何も言わずに、スマートフォンの電源を切り、席から立ち上がって、後ろの席を覗いた。
 そしてこう言った。
「電車内で電話なんかするな」
 三人の少女は、至極驚いた顔をしたが、真ん中にいた、ある一人の超絶かわいい美少女だけは、そのあと顔を真っ赤にしていた。
 
 


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい

沢尻夏芽
恋愛
 自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。  それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。 『様子がおかしい』 ※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。  現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。  他サイトでも掲載中。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...