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恋慕日記
今までで一番きつい局面だろう
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俺は夏帆ちゃんの言った意味が分からなくて、しばらくポカンとしていたのだが、
「……今はふざけているときじゃないだろうが」
と諫めるように言った。
「私は真面目よ」
「大体、何を根拠に」
「じゃあ聞くけど、私と萌菜さんが初めて会った時のこと覚えている? クリスマスイブに映画を見に行った時の事」
「……ああ」
俺は、ハリウッドの名作スペースオペラの最新作がみたいと言ったのに、夏帆ちゃんに押されて、甘ったるいラブロマンスを見させられた時の事だ。
「映画見た後、確か三人でカフェに行ったじゃない?」
「ああ、行ったな」
「お会計の時、萌菜さんが何か落としたの覚えている?」
会計の時?
随分前の記憶だから、ぼんやりとしか思い出せない。ゴージャスな財布を出した萌菜先輩が、その財布から落とした物……。
「……映画の前売り券」
「そう。映画の前売り券。おかしいわよね。映画を見終わった後にそんなものを持っているだなんて。その時はよほど映画好きなのかなって思ったのだけれど、今思うとそれは違うと分かる。きっと直前になって、見る映画を変えたのよ。原因はお兄ちゃんよ。たまたま別な映画を見に来ていたのに、お兄ちゃんと受付の所で会っちゃったから、急遽変更したのよ。お兄ちゃんの隣の席に座るために」
「……そんなの、こじつけだろ。大体萌菜先輩は、三年生の先輩が好きなんだぞ」
「さっき、さやかさんが言ってたやつ? 不思議なんだけどさ、どうしてお兄ちゃんたちは、萌菜さんが、三年生が好きだって、思っているの? そんなこと一言も言っていないじゃない」
「だって……」
俺はそこで、はたと気づいた。『尊敬する三年生の先輩、そして大好きなあなた向かって歌を届けます』。綿貫の記憶が正しければ、萌菜先輩はそういったことになる。夏帆ちゃんの言うように、大好きな三年生の先輩になどとは言っていないのだ。
「だが、萌菜先輩は、俺と綿貫との仲が上手くいくように取り計らってくれていたんだぞ」
「人の感情は理屈じゃないのよ、お兄ちゃん。相対する気持ちが、一人の人の中にあるなんて、珍しいことじゃないわ。お兄ちゃんが好きだけど、さやかさんには幸せになってほしい。そういうことってあると思うの。現にお兄ちゃんにチョコを渡しているんでしょう。萌菜さんから合宿の時に聞いたんだけど」
「そうだ、それだ。萌菜先輩は、好きな人に渡すのを諦めたと言って、俺にチョコレートを寄越してきたんだぞ。つまり、先輩の好きな人は俺じゃない」
「知らない間に私のお兄ちゃんは馬鹿になったのかな。そのチョコレートと一緒に渡されたメッセージにはなんて書いてあったの?」
「いつもありがとう、と。好きな男にチョコと一緒に贈る言葉ではないだろ」
「そうよ、そこよ。端から萌菜さんは、お兄ちゃんの想定する、好きな人に渡すつもりなんてなくて、始めからお兄ちゃんに渡そうと思って、感謝の言葉を書いていたのよ。諦めると言うのは、片思いの相手に告白するのを諦めて、従妹と自分の友人として、いつも世話になっている、友達に感謝の意味を込めて渡す、という意味なのよ」
「だが……」
続く言葉が出てこなかった。あの萌菜先輩が、こんな俺を好くはずがない。そう思うのに、否定することができない。
「萌菜さんからの置手紙になんて書いてあったの? 正直に生きれば自分を傷つけて、他人も傷つける。それは萌菜さんが正直にお兄ちゃんを好きだってなれば、お兄ちゃんに見向きもされない、萌菜さんは傷付くし、さやかさんもお兄ちゃんも傷つくってことなのよ」
「そんなこと……」
「続きは、萌菜さんから直接聞いて。私は上にはいかない。これはお兄ちゃんと萌菜さんの問題だから」
「でも」
「いいから、行って。逃げちゃ駄目」
俺は夏帆ちゃんに促されるまま、エレベーターに乗り込み、萌菜先輩が待っているであろう、最上階のラウンジへと向かった。
「……今はふざけているときじゃないだろうが」
と諫めるように言った。
「私は真面目よ」
「大体、何を根拠に」
「じゃあ聞くけど、私と萌菜さんが初めて会った時のこと覚えている? クリスマスイブに映画を見に行った時の事」
「……ああ」
俺は、ハリウッドの名作スペースオペラの最新作がみたいと言ったのに、夏帆ちゃんに押されて、甘ったるいラブロマンスを見させられた時の事だ。
「映画見た後、確か三人でカフェに行ったじゃない?」
「ああ、行ったな」
「お会計の時、萌菜さんが何か落としたの覚えている?」
会計の時?
随分前の記憶だから、ぼんやりとしか思い出せない。ゴージャスな財布を出した萌菜先輩が、その財布から落とした物……。
「……映画の前売り券」
「そう。映画の前売り券。おかしいわよね。映画を見終わった後にそんなものを持っているだなんて。その時はよほど映画好きなのかなって思ったのだけれど、今思うとそれは違うと分かる。きっと直前になって、見る映画を変えたのよ。原因はお兄ちゃんよ。たまたま別な映画を見に来ていたのに、お兄ちゃんと受付の所で会っちゃったから、急遽変更したのよ。お兄ちゃんの隣の席に座るために」
「……そんなの、こじつけだろ。大体萌菜先輩は、三年生の先輩が好きなんだぞ」
「さっき、さやかさんが言ってたやつ? 不思議なんだけどさ、どうしてお兄ちゃんたちは、萌菜さんが、三年生が好きだって、思っているの? そんなこと一言も言っていないじゃない」
「だって……」
俺はそこで、はたと気づいた。『尊敬する三年生の先輩、そして大好きなあなた向かって歌を届けます』。綿貫の記憶が正しければ、萌菜先輩はそういったことになる。夏帆ちゃんの言うように、大好きな三年生の先輩になどとは言っていないのだ。
「だが、萌菜先輩は、俺と綿貫との仲が上手くいくように取り計らってくれていたんだぞ」
「人の感情は理屈じゃないのよ、お兄ちゃん。相対する気持ちが、一人の人の中にあるなんて、珍しいことじゃないわ。お兄ちゃんが好きだけど、さやかさんには幸せになってほしい。そういうことってあると思うの。現にお兄ちゃんにチョコを渡しているんでしょう。萌菜さんから合宿の時に聞いたんだけど」
「そうだ、それだ。萌菜先輩は、好きな人に渡すのを諦めたと言って、俺にチョコレートを寄越してきたんだぞ。つまり、先輩の好きな人は俺じゃない」
「知らない間に私のお兄ちゃんは馬鹿になったのかな。そのチョコレートと一緒に渡されたメッセージにはなんて書いてあったの?」
「いつもありがとう、と。好きな男にチョコと一緒に贈る言葉ではないだろ」
「そうよ、そこよ。端から萌菜さんは、お兄ちゃんの想定する、好きな人に渡すつもりなんてなくて、始めからお兄ちゃんに渡そうと思って、感謝の言葉を書いていたのよ。諦めると言うのは、片思いの相手に告白するのを諦めて、従妹と自分の友人として、いつも世話になっている、友達に感謝の意味を込めて渡す、という意味なのよ」
「だが……」
続く言葉が出てこなかった。あの萌菜先輩が、こんな俺を好くはずがない。そう思うのに、否定することができない。
「萌菜さんからの置手紙になんて書いてあったの? 正直に生きれば自分を傷つけて、他人も傷つける。それは萌菜さんが正直にお兄ちゃんを好きだってなれば、お兄ちゃんに見向きもされない、萌菜さんは傷付くし、さやかさんもお兄ちゃんも傷つくってことなのよ」
「そんなこと……」
「続きは、萌菜さんから直接聞いて。私は上にはいかない。これはお兄ちゃんと萌菜さんの問題だから」
「でも」
「いいから、行って。逃げちゃ駄目」
俺は夏帆ちゃんに促されるまま、エレベーターに乗り込み、萌菜先輩が待っているであろう、最上階のラウンジへと向かった。
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