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第1章.始まり

17.過去へ

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 ズサッ

 私は地面に顔を擦りながら、着地した。

「イテテ、此処は?」


 私が周りを見渡すと、そこは木がいっぱい生えていた。


(スプリング、大丈夫?)


「あー、大丈夫。少し痛かっただけだから。」

 ……。


「って! ベリアル! なんで貴方まで来ちゃったの!」
 私は思わずベリアルを怒鳴りつける。


(スプリング無茶しようとした。俺はもうスプリング死なせない!)
 ベリアルは真っ直ぐ私の方を見て言う。


 …カ、カッコいい~!!
 ベリアル! カッコいいよ!! そのいつもと違う凛とした目! そんな力強く見られたら私…はぁう。
 私の心の中はカーニバルであった。


 でも今は真面目な時。こういうのはちゃんとしとかないと。

 私は真面目な表情で言う。
「ベリアル。あまりな勝手な事しちゃダメだよ。私が死んでも教会でお金が少し減って生き返るだけ。貴方が死んじゃったらどうなるのか私は分からないの。調べてもし貴方が生き返るとしても、私は死んでほしくない。」


(そんなの! 俺も同じ!!)
 ベリアルは食い気味にそう訴えてくる。
 ベリアルの表情は怒っているというよりは、悲しそうな表情をしていた。


 …気持ちは同じか。はぁ…いい子だなぁ本当に。私にはもったいないよ。
 私は大きな溜息を吐くと、

「分かった…。とりあえずもう来ちゃってるしね。」
 ベリアルの頭を撫でて、私は改めて周りを見渡す。

 んー、木だね。
 周りには木が沢山あった。

 私は探索をする為、歩を進める。
 えーと、木の長さは大体…30メートルくらいかな? なんか前もこんな事思った様な気がするけど気のせいか?
 私がそう思っていた所にベリアルが話しかける。


(スプリング! あれ!)


「どうしたの? ベリアル?」
 ベリアルの指差した方を見ると、そこには青々とした葉が生え、大きな木に囲まれた街があった。


 街だ。


 そう街だった。

 しかし、ただの街ではない。宝玉に飲み込まれる前に見た、あの霧に包まれ周りの木が真っ黒な事を除けば瓜2つの街が、そこにはあった。


「同じ場所…だよね? 流石に。」


(たぶん。)
 ベリアルは少し自信なさげに言う。




 私達はあの宝玉に飲み込まれたはず…ここは何処なんだろう?
 私が頭を悩ませていると、


「お前達! 何者だ!!」
 門の前に立つ兵士に話しかけられる。


「あ、あ、怪しい者じゃ…」
 私がアタフタしていると後ろから、


「俺達は『王都ソシャール』の騎士である! ここの領主様に用があって来た!」


「王都から騎士が来るなど、そんな話は聞いていない!」


「急用だ! これは王直々の指令である!」
 騎士はそう言い、王族のサインを見せる。


「確かに…これは王族のサイン…。分かった。街に入る事を許す…。」


「最初からそうすればいいんだ!」
 騎士はそう言い、ズンズンと進んでいく。


 もしかして…これって私達見えてない?

(反応しなーい。)
 ベリアルは門番の前で手を振るが、何の反応もない。


 やっぱり…。私達の事見えてないんだ。
 此処は一体…。

 私達はひとまず門を通ることにした。


 私達が街に入ると、そこには霧に包まれた街とは真逆の活気に溢れた街があった。


「へいらっしゃーい!!」
「アンタ! またそんなもん買って!」
「す、すまん。」
「こんにちはー!」


 人もいっぱい居て、楽しそうに皆んな過ごしている。

 やっぱり…私達の事に気づかない。


 しかも…街の配置がすごい似てる、あの街に。


 もしかして…此処は過去のあの街?
 そう思ってると街の奥から叫び声が聞こえた。


「キャー!!」


 何かあったのだと私達は思い、街の奥へと急いだ。


 奥へ行くと、あの街と瓜二つの何の綻びのない教会が見えてくる。

 やっぱり。此処はソフィアさんに修行の為に行かされた、霧に包まれた街の過去。
 私はそう確信した。


 微かに教会から声が聞こえた。


「~~を渡せ!」

「いけません!」


 教会に行くとそこには、神父、神父の奥さんらしき人と子供がいた。他にも何人かこの街の住人がいた。
 神父は、騎士と言い争っていた。


「混沌の宝玉を渡せ!」


「ダメです。」


「何度この問答を続けるつもりだ!!」
 騎士は腰にぶら下げている剣を抜き、神父に剣を突きつける。激昂しているようだ。


「これは街を…いや、世界に災いをもたらします。渡す訳にはいきません。」
 神父は剣を突きつけられるものの、全く動じずに言う。


「あ、あなた…。」
 後ろの女の人は子供を守る様にして抱いて、心配そうに見つめる。


「神父様!大丈夫か!?」
 教会に入ってきたのは20歳ぐらいの若い青年だった。


「セン!入ってきてはならん!」
 神父は叫ぶ。


 青年のセンは、騎士の横を通り過ぎ神父の横に並び立ち、神父に問う
 。

「どうなってんだ、これは。」


「ちょっとした事だ。あの騎士が混沌の宝玉を渡せと言っていてな。」


「はぁ? 混沌の宝玉? 」
 センは騎士に視線を向けたまま、顰めっ面になる。


「言ってなかったか。その宝玉は、持った者に災いが起きると言われている。」


「何でそんなもんが此処にあるんだ。」
 センは呆れた様に言う。


「…街に古来から伝わる宝具でな。代々私の一族が預かる事になっている。」


「で? 何であいつはその宝玉を欲しがってんだ?」


「王直々の指令らしいが…あの様子だと、本当かどうか分からんな…。」


 両方とも身動きを取れずにいる様だ。
 騎士の方も先程の勢いがなく、敵の数が増えた事で慎重に行動しようとしている様だった。


「神父様。」
 センは神父に近づき、口元に手を近づけて手招きをする。

「なんだ。」
 神父様が騎士様を警戒しながら近づく。


 その瞬間。


「じゃあな、神父様。」


 スパッ


 センは神父の首を隠し持っていたナイフで、掻っ切った。
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