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第2章 夜会がある様です。

第18話 ノルク王国第2王女

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(凄い…これが貴族の挨拶ってやつなんだ…私と同じぐらいの歳なのに…)

 最後の蔑む様な言葉が聞こえていたカーシュであったが、それ以前のシンシアの挨拶に驚きを隠せないでいた。

 カーシュは未だに貴族らしい挨拶など勉強していない。ぎこちなくとも出来ると言うのは、それだけの教育を受けているという事。

(ウチとは大違い……って、アレ?)

 そんな時、カーシュはある事に気付き、目を丸くする。

って確か…」
「……えぇ、一応ノルク王国第2王女をやらせて貰ってるわ。最弱王子様」

 そう言ってシンシアは煽っているのか、先程から何処かぎこちない苦し紛れの様な笑みを浮かべている。

 ファテル王国はユー大陸の中で最弱と称される国。馬鹿にされるのも当たり前だろう。

 ーーまぁ、まさか正面から馬鹿にされるとはカーシュも思ってもいなかったが。

「それで何でノルクの王女様がこんな所に?」
「え……」

 しかしカーシュはそれに気にした様子も見せず問うと、シンシアはそれに目を丸くした。

 カーシュの精神年齢は、見た目以上に高い。何故か、それはカーシュには前世があるからである。カーシュ、もとい華珠は元は16歳。今、同年代の子にどんな蔑まれ方をしようが「うんうん、そうだね」ぐらいにしか感じないと言うのが正直なところであった。

 まぁ、それも性別が変われば話が違うが。

「…あの?」
「あ、い、いえ! 何でもないわ! 少し早くにファテル王城に着いたから、少しお散歩をと思った! それだけの事です!」

 そんな余裕を見せるカーシュに、シンシアは百面相の様に煽った笑みから、恥ずかしげに顔を真っ赤に変化させる。
 そして捲し立てる様に答えると、凄いスピードでカーシュに背を向けた。

(ふ、不思議な子なんだなぁ)

 何故そうしたのか分かっていないカーシュは頰を掻きながら、苦笑いを浮かべる。

「アウゥゥゥッ!!」

 そんな気まずい雰囲気が流れる中、カーシュ達に痺れを切らしたのか、マアトが遊んで欲しそうにカーシュのズボンの裾を咥えた。
 
「ま、マアト。本当にどうしたの? もう少し落ち着いて…」
「アウゥッッッ!!」

 この状況でも興奮冷めやまないマアトに、流石のカーシュも困惑する。
 賢いマアトなら、本来なら静かにしている筈だ。やはり何か原因が有るのだろうが、カーシュに心当たりはない。

 しかし、そんな困っているカーシュに思いがけない救世主が現れる。

「この子…少し瞳孔が開き過ぎていますのよ? 気づいていなかったんですか?」

 シンシアである。

「うん? そうなのか?」
「ァゥ…」

 カーシュはマアトの両頬を掴んで目を見る。
 しかし、見たところ変な所は感じられない。言われてみればそんな気がする…そんな程度の違いだった。

「はい。何か変な物でも口にしてしまったのは? ……こう言う時はコレを食べさせると良いんです」

 シンシアはそう言うと、ポケットから丸い緑色の団子の様な物を取り出した。

「それは?」
「これは魔物の簡単な体調不良を治す、"スゴナオール"です」

 なんとも胡散臭い名前だ。

「…それをどうするんだ?」
「この子に食べさせます」
「…失礼だが、それが毒という可能性は?」

 相手は他国の王女殿下、同じ王族の立場であるとは言え、それはあまりにも失礼な質問であった。

 しかし、聞かずにはいられなかった。
 何故ならマアトはカーシュにとって大切な家族だから。

(毒だと答える訳がない…けど、私なら嘘か本当かぐらいは大体の検討がつく…)

 カーシュは前世で沢山の嫌がらせを受けて来た。その為か、人の表情から大体の嘘、本当を見極められる様になっていたのだった。

 目を細めるカーシュを横目に、普通の貴族なら激怒してもおかしく無いその質問を、シンシアは眉一つ動かさず答えた。

「別に信じる信じないは貴方の勝手です。やがて疲れ果ててみっともない姿でこの子が死んでも良いと言うなら信じて貰わなくても結構」
「…」

 何処か刺々しさを感じるが、端々から優しさを感じるその言葉に、カーシュは押し黙る。

(怪しくはある…だけど嘘は言ってない…)

 そんなカーシュを見て肯定だと捉えたシンシアは、スゴナオールをマアトの前と差し出した。

 マアトはそれをスンスンっと嗅いだ後、口に含む。


 するとーー


「ヴー…アウッ!?」

 マアトが唸り声を上げて苦しみ出す。


「マアト!!」


 毒だったのだ。


 カーシュはマアトへと駆け寄った。

 しかし、それは杞憂に終わった。

「…アウ? アウッ!!」
「マアト! 大丈夫!? 何か痛い所はない!?」
「アウッ!」

 マアトはカーシュに対して、元気に返事を返す。

「マアトッ…!」

 カーシュは感情が表に出ているのか、マアトを強く抱きしめた。

「子供のうちはちゃんと面倒を見てあげないと…貴方がこの子にとっては親なんだから…」

 そんなカーシュを見て、シンシアは冷たくあしらう様に呟いた。

 飼い主は家族、親も同然の存在だ。親なら子の体調までしっかりと把握しておくべき。

 シンシアはそう言いたいのだろう。

「少しでも疑った私が馬鹿だった…ありがとう!」
「ふ、ふん!!」

 カーシュは今まで少し強ばらせた表情を浮かべていたが、マアトが元に戻り安心したのか穏やかな笑顔をシンシアへと向けた。

 それにシンシアは恥ずかしそうに顔を背けるのだった。
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