夢の言葉と陽だまりの天使（上）【続編②】

第６章 （３）ヴァロンside

３-３

〈回想〉
【依頼人宿泊先のホテル/部屋】


「そんなに大事ですか？あの娘が……」

話し合いを終え、荷物をまとめて帰り支度をする俺に依頼人が言った。

答える必要はない。
俺は問い掛けに答えず帽子とサングラスを身に付けると一礼してその場を去ろうとした。
しかし、依頼人は話を止めず話し続ける。


「写真、資料を見る限り普通の娘。
アルバート様の孫娘と言う事がなきゃ、なんの価値もない。
……でも、”伝説の夢の配達人”と言われる君が何故そこまで執着するのか、興味があります」

依頼人は目の前に来ると、俺のサングラスを外してグッと顎を持って見つめる。

依頼人、アカリの元婚約者アラン。
俺と変わらない背丈で、むしろ体格は俺よりも良い位だ。
シュウの資料を見る限り隠しているが、おそらく格闘技の有段者。

おまけに、俺を夢の配達人のヴァロンと知っていた勘の鋭さと情報力。
侮れない相手。


アランの父親は優秀で人望も厚かったと聞く。
アルバート様はその息子であるアランなら大丈夫だと信頼してアカリの嫁ぎ先に決めたに違いない。

……けれど。このアランが受け継いだのは、どうやら仕事に対しての優秀さだけ。
そして、父親とは全く違うやり方。
冷徹で血も涙もない。
邪魔だと思う者には容赦がなく、奴に逆らえば長年契約を結んでいた会社、部下達も簡単に切り捨てられる。

半年前に父親が突然死して跡を継いだらしいが……。
色々と、厄介な人物だ。


「綺麗な顔だよね？
君ならどんな女も選びたい放題でしょ？
それなのに、あの小娘にこだわるって事は……。
相当、抱き心地が良いの？」

挑発する様に、アランの笑っていない灰色の瞳が俺を間近で見つめてくる。