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(2)リディアside
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【港街/リディアの自宅】
「……さあ、今日からここが家よ」
鍵を解除して玄関の扉を開けると、少年は固まったように動かなかった。
少年、名前はヴァロン。
ついさっき、マスターに紹介した際に隠れ家で聞いた。
船の中では一言も言葉を発しなかったから、もしかして口が利けないか言葉を知らないのかと心配した。
けど、違う。
この子はきっと今まで、誰にも声を聞いてもらえなかったのだ。
自分の気持ちを声にして発すれば、今までヴァロンにとって嫌な事が起こった。
だから尋ねられた事、必要最低限の言葉しか話さない。
身体に虐待の傷痕はなかったけど、それよりもヴァロンの心に突き刺さっている傷痕の方が……恐らく重症。
「ホラ、入った入った!」
ヴァロンの背中を押す様にして、私はまず余っていた部屋に彼を連れて行った。
「ここ、好きに使っていいわ。
ヴァロン、アンタの部屋よ」
「!……。俺の、部屋……?」
遠慮がちに見渡すヴァロン。
喜ぶというよりは、戸惑っているその表情。
カタカタと震えている小さな肩。
子供部屋も、この子にとっては居心地の良くない場所だったとハッキリ分かる。
仮にも他人の私との同居生活。
離れたい時があるかな?
と、部屋をあげたけど……。
ヴァロンは何年経っても、自分の部屋の扉を閉めなかった。
眠るギリギリまで一緒にリビングにいて、密室に籠る事を決してしなかった。
どんなに私と言い合って気まずくなっても、ヴァロンの部屋の扉は開きっぱなしだった。
「……さあ、今日からここが家よ」
鍵を解除して玄関の扉を開けると、少年は固まったように動かなかった。
少年、名前はヴァロン。
ついさっき、マスターに紹介した際に隠れ家で聞いた。
船の中では一言も言葉を発しなかったから、もしかして口が利けないか言葉を知らないのかと心配した。
けど、違う。
この子はきっと今まで、誰にも声を聞いてもらえなかったのだ。
自分の気持ちを声にして発すれば、今までヴァロンにとって嫌な事が起こった。
だから尋ねられた事、必要最低限の言葉しか話さない。
身体に虐待の傷痕はなかったけど、それよりもヴァロンの心に突き刺さっている傷痕の方が……恐らく重症。
「ホラ、入った入った!」
ヴァロンの背中を押す様にして、私はまず余っていた部屋に彼を連れて行った。
「ここ、好きに使っていいわ。
ヴァロン、アンタの部屋よ」
「!……。俺の、部屋……?」
遠慮がちに見渡すヴァロン。
喜ぶというよりは、戸惑っているその表情。
カタカタと震えている小さな肩。
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離れたい時があるかな?
と、部屋をあげたけど……。
ヴァロンは何年経っても、自分の部屋の扉を閉めなかった。
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