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第7章(3)紫夕side
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しおりを挟むこの出来事が、スノーフォールが俺に見せた夢ならばどけだけ良かっただろうーー。
でも。
どれだけ泣こうが、喚こうが、自らを痛めつけようが、状況は変わらない。
俺を救う為に、サクヤが消えてしまった現実が変わる事はないーー。
それでも、俺は自分の体力に限界がくるまで止める事が出来なかった。
草の上とは言え、拳を叩きつけ続けた結果。俺の手は打ち身と切り傷で血が滲んでいた。
そんな俺の前に、ヒュゥ……ッと吹く冷たい風。
『モウヤメロ……』
その風に乗って、スノーフォールの声が聞こえた。俺はその声に瞬時に反応すると、辺りを見渡す。
けど、姿は見えない。
確かに、その辺りにいる気配はするのに、スノーフォールの姿は見付からなかった。
でも、構わない。
そんなの、どうでもいい。
「……っ、……ろして、……くれ」
俺は、その姿の見えない存在に縋るように願った。
「たの……む、っ……俺を…………殺して、くれッ!!」
悲しみと痛みに締め付けられて、掠れる声。
胸が痛いのか、喉が痛いのか、もう分からない。
俺を殺してくれーー……。
こんな事を願ってはいけないと、頭では分かっていた。
でも、それでも、そう願わずにはいられなかった。
もう、それ以外、自分が今の辛さと苦しみから解放される術はないと思ったんだ。
「殺してくれ」と、うわ言を呟きながら蹲る俺に、スノーフォールが語り掛けてくる。
『アノコノオモイ、ムダニスルノカ?
アノコガギセイニシタノハ、オマエトノシアワセナオモイデダ』
頭の中に直接響いてくるような声で、スノーフォールは俺に語った。
自分が人間に抱いた憎しみの念いによって生まれた力を相殺する為に、サクヤは自らの幸せな想い出を代償に払ったのだ、とーー……。
幸せな想い出。
それは、俺と過ごした時間の、全ての記憶だった。
病室で出逢い、俺が毎日のように通った事。
散歩に行こう、と連れ出し、一緒に桜を見た事。
そして、一緒に暮らし始めて、車に乗り、買い物に行った事。
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