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第14章(2)紫夕side
14-2-1
しおりを挟むまさか、の事態に、ただ見つめる事しか出来なかったーー……。
すぐに身体を動かせずにいると、冷たく、俺を見下ろしていた瞳が微かに紅く輝いて、ペロリッと舌舐めずりをした口から、みるみるうちにヨダレが垂れ始める。
その直後だった。「ガアッ」と短い唸り声を上げた雪が、俺の肩に喰いついてきたのは……。
「!!っ、ぅあ……!!
ゆ、雪ッ……!雪っ、やめろ……!!」
あっという間に鋭くなっていた犬歯が肉に食い込んで、噛まれた肩に激痛が走る。
咄嗟に喉元を掴んで押し退けようとするが、一度離してもすぐに再び噛みつこうと、雪は唸り声を上げたまま襲いかかってくる。
まるで、昔観た映画のゾンビのように……。すごい力で、何度名前を呼んでも、雪はまるで俺の事を獲物にしか見えていないかのようだ。確実に仕留めようと、首元を狙って噛みつこうとしてくる。
っ、雪……嘘だろ?
ホントに……ホントにもう、魔物化して俺が分からなくなっちまったのかっ?!
こんな終わり方、絶対に嫌だ、と思った。
が、そんな気持ちは雪に届く訳もなく……。暴れた雪が、今度は腕に牙を突き立てた。
「!!っ、ぐぁ……ッ!!」
その痛みから、俺は咄嗟に雪を払い退ける。
すると、勢いよく腕を振ったせいで、軽い雪の身体は少し飛ばされ、荷台にある荷物に当たって床に倒れた。
「!っ、雪……!
雪、ごめんっ……大丈夫かっ?!」
自分の身を護る為に咄嗟にやってしまった事とは言え、俺はその光景にハッとしてすぐに駆け寄ろうとした。
が、ヨロッとしながらも雪は倒れ込んだ上半身を起こして、俺をギッと睨むと牙を剥き出しにして唸り声を上げる。
……でも。
その時、俺の目には急に雪が、さっきまでと少し違って見えたんだ。
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