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第16章(3)雪side
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しおりを挟む泣いていた女の子も、女の子を慰めていた男の子も。声を掛けたオレに驚いたように、瞬きもせずに見つめていた。
でも、オレはただただ心配で、女の子の側まで行くと転んで出来た膝の傷の状態を確認する。幸い、傷は大した事がなさそうで、表面を擦り剥いていただけ。
それを見てホッとすると、オレはついつい安心から微笑んで言った。
「良かった。これなら消毒すれば大丈夫そうだね?
今、救急箱を取ってくるから、少し待ってて」
そう言って、一旦コテージの中に戻ろうとオレが背を向けると……。服の裾をクンッと、優しい力で引かれた。
「ーー……ようせい、さん?」
「っ、え?」
「おねえさん……ようせいさん、なの?」
服を引かれて振り返ったオレに、女の子が言った。
妖精さん。
お姉さん。
その言葉に、色んな意味で戸惑った。
オレは妖精でも人間でもなく、かと言って魔物と言うにも中途半端で……。そんな事、言えない。それに、お姉さん、でもない。
どう、答えようか悩んでいると、男の子も目を輝かせてオレの事を見上げていた。
とりあえず、妖精じゃない、って誤解を解かなきゃ……。
「っ、……ご、ごめんね?妖精じゃ、ないんだ」
「ちがうの?」
「う、うん」
「じゃあ、おなまえはー?」
「え?」
「おねえさん、おなまえなんていうのー?」
「っ、……」
ひとまず、妖精でない事は受け入れてもらえたようだが……。男の子と女の子のキラキラした瞳。
お姉さん、である事を否定したら、何だかこの純粋な瞳が変わってしまう気がして……。オレは、嘘をついて話を合わせる事にした。
「……サクラ」
「!……さくら?」
「うん、サクラって、言うんだ」
紫夕が旅先で自分の父親である「三月」と名乗っていたように、オレは自分の母親である「サクラ」って子供達に名乗った。
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