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第20章(2)マリィside
20-2-5
しおりを挟む「……今日は、帰るね。
ケーキ、食べられなくて、ごめん」
その後。
俯いた和希は静かに立ち上がって、荷物を持つと、アタシの家を出て行った。
……
…………
どんな気持ちで、貴方は帰路を歩いたんだろうーー……?
後からなら、色んな事が考えられて、後悔の気持ちはとめどなく溢れ出すの。
でも。
当時のアタシは自分を守る事ばかり考えて、これ以上傷付きたくなくて、「アタシ達、もう別れましょう」と一方的なメールを送った。
和希からすぐに電話が掛かってきたけど、アタシは無視し続けた。
そんな中、緊急任務が入ったんでしょうね。
休暇を取っていたけれど、アタシと過ごす予定がなくなった和希は、人員不足を助ける為に出動した。
「帰って来たらもう一度話そう!」
そう、最期のメールを残して……。
……
…………。
そして。
和希がこの世を去ってから、もう十五年以上経つーー。
「……久し振りね」
故郷に戻って来て、アタシは彼が眠る場所へ今年も会いに来た。
お墓の前に座って花を供えると、毎年の恒例のように一年の出来事を包み隠さず報告する。
彼は最期まで、アタシと向き合おうとしてくれた。
彼以上に強い勇気と優しさを持つ人を、アタシは絶対にいないと思っていた。
だから、自分がそうなりたい、と願った。
どんな事からも目を逸らさず、自分の痛みよりも他人の痛みに気付ける人間で在りたかった。
そうする事で、少しでも和希のはなむけになれば、と思っていた。
「なぁ、マリィ。
今夜、泊まってもいいかな?」
もし、あの言葉に頷く勇気があれば、和希は任務に行く事もなく、今も一緒に居られた未来があったかも知れない。
そんなアタシ達の見られなかった幸せを叶えてほしくて、アタシはある恋人達を応援していた。
「和希、聞いて?
なんと、あの紫夕ちゃんがついに本気の恋をしたのよ」
この出だしを聞いたら、きっと和希は食いついて、笑顔で嬉しそうにしてくれるだろうと思った。
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