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第20章(4)紫夕side
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しおりを挟む戸惑いが、全くなくなっていた訳じゃなかった。
でもそれはこの時すでに、"雪が男でありながら妊娠しているかも"、と言う事にではなくなっていた。
雪だから、とか。男でだから、とかじゃなくて……。俺は、どうしたらいいのか考えたていたんだ。
自分に子供が出来ていたら、どうしたらいいのか。
そして、父親になれるのかどうかをーー……。
……
…………けど。
そんな考えや悩みは、この後一瞬で吹き飛ぶんだ。
ガチャッ、って。トイレの扉が開く音に反応して振り返った俺の瞳に飛び込んできた、雪の表情を見た瞬間に……。
「ーー……っ」
言葉は、出なかった。
ただ、あまりの美しさに、涙が出た。
「やったぁ!!」って、大声をあげてなくとも、表情だけでこんなにも相手の感情の全てを知れる事があるのだと、俺は胸を貫かれた。
拭っても拭っても尽きる事のない涙を流しながら、雪が自分のお腹を愛おしそうに撫でている姿にーー……。
もう、選択肢は決まった。
俺は、雪にゆっくり歩み寄る。
抱き締めたい。
抱き締めたい……抱き締めたいっ。
愛おしい。
愛おしい……愛おしいっ。
湧き上がる感情のまま、抱きたかった。
っ、雪……!!!!!
ーー……けど。
広げた腕の中に、雪の温もりを感じる事はなかった。
愛おしい人に触れる事が出来ず、虚しく両腕を空を切らせた俺は……、……。
……
気付いたら、コテージに一人だった。
シンッ、と、する空間。
窓の外はまだ薄暗くて、夜だ。
雪の居ない、現実の今。
夜が明けるまで、俺は斬月が伝えてくれた想いにどう応えたらいいのかを……考えた。
……
…………。
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