34 / 231
第2章(3)ツバサside
3-4
しおりを挟む「改めて、明日からどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ。
コハルさんが安心して演じられるよう全力を尽くします。だから、どうか安心して下さい」
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げるコハルさん。
しかし、顔を上げて次に顔を合わせた時。彼女の瞳は迷いがあるかのように揺れていた。
そして、自分で自分の手を握り締めながら、言い辛そうに口を開く。
「あのっ……、ツバサさん」
「はい」
俺には、その次に続く彼女の言葉が何なのか、大体予想が付いていた。
それこそが、俺がしていた"気掛かり"だから……。
「千秋楽の公演、私が自分で演じては駄目ですかっ?」
コハルさんの言葉は、俺の予想していた通り。
「ツバサさんの演技に不満がある訳でも、代役に不安がある訳じゃありませんっ……。
ただ、っ……やっぱり最初から最後まで自分で演じきりたいんです!」
純粋な彼女の想い。
今回の任務を引き受けてから今日まで稽古を共にして、彼女が演技が大好きな事、また"桜という役をどれだけ愛して大切にしているかを側で見てきた。
おまけにコハルさんが桜の役を演じる事が出来るのは、おそらくこの夏の公演が最後かも知れない。彼女は25歳。いくら見た目が若くても、大人の女性の部類である彼女が18歳である桜を演じられるのにはそろそろ限界が近付いていた。
役者にとっては辛いかも知れないが、いつか必ず訪れるステップアップ。そうプラスに考えるべきなのだが、最後の千秋楽が自分で務める事が出来ないのは悔しいはずだ。
「でもっ、それは危険だよ!君に何かあったら、お兄さんや劇団のみんな、ファンのみんなだってきっと悲しむ!
ツバサやナツキさんが考えてくれた通りにするのが1番だと、思うけど……、……」
俺の後ろにいたジャナフがコハルさんの言葉に驚いたように発言する。
が、彼女の気持ちも察してか、すぐに口籠もった。
確かに。
当初決めた予定通りにするのが1番の安全策。急な予定変更は余裕を無くし、些細なところからミスが起こり兼ねない。
……しかし。
依頼人の夢を叶えるのが、夢の配達人の仕事。
依頼人の想いを優先するのか、仕事の成功率を優先するのかーー……。
0
あなたにおすすめの小説
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~
泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳
売れないタレントのエリカのもとに
破格のギャラの依頼が……
ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて
ついた先は、巷で話題のニュースポット
サニーヒルズビレッジ!
そこでエリカを待ちうけていたのは
極上イケメン御曹司の副社長。
彼からの依頼はなんと『偽装恋人』!
そして、これから2カ月あまり
サニーヒルズレジデンスの彼の家で
ルームシェアをしてほしいというものだった!
一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい
とうとう苦しい胸の内を告げることに……
***
ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる
御曹司と売れないタレントの恋
はたして、その結末は⁉︎
【完結】25年の人生に悔いがあるとしたら
緋水晶
恋愛
最長でも25歳までしか生きられないと言われた女性が20歳になって気づいたやり残したこと、それは…。
今回も猫戸針子様に表紙の文字入れのご協力をいただきました!
是非猫戸様の作品も応援よろしくお願いいたします(*ˊᗜˋ)
※イラスト部分はゲームアプリにて作成しております
もう一つの参加作品「私、一目惚れされるの死ぬほど嫌いなんです」もよろしくお願いします(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
フローライト
藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。
ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。
結婚するのか、それとも独身で過ごすのか?
「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」
そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。
写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。
「趣味はこうぶつ?」
釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった…
※他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる