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第14章(5)アランside
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しおりを挟む兄上は今記憶を失くしている。
上手く使って、自分の思い通りに出来るのに……。優しく手懐けて思い通りに進ませればいいのに、冷たくして、兄上を傷付けてばかり。
そう。
まるで、ただの虐めなんだ。
父を……。自分の息子をたぶらかした娼婦の女の息子だから?
自分が息子に与えた人生のルートを脱線させたから?
……何か引っかかる。
他に、何かあるんじゃないか?……と。
そんな事を思いながら、これまでの自分の知る祖父を思い返していた時。
ーーバサバサッ……ドシャッ!
机や棚からファイルが崩れ落ちるような音が、扉の方からした。
ハッとして目を向けると……。
「!……ッ、兄上」
少し開いていた扉。そこに居たのは、茫然と立ち尽くす兄上。
その足元には、兄上が作ったカフェの企画案をまとめたファイルが落ちていた。
結果が出てからも、兄上は自分の企画案を見直していた。
おそらく、自分では分からなかった企画案の反省点や改善点をシャルマ会長に求めに来たのであろう。
仕事の事も、家族としても変わろうとしていた兄上。
それが、こんなタイミングで……。
どう声を掛けていいのか、分からなかった。
すぐに行動出来ずに居ると……。何も言わず、静かに足元に落ちたファイルを拾って、兄上は俯いたまま社長室の前から姿を消すように歩き出す。
「っ……兄上!」
このまま放っておいてはいけない気がした。
私は追いかけるように社長室を飛び出した。
「兄上!っ……お待ち下さい!兄上!」
「……」
幸い、すぐに追い付いて兄上の肩を掴んで引き止める事が出来た。
……けど。
引き止めたのはいいが、何を言っていいのか分からず、また言葉が出てこない。
慰めの言葉?弁解の言葉?
何を述べても違う気がした。私が本当に伝えたい言葉とは違う気がして……。悩んで、躊躇した。
すると……。
「……信じてるよ」
「え……?」
この状況下で、信じられない言葉。
そう呟いた兄上が、顔だけ振り返って、私に微笑んだ。
その美しい微笑みを見た瞬間、頭が真っ白になって……余計に言葉が出なくなる。
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