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第19章(4)アカリside
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ーーヴァロン?
見上げる視線の先の男性が放つ雰囲気に、私の鼓動がトクンッと大きく跳ね上がるのを感じた。
だってその人は少し前のマオさんではなく、以前のマオさん。夢の配達人だったヴァロンが長期任務に行った際に変装していた頃のマオさんに、近かったから……。
髪と瞳は灰色で、見た目で変わった部分と言えば顔を隠すように長かった前髪が少し短くなっていて、伊達眼鏡を外しているだけなのに……。
それだけ、なのに……。最後に別れた際とのあまりの雰囲気の違いに、"あの時のマオさん"が消えてしまったように感じた。
「すみません、仕事が長引いて遅くなってしまいました」
ーーこの男性は、誰?
オドオドする事なく、落ち着いて話す人物を目の前にして私は心の中で問い掛ける。
「何処かお店に入りましょうか?
……あ。でももうこんな時間だし、今日はイブだから満席かな……」
ビシッと決めた黒いスーツに、ヴァロンが好きだった深緑色のネクタイを締めて、濃い茶色のトレンチコートを羽織って、身に付けた高そうな腕時計を見ながらそう言う彼を、私は……初めて見た。
彼が、彼でないような気がした。
私は今まで、彼が例えどんなに姿を変えていようが見付けられる自信があったし、その度に何度もときめいて恋をしてきた。
……でも。
今回は、少し違う。
彼に感じるドキドキの中に、何とも言えない不安な感情が渦巻くの。
「……。
そうですね。もう夜も遅いですし、ここで手短にあの時の返事をしてもいいですか?」
黙ってじっと見つめたままだった私に気付いた彼が、そう問い掛けてくる。
「っ……」
い、や……。聞きたくない……ッ。
心の中ではそう叫んでいるのに、その気持ちが私の口から言葉となって出る事はなかった。
彼に見つめられて、まるで有無を言わせない魔法をかけられたように話せない。
そんな状況下の中、彼が口を開く。
「すでにご存知かも知れませんが、ミネアさんに子供が出来ました。
僕はミネアさんと結婚して、良き夫であり良き父親になろうと思います」
無情にも放たれたその言葉が、鋭い氷の刃のように心に突き刺さって、更に私を凍り付かせた。
見上げる視線の先の男性が放つ雰囲気に、私の鼓動がトクンッと大きく跳ね上がるのを感じた。
だってその人は少し前のマオさんではなく、以前のマオさん。夢の配達人だったヴァロンが長期任務に行った際に変装していた頃のマオさんに、近かったから……。
髪と瞳は灰色で、見た目で変わった部分と言えば顔を隠すように長かった前髪が少し短くなっていて、伊達眼鏡を外しているだけなのに……。
それだけ、なのに……。最後に別れた際とのあまりの雰囲気の違いに、"あの時のマオさん"が消えてしまったように感じた。
「すみません、仕事が長引いて遅くなってしまいました」
ーーこの男性は、誰?
オドオドする事なく、落ち着いて話す人物を目の前にして私は心の中で問い掛ける。
「何処かお店に入りましょうか?
……あ。でももうこんな時間だし、今日はイブだから満席かな……」
ビシッと決めた黒いスーツに、ヴァロンが好きだった深緑色のネクタイを締めて、濃い茶色のトレンチコートを羽織って、身に付けた高そうな腕時計を見ながらそう言う彼を、私は……初めて見た。
彼が、彼でないような気がした。
私は今まで、彼が例えどんなに姿を変えていようが見付けられる自信があったし、その度に何度もときめいて恋をしてきた。
……でも。
今回は、少し違う。
彼に感じるドキドキの中に、何とも言えない不安な感情が渦巻くの。
「……。
そうですね。もう夜も遅いですし、ここで手短にあの時の返事をしてもいいですか?」
黙ってじっと見つめたままだった私に気付いた彼が、そう問い掛けてくる。
「っ……」
い、や……。聞きたくない……ッ。
心の中ではそう叫んでいるのに、その気持ちが私の口から言葉となって出る事はなかった。
彼に見つめられて、まるで有無を言わせない魔法をかけられたように話せない。
そんな状況下の中、彼が口を開く。
「すでにご存知かも知れませんが、ミネアさんに子供が出来ました。
僕はミネアさんと結婚して、良き夫であり良き父親になろうと思います」
無情にも放たれたその言葉が、鋭い氷の刃のように心に突き刺さって、更に私を凍り付かせた。
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