グレイ

第１章（５）紫愛side

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兄貴にーにの上着は心地良い匂いがして、おまけにあったかくて、まるで抱き締められてるみたいだった。

「あ！見て見て、兄貴にーに！今日は星が出てる～！」

「おい、ちゃんと前見て歩け。転ぶぞ」

兄貴にーにの寮から自宅への帰り道。夜空を見上げて歩く私の頭に兄貴にーにの大きな手が添えられて、前を向くように促される。
その、一見素っ気無さそうだけど優しい仕草に、私は思わずニヤけてしまった。

よかった、兄貴にーにが優しい。

どんなに些細な事でも、兄貴にーにの優しさを感じられる度に私は嬉しくて仕方がなかった。
こうやって並んで一緒に歩くのも久し振りだ。

このまま、もう少し一緒に居たいなーー……。

ブラコンだ、と言われても、それが素直な気持ちだった。
けど、本部内にある兄貴にーにの寮から本部内にある私の自宅までの距離なんて、離れている、と言ってもたかが知れた距離。最後の角を曲がれば、もう少し先に我が家が見えてきてしまった。

「……じゃ、僕はここで」

「！っ、え？」

もうすぐバイバイ。それだけで寂しかったのに、家の前までも行かずに立ち止まってしまった兄貴にーにに、私は明らかに動揺して声をあげてしまった。

……もう、お別れなんだ。
次は、いつ……こうやって会えるんだろう？
あ、そうだ。上着、返さなきゃ……。

そう、頭の中では思っているのに、「バイバイ」の言葉が出てこなければ、上着を脱ぐ事もなかなか出来ない。
まだ離れたくない、って心の奥底にある感情が精一杯抵抗していた。

「そ、そうだ！ねっ！兄貴にーにも今日は一緒に夕飯食べて行きなよ！」

まだ兄貴にーにと居たいーー。
そんな気持ちから、私は気付いたらそう言っていた。

「今夜はね、マリィ特製の唐揚げだよ！兄貴にーにも好きでしょっ？
私の分、分けてあげる！だからーー……」

「いや、いい。今から、用事あるんだ」

でも、私の言葉は、兄貴にーにの冷静な声に止められてしまった。