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第1章(2)アカリside
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しおりを挟むなんだか、気不味い。
まだハッキリとプロポーズの返事をしていない私にとって、今ユウさんと二人きりの空間は正直居心地が悪かった。
優しくて、良い人だと分かっているから尚更。
私が戸惑っているのを察してか、ユウさんはプロポーズの返事を決して急かしたりしない。
5月には、新しい勤務地へ行く彼。
もうあまり時間もない筈なのに……。
「なぁ、アカリ。
次の休みさ、ヒナちゃんとヒカル君連れてまた遊びに行こうぜ」
「……え?」
ユウさんはそう言いながら、振り返った私にチケットを見せるように差し出した。
それは、私の子供達が大好きなキャラクターが登場する着ぐるみショーのチケット。
「知り合いに貰ったんだ。
……な?これで最後だから、さ」
「!っ……ユウさん」
”これで最後”、その言葉と彼のどこか寂し気な笑顔が……。胸に突き刺さる。
「……っ。
アカリ、あのさ……」
俯く私にユウさんがそう言い掛けた時。
更衣室から調理場に繋がる通路の方から、出勤してきた従業員達の話し声が聞こえてきた。
「あ、いや……なんでもない。
じゃ、明後日な?約束だぞ」
ユウさんはハッとしてチケットを自分の胸ポケットにしまうと、私にそう言って従業員達が調理場にくるのと入れ違いに奥の事務所に消えて行った。
「アカリさん、おはようございます!」
「あ、おはようございます!」
「おはよーございまーす!」
…………。
お店の開店時間が近付くにつれて、従業員が増えて賑やかになる職場。
それに合わせて明るく振る舞いながらも、私の心は焦りと戸惑いでいっぱいだった。
ユウさんが見せてくれたチケット。
あの着ぐるみショーは今とても人気で、子供達にせがまれたけど私が入手出来なかった物。
簡単に、タダで誰かに貰える訳がない。
きっと、一生懸命……手に入れてくれたんだ。
真剣で、優しい気持ち。
その気持ちに、私はどう応えたらいいのだろうか……?
……
…………。
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