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第2章(2)ユイside

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【ユイ21歳/自宅】

「ッ……!!」

イライラする。

勢い良く玄関の扉を開けて奥の自室に行くと、私は仕事の荷物の入った鞄をバンッ!とベッドに叩きつけた。


夢の配達人の調査員になって、あっという間に一年が過ぎた。
もう一年。それなのに思うように上手くいかない日々。

そして今日もまた、同僚との意見の食い違いで揉めた。
私の行動があったから、上手くいったのに……。それなのに報われない。

結果。
上司から注意を受けたのは私の方で、暫くの謹慎処分を言い渡された。


「っ……こんなところで、立ち止まってる訳にはいかないのにッ」

思わず口から漏れた本音。
私の瞳に映るのは、ベッドの傍の棚上に置かれた犬の形をした花の置き物。
三年前の誕生日に、お父さんに……。ヴァロンさんに貰ったそれには特別な加工が施されているらしく、今も変わらず美しい。


でも……。
私は変わってしまった。


”花のように可愛い女の子になって”。

そう願ってくれた母の想いを、もう私は叶える事なんて出来なくなっていた。

ヴァロンさんを失ったあの日。
夢の配達人の調査員になると決めたあの日、私は伸ばしていた髪をバッサリと切った。
女の子らしい服装はせず、スカートを履かなくなった。


だって、意味がない。
女の子らしくして、その姿を1番に見てほしかった人がいないのだから。


……。
取り戻したいと思った。
あの日失ってしまった、全てを……。

だから私は、夢の配達人の調査員になった。


そうなる事で立派な両親に近付けると、自分が許されると思ったの。

そう。
”嫉妬”という醜い感情を持った自分を……。

でも……。
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