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第3章(1)アカリside
1-3
しおりを挟む血の繋がらない子供達を、実の父親のように可愛がってくれるユウさん。
こんな私を大切にしてくれるユウさん。
付き合うと、返事した。
好きになると、決めた。
だからもう、引き返す事なんて出来ないのに心が強張って、今にも泣き出しそうになる。
「向こうに行って、大丈夫そうなら言おうって思ってた。
……アカリ。僕と結婚して、新しい町で一緒に暮らそう。
今のパン屋さんを辞めて、この街を引っ越して、僕と新しい生活を共にしてほしい」
そう言ったユウさんが、上着のポケットから取り出した小さな箱を開いて私に見せる。
キラリと光る、指輪。
私の誕生石のアクアマリンの、指輪だった。
「……」
「……アカリ?」
「!……ぁ。っ……ごめんな、さい。
びっくり……しちゃって」
名前を呼ばれて、私は咄嗟に誤魔化すように微笑った。
ドクンッと私を刻む嫌な心臓の音が、身体中に響いて震える。
「ははっ、アカリは大袈裟だな。
……。受け取ってくれるだろ?」
軽く笑ってそう言ったユウさんが、指輪を自分の右手に取って……。
左手で、身を縮めるように胸元辺りで握り締めていた私の左手を取った。
ゆっくりと、私の手を自分の方に引き寄せるユウさんの手。
その手はとても優しくて暖かいのに、私の心は”やめて!”と叫び出す。
仕事では完璧なのに、プライベートでは意外に不器用で……。
”遅れてごめん”って照れ臭そうに笑いながら、たどたどしくヴァロンが手作りの指輪をはめてくれた私の左手の薬指。
この手にピッタリはまる指輪は、あの指輪だけっ……!!
想いと共にこぼれ落ちた涙。
それと同時に、私の左手の薬指に指輪をはめようとするユウさんの右手を……グッと自分の右手で押し返していた。
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