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第6章(1)アカリside
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【6月15日/自宅】
「……どうぞ」
鍵を解除して玄関の扉を開けると、私は子猫の入ったダンボール箱を抱えた彼に、家の中に入るようにすすめた。
……。
何故、こんな展開になったのかと言うと……。
傘を差し伸べた私を茫然と見ていた彼は、「何をしてるんですか?」と尋ねると、ハッと我に返って気まずそうに自分の背後にダンボール箱を隠そうとした。
その行動が、ついさっき冷たくされた私に対してなのか、自分が子猫を捨てているかのようなこの状況になのかは分からない。
……いや、多分両方だろう。
そんな彼はヒナタやヒカルが何か隠し事を暴かれた時の様子と、すごく被って見えた。
まるで子供みたい。
きっとこの人は……。
”ヴァロン”という一人の人間がいなくなって、その魂が”マオ”という人物に生まれ変わってしまったんだ。
目の前の彼を見て、私はそう思った。
言いたい事はたくさんある。
何故、私の元に帰ってきてくれなかったの?
あの時独りにしてしまった事を、怒っているの?
先に生まれ変わっちゃうなんて酷いよ!
また恋をしよう、って約束は嘘だったの?
……私の事、嫌いになっちゃったの?
ミネアさんの婚約者である彼に対する、想い。
……けど。
っ……けど、それ以上に思った。
生きていてくれて、ありがとう。って……。
目の前に彼が在る。
それだけで余計な事は吹き飛んで、私は嬉しくなってしまう。
本当に、ズルいなぁ……。
そう思いながらも、放ってなんておけない。
シャルマ様やミネアさんと交わした約束を破るつもりはなかったけど、今困っている彼を見捨てたくなかった。
もう傍にいる権利も、愛する権利も、私にはないのかも知れない。
けど、幸せになってほしい。
私に出来る事があるならば、その不安を取り除いて笑顔になってほしい。
だから私は、声を掛けた。
「……どうぞ」
鍵を解除して玄関の扉を開けると、私は子猫の入ったダンボール箱を抱えた彼に、家の中に入るようにすすめた。
……。
何故、こんな展開になったのかと言うと……。
傘を差し伸べた私を茫然と見ていた彼は、「何をしてるんですか?」と尋ねると、ハッと我に返って気まずそうに自分の背後にダンボール箱を隠そうとした。
その行動が、ついさっき冷たくされた私に対してなのか、自分が子猫を捨てているかのようなこの状況になのかは分からない。
……いや、多分両方だろう。
そんな彼はヒナタやヒカルが何か隠し事を暴かれた時の様子と、すごく被って見えた。
まるで子供みたい。
きっとこの人は……。
”ヴァロン”という一人の人間がいなくなって、その魂が”マオ”という人物に生まれ変わってしまったんだ。
目の前の彼を見て、私はそう思った。
言いたい事はたくさんある。
何故、私の元に帰ってきてくれなかったの?
あの時独りにしてしまった事を、怒っているの?
先に生まれ変わっちゃうなんて酷いよ!
また恋をしよう、って約束は嘘だったの?
……私の事、嫌いになっちゃったの?
ミネアさんの婚約者である彼に対する、想い。
……けど。
っ……けど、それ以上に思った。
生きていてくれて、ありがとう。って……。
目の前に彼が在る。
それだけで余計な事は吹き飛んで、私は嬉しくなってしまう。
本当に、ズルいなぁ……。
そう思いながらも、放ってなんておけない。
シャルマ様やミネアさんと交わした約束を破るつもりはなかったけど、今困っている彼を見捨てたくなかった。
もう傍にいる権利も、愛する権利も、私にはないのかも知れない。
けど、幸せになってほしい。
私に出来る事があるならば、その不安を取り除いて笑顔になってほしい。
だから私は、声を掛けた。
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