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第6章(3)マオside

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ーー駄目だ。
今日の自分は、何だかおかしい。

僕は目を伏せて、必死に涙を止めようとした。

彼女と瞳を合わせていたら駄目だ。
アカリさんと居ると、何故だか調子が狂わされていくように感じる。

これ以上、暴かないでほしかった。


……けど。
心を乱すのも、逃げ出そうとする僕をなだめるのも、また彼女だった。

俯いたままの僕に歩み寄ってきたアカリさんは、包み込むように抱き締めてくれて、小さな声で「大丈夫だよ」って言った。

その行動と言葉に、胸がトクンッと暖かい鼓動を立てる。


”本当の僕を見ないで!”

”嫌いにならないで!”……。

そう心の中で叫び続けて怯えていた僕を、彼女が見抜いているように感じた。


「っ……は、放して……下さいッ」

「なんでですか?」

「な、っ……なんで、って……」

「理由がないなら、嫌です」

「っ……」

僕の言葉を拒否して、抱き締めたまま頭を優しく撫でてくれるアカリさん。


涙はいつの間にか止まっていた。

彼女からは、暖かくて懐かしいような、温もりと匂いがする。
心地良い、離れ難くなる場所。


それは、ずっと欲しかった”僕の居場所”にとても近かったのかも知れない。

ずっとずっと探していた、自分が自分に還れる場所ーー。


……でも。
僕の頭の中にはすぐに浮かんだ。

広場で見た、彼女の可愛い子供達。
そして、こんな素敵な女性を妻に持つ旦那さんの姿を想像した。

自分の行動で幸せな家族を壊す気持ちなんて全くなかったし、ましてやそんな気持ちもなかった。
僕と彼女は未来を歩く道の過程で、たまたま巡り会っただけの存在だ。

この気持ちは、束の間の錯覚なのだと……。



「……じゃあ、3分だけ。
3分だけ……休ませて下さい」

今だけ。
ほんの少しだけ。

そう思って、僕はアカリさんの背中に腕を回すと……。ギュッと、自分に引き寄せた。


ーー僕は、まだ気付いてなかった。

恋って、これが恋だって思うものじゃない。
気付かないうちに、落ちているものなんだって……。
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