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第6章(3)マオside
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しおりを挟む貴方は、幸せなの?
彼女の瞳が、もう一度問い掛けてくる。
何故アカリさんがそんな事を聞くのか分からなかったが、僕は彼女の悲しそうな表情を見たくないと思った。
だから、言おうとしたんだ。
たった一言、「幸せですよ」って……。
……けど。
そう言おうと思ったら、僕を見つめていたアカリさんの表情がまた変わる。
目を見開いて、驚いたような彼女の表情に疑問を抱いた時。
ポタポタと自分の手に落ちる、冷たい雫。
気付いたら視野がボヤけてて、そこから溢れた涙が、頬をつたり落ちていたんだ。
「っ……あれ?っ……え、えっ?」
眼鏡を外し、慌てて自分の手で涙を拭うが次々と溢れてくる涙は止まらない。
この三年間、泣いた事なんてなかった。
どんなに悲しいと思っても、辛いと感じても、泣いた事なんてなかったのに……。
何故、僕は泣いてるんだ?
「っ……マオ、さん?」
「!っ……幸せ、ですよッ!僕はッ……幸せですっ!!」
心配そうに声を掛けようとしてくれたアカリさんの言葉を遮って、僕は叫んだ。
でも、言葉とは反対に止まってくれない涙。
微笑む事が出来ずに、動揺した心。
乱れた想いの中に浮かぶ、僕の記憶。
祖父がいて、弟がいて……。
そう、僕には家族がいる。
いつも笑顔で、こんな僕を必要としてくれる優しいミネアさんって婚約者がいる。
衣食住の整った、何不自由ない暮らし。
仕事だって、たいして何も出来ないのに与えてもらえて……。
それなのに、それなのに……。
心はいつも、空っぽな気がしてた。
僕には充分過ぎる位に恵まれていると思うのに、何故こんなにも満たされないのだろう?
僕はこれ以上、何が欲しいと言うの?
自分の事すら分からなくて、僕はずっと暗闇に立ち止まったまま。
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