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第6章(3)マオside
3-4
しおりを挟む……カッツーン!!
僕の耳に響く金属音。
我に返ると、ボーッとしていた僕の手から離れたスプーンが床に落ちていた。
「!……あ、っ……すみませんっ」
「いえ、大丈夫です!
すぐに新しい物を用意しますから」
僕よりも早くそれに気付き機敏に席を立ったアカリさんは、落ちたスプーンを拾うと取り替えてくれる為にキッチンの方へ消えて行く。
その後ろ姿を見つめながら、今度は羞恥で顔に熱が高まるのを感じた。
自分が格好悪いのも情けないのも知っている。
大人の男性になんて程遠い事も自覚している。
それにしても、呆れる程に馬鹿丸出しの自分。
特に今日は、何だか変だ。
いつも以上に自分がどうしたいのか、自分の事が分からなくなっていた。
とりあえず落ち着こうとコップに注がれていた水を一口飲み深呼吸すると、食卓のすぐ側の床を二匹の猫が駆けて行った。
逃げる白猫リディアちゃんを、小さな黒猫が追いかけじゃれ合っている。
仲の良い可愛い光景に、気持ちが和む。
ついさっきまで独りきりで寂しそうだった子猫が生き生きしている姿を見て、僕は思わず言った。
「……幸せそう」
「え?」
「あの子猫、すごく幸せそうです。
面倒見のいい先輩に、貴女のように優しい人が預かってくれて……」
ここに居れば、子猫は暖かい彼女の家族に囲まれて間違いなく幸せに暮らせるだろう。
そんな未来があの子猫の中に見えて、”いいなぁ……”って、本音が口から出かかった。
するとその瞬間に、いつの間にか正面の席に戻ってきていたアカリさんが僕に問い掛ける。
「貴方は?」
「……え?」
「貴方は、幸せですか?」
「……」
その質問に、僕は彼女を見た。
テーブルを挟んで正面に居るアカリさんは、また”あの瞳”で見つめている。
今にも泣き出しそうな、潤んだ切ない瞳。
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