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第7章(1)アランside
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【6月下旬/高級ホテルの一室】
「これからお客様がみえるの。
貴方にも縁のある方だから会っていったらどうかしら?」
10分ほど前にミネア嬢にそう言われ、この場に留まってしまった事を心から後悔した。
仕事の打ち合わせで彼女の元を訪れた筈なのに、これは何という光景だろう。
ミネア嬢がお気に入りの、上品で広いホテルの一室。
私が座る横長のソファーの横には、少し距離を空けてミネア嬢。
そして。
テーブルを挟んで正面のソファーに腰を掛けているのは、アカリ様だった。
シンッとする空間。
少し前に使用人が淹れてきた紅茶は、全くの手付かずで冷めていくこの状況。
気まず過ぎて溜め息すら吐けない。
一ヶ月程前に、私の兄である”マオ”が元妻であるアカリ様と再会をした事はミネア嬢に聞いて知っていた。
しかし、その後の兄を見ている限り、それがキッカケとなり記憶が戻る気配はない。
それに、再会を果たしたところでアカリ様には私の祖父シャルマとの約束がある。
元夫が側にいると分かったところで、何も出来やしない。
そう思っていた。
それなのに、アカリ様は何故この場に?
ミネア嬢を訪ねてきたのだろうか?
疑問を抱きながらも自らが話をすすめるべき事ではないと判断した私は、正面に座るアカリ様を見つめていた。
すると、少し俯くようにしていたアカリ様は顔を上げてミネア嬢を見る。
「今日は、お伝えしたい事があってきました。
……私は、やっぱりヴァロンの事が好きですっ。忘れる事なんて、出来ません!」
沈黙を破ったアカリ様の言葉に、私は思わず心の中でやれやれと愚痴をこぼした。
「これからお客様がみえるの。
貴方にも縁のある方だから会っていったらどうかしら?」
10分ほど前にミネア嬢にそう言われ、この場に留まってしまった事を心から後悔した。
仕事の打ち合わせで彼女の元を訪れた筈なのに、これは何という光景だろう。
ミネア嬢がお気に入りの、上品で広いホテルの一室。
私が座る横長のソファーの横には、少し距離を空けてミネア嬢。
そして。
テーブルを挟んで正面のソファーに腰を掛けているのは、アカリ様だった。
シンッとする空間。
少し前に使用人が淹れてきた紅茶は、全くの手付かずで冷めていくこの状況。
気まず過ぎて溜め息すら吐けない。
一ヶ月程前に、私の兄である”マオ”が元妻であるアカリ様と再会をした事はミネア嬢に聞いて知っていた。
しかし、その後の兄を見ている限り、それがキッカケとなり記憶が戻る気配はない。
それに、再会を果たしたところでアカリ様には私の祖父シャルマとの約束がある。
元夫が側にいると分かったところで、何も出来やしない。
そう思っていた。
それなのに、アカリ様は何故この場に?
ミネア嬢を訪ねてきたのだろうか?
疑問を抱きながらも自らが話をすすめるべき事ではないと判断した私は、正面に座るアカリ様を見つめていた。
すると、少し俯くようにしていたアカリ様は顔を上げてミネア嬢を見る。
「今日は、お伝えしたい事があってきました。
……私は、やっぱりヴァロンの事が好きですっ。忘れる事なんて、出来ません!」
沈黙を破ったアカリ様の言葉に、私は思わず心の中でやれやれと愚痴をこぼした。
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