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第7章(3)ユイside
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【小さな島】
「やっぱり。
ここに居たんですね、ユイさん」
リディア母さんのお墓の前で屈んでいる私に、声を掛けてくれたのはレイさん。
チラッとその姿を横目で確認すると、すぐさま目を逸らして俯いた。
少し前までの自分と同じ紺色の制服を着ているレイさんは、今の私には痛く突き刺さる。
「……帰って下さい」
これ以上、見たくなかった。
彼が嫌いな訳ではない。
その制服を着たレイさんを見ていると、嫌でも思い出してしまうからだ。
弱い自分に負けて、調査員の仕事を投げ出して、逃げてきた自分を……。
そう。
謹慎処分を受けた私は、あれからずっと自宅に引きこもっていた。
何とか、変わりたいと願って一人で考えていた。
ーーけれど、何も変わらなかった。
それどころか、どんどん追い込まれて悪い考えしか浮かばない日々。
そして、耐えきれなくなった私はマスターさん達にも何も言わずに、生まれ故郷であるこの小さな島に戻ってきた。
育ての親である診療所の先生と奥さんは、黙って私を受け入れて「おかえり」と言ってくれた。
それから、ひと月余り……。
居心地の良い環境で過ごせば、いつかは落ち着くと思っていたのに、調査員の制服を見たらまた胸が締め付けられて痛くなった。
「帰りますよ。
でも、その時はユイさんも一緒です」
「……」
「ボクは、ユイさんを迎えにきたんです」
私の耳に届く、レイさんの声。
その優しい声と言葉は、まるで絵本の王子様がヒロインの女の子に言う台詞みたい。
そんな事を思って、私は俯いて自分の表情が見えないのをいい事に思わず、くすっと笑った。
……嬉しかったからではない。
これは、苦笑いだ。
だって私は、自分が可愛いヒロインになれる女の子だなんて思ってはいないのだから。
「やっぱり。
ここに居たんですね、ユイさん」
リディア母さんのお墓の前で屈んでいる私に、声を掛けてくれたのはレイさん。
チラッとその姿を横目で確認すると、すぐさま目を逸らして俯いた。
少し前までの自分と同じ紺色の制服を着ているレイさんは、今の私には痛く突き刺さる。
「……帰って下さい」
これ以上、見たくなかった。
彼が嫌いな訳ではない。
その制服を着たレイさんを見ていると、嫌でも思い出してしまうからだ。
弱い自分に負けて、調査員の仕事を投げ出して、逃げてきた自分を……。
そう。
謹慎処分を受けた私は、あれからずっと自宅に引きこもっていた。
何とか、変わりたいと願って一人で考えていた。
ーーけれど、何も変わらなかった。
それどころか、どんどん追い込まれて悪い考えしか浮かばない日々。
そして、耐えきれなくなった私はマスターさん達にも何も言わずに、生まれ故郷であるこの小さな島に戻ってきた。
育ての親である診療所の先生と奥さんは、黙って私を受け入れて「おかえり」と言ってくれた。
それから、ひと月余り……。
居心地の良い環境で過ごせば、いつかは落ち着くと思っていたのに、調査員の制服を見たらまた胸が締め付けられて痛くなった。
「帰りますよ。
でも、その時はユイさんも一緒です」
「……」
「ボクは、ユイさんを迎えにきたんです」
私の耳に届く、レイさんの声。
その優しい声と言葉は、まるで絵本の王子様がヒロインの女の子に言う台詞みたい。
そんな事を思って、私は俯いて自分の表情が見えないのをいい事に思わず、くすっと笑った。
……嬉しかったからではない。
これは、苦笑いだ。
だって私は、自分が可愛いヒロインになれる女の子だなんて思ってはいないのだから。
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