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第8章(5)アカリside
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しおりを挟むその姿と表情に、私の胸がドキンッと弾まない筈がない。
伊達眼鏡を外して、前髪を上げて、意地悪そうに笑う彼は……。
もう、”ヴァロン”がこの場に居るようにしか私には見えないのだから……。
ーーッ。
私の中で、その名を呼びたいと……。
呼んでみていいのではないか?と、いう感情が溢れて、口から飛び出しそうになる。
「ヴァロン!」って呼んだら、魔法が解けるみたいに、彼が戻ってきてくれるんじゃないか?って……。
ーー人間は、欲深い。
謙虚に生きようとしても、目の前に幸福を吊り下げられたら……。掴みたくなるもの、なのだ。
『私が好きなのは、”今の彼”。
勿論、思い出してくれたら嬉しいです。
……でも、彼がいてくれたらそれだけでいい。想い出なんて、また作り直せばいいんです!』
……。
もう一度、”今の貴方”を好きになるって思っていたのに……。
一瞬、マオさんの存在を忘れてしまう。
私の心は、やっぱり”ヴァロン”を捜してしまっていた。
「っ……ヴァロ……」
「ーーマオ様ッ!!」
約束を破った者に、きっと神様は罰を与えるーー。
愛おしい彼の真名を呼ぼうとした私の声を抑え込む、背後からの鋭い響き。
「マオ様ッ!!」と呼んだその声の主を、私は知っている。
「……ディアス?」
呼ばれた彼が、子供達を追いかける足を止めて、名を呼んだ人物に視線を向けた。
後ろから、彼に歩み寄っていくその人の革靴の音が、コツッコツッと聴こえて……。
横を通り過ぎて行くのを、私は黙って見送った。
……いや。
私は”何も出来なかった”のだ。
何となく感じる、威圧感に……。
声も出せずに、その場に凍り付いたように動けない。
「ディアス。なんで……ここに?」
戸惑った表情でそう尋ねる彼の側まで行った、黒いスーツ姿に長い黒髪を後ろで束ねた男性ーー。ディアスさんは、問い掛けに答えない。
問い掛けに答えず、スッとこちらに顔だけを向けて……。私を、見た。
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