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第12章(3)アカリside

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〈回想〉
【2月28日/アカリ監禁部屋】

「アカリ様、こいつと一緒にここから逃げるんだ」

アラン様は自分と一緒に私の元を訪れた男性を、紹介してくれた。
漆黒の長髪に、漆黒の瞳の男性。
名前をディアスさんと言った。

突然の事に驚きを隠せない私に、アラン様は簡潔に告げた。
彼はアラン様の家系に代々勤める執事で腕も立ち、信用出来る人物だと。
自分の父親であるリオン様に絶対の忠誠を誓っており、その息子であるヴァロンの事も陰ながら見守っていた事も……。


アラン様の言葉を嘘だとは感じなかったし、それに……。


「必ずお守り致します。アカリ様」

そう優しい口調で私に微笑むディアスさんを見て、私は思い出したの。
去年の、クリスマスイブの事を……。

”幸せにしてあげて下さい。”

ヴァロンの事を、私にそうお願いした人。

優しい、穏やかな口調の……。クマさん。


……。

ディアスさんは、港街の夢の配達人の隠れ家に私を送り届けるまでの道中で、自分が知るヴァロンの全てを話してくれた。
……もちろん、リオン様とアンナ様の事も。

ヴァロンが自らを責め、封じた過去。
大好きな両親を恨めなくて、嫌いになれなくて……。
自分のせいにする事で、彼は”仕方なかった”って必死に言い聞かせて生きてきたんだ。


”探してる本があるんだけどさ、なかなか見付からないんだよね。
……ま、タイトルも作者名も覚えてないから当たり前なんだけどさ。
そんな感じの文字だった事しか分かんなくて読み漁ってるって訳。”

いつだったかヴァロンが言ってた、本の事。
それは、きっとお父さんの書いた本。
記憶を失くしても、ずっと彼はあの日のまま……お父さんを待ち続けていたんだ。

言いつけを守って、人を憎まず、強く賢くなって、お金持ちになって……。
家族の為に、生きる道を歩んできた。
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