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第12章(4)アカリside

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生半可な嘘じゃなく、ヴァロンに嫌われる位の酷い嘘と演技をしよう。
そう、心に決めて冷たい言葉を吐き続ける。


「私ね、本当は毎日寂しかったの。
旦那様にはいつだって、毎日家に帰って来てほしかった。
仕事よりも私を見てくれて、家庭を顧みてくれる旦那様が良かった」

「……」

「生活には不自由ないし、お金があるからいいかな~って最初は思ってたんだけど……。やっぱり無理。
私にはこれ以上、耐えられない」

「……」

「……私達、合わなかったんだよ。
だから、別れたい。もう、終わりにしたい」

「……」

胸が張り裂けそうな気持ちで言葉を紡ぐ私に、ヴァロンは何も言わなかった。

何も言わずに、私を見ていて……。
私が話すのをやめて沈黙の時間が流れると、静かに顔を背けるように俯いた。

泣いているようなその姿に、胸がズキッと痛んで……。
私の我慢も、もう限界に近付いてくる。


「……じゃあ。もう、行くね」

「……待って」

これ以上側に居たら込み上げる涙を抑えられそうになくて、この場を去ろうとした私を……。
ずっと黙っていたヴァロンが、口を開いて呼び止めた。


「一つ……。一つ聞かせて?」

「……」

「この2年……。
俺と結婚した、この2年間。アカリは幸せだった?」

「……」

「たとえひと時でも……。
アカリは俺と居られて、幸せだったと思ってくれた瞬間があったか?」

「っ……」

ヴァロンの質問が私の胸を打ち付ける。


幸せ、だったよ。
幸せじゃない時なんて、なかった。

悲しみの後には喜びがあって……。
涙の後には、笑顔があって……。

ヴァロンはいつだって、私を幸せにしてくれた。

ヴァロンと結婚して、夫婦でいられて……。
私は、幸せだった。


「……うんっ。
すごく、幸せだったよ!」

そう言って、私は微笑んだ。
この言葉と笑顔だけは嘘じゃない。
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