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第24章(5)アカリside
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「っ……、スズカ?これは……一体、……」
責められる事を、覚悟していた。
怒られても仕方ないと思った。
……けど。スズカに言われるがままの通りにしていた私は、自分と彼女の姿を交互に見て目を丸くする。
何故なら、さっきまで私が着ていた服をスズカが。スズカが着ていた使用人服を、今自分が着ているのだから……。
「……良かった。なんとか、誤魔化せそうですね?」
茫然としていると、スズカはそう言って結い上げていた自分の髪を下ろし、そのゆい紐で私の髪を自分そっくりに結い上げていく。
そして最後に私の目の前に立って使用人用のカチューシャを付けてくれた後、にっこりと微笑んだ。
「本日結婚式のお手伝いの為にアラン邸から来た使用人が私のみで、ようございました。
準備に携わるほとんどの者がアカリ様のお顔を知りません。きっと、これで上手く誤魔化せるかと」
「っ、え……?」
「準備中は何かとバタバタし、外へ出られる隙もありましょう。
……どうか、後の事は私に任せて行って下さいませ」
その言葉に、全てを理解する。
真っ直ぐな、決意のこもった瞳に見つめられて、また涙が溢れてきた。
スズカは私の身代わりになって、ここから逃げ出せるように……。ヴァロンの元に行かせようとしてくれていた。
「っ……ダメ、ッ……そんな事をしたら、スズカがっ……!」
彼女の想いに触れて、そこでようやく私は今から自分がしようとしている事の重大さに気付いた。
結婚式の当日に、花嫁が逃亡ーー?
そんな事、絶対に許される事ではなかった。
私が消えてしまったら、それに加担したスズカはどうなるの?
孫娘が結婚式を打ち壊したら、お祖父様は?
次々と思い浮かんでくる、みんなへの想い。
そして、何より……。
『兄上とアルバート様の事を想うなら、オレを利用すればいい。
……安心しろ。必ず守ってやるさ』
去年のクリスマスイブ。失恋した私にそう言ってくれた。
いつも口が悪くて、意地悪で……。でも、気付いたらいつも私の為に動いてくれていた。
アラン様。
彼を、こんな形で裏切ってしまって許される訳がない。
「っ……行け、ないよッ。行ける訳、っ……ない」
たくさん支えてもらいながら、私はまだ何も彼に返せていない。
いつも口うるさくして、怒って……。彼の優しさに、想いに気付いていながら、私は……。
「ーーアラン様のお気持ちを尊重されるのならば、心配いりません」
「っ……?」
ウェディングドレスに視線を移し、涙を流していた私にスズカが言った。
そして、「アラン様、申し訳ありません」とボソッと呟くと、彼女は複雑そうな笑顔を浮かべながら話してくれた。
不器用なアラン様が私にくれた、精一杯の望みを……。
「っ……、スズカ?これは……一体、……」
責められる事を、覚悟していた。
怒られても仕方ないと思った。
……けど。スズカに言われるがままの通りにしていた私は、自分と彼女の姿を交互に見て目を丸くする。
何故なら、さっきまで私が着ていた服をスズカが。スズカが着ていた使用人服を、今自分が着ているのだから……。
「……良かった。なんとか、誤魔化せそうですね?」
茫然としていると、スズカはそう言って結い上げていた自分の髪を下ろし、そのゆい紐で私の髪を自分そっくりに結い上げていく。
そして最後に私の目の前に立って使用人用のカチューシャを付けてくれた後、にっこりと微笑んだ。
「本日結婚式のお手伝いの為にアラン邸から来た使用人が私のみで、ようございました。
準備に携わるほとんどの者がアカリ様のお顔を知りません。きっと、これで上手く誤魔化せるかと」
「っ、え……?」
「準備中は何かとバタバタし、外へ出られる隙もありましょう。
……どうか、後の事は私に任せて行って下さいませ」
その言葉に、全てを理解する。
真っ直ぐな、決意のこもった瞳に見つめられて、また涙が溢れてきた。
スズカは私の身代わりになって、ここから逃げ出せるように……。ヴァロンの元に行かせようとしてくれていた。
「っ……ダメ、ッ……そんな事をしたら、スズカがっ……!」
彼女の想いに触れて、そこでようやく私は今から自分がしようとしている事の重大さに気付いた。
結婚式の当日に、花嫁が逃亡ーー?
そんな事、絶対に許される事ではなかった。
私が消えてしまったら、それに加担したスズカはどうなるの?
孫娘が結婚式を打ち壊したら、お祖父様は?
次々と思い浮かんでくる、みんなへの想い。
そして、何より……。
『兄上とアルバート様の事を想うなら、オレを利用すればいい。
……安心しろ。必ず守ってやるさ』
去年のクリスマスイブ。失恋した私にそう言ってくれた。
いつも口が悪くて、意地悪で……。でも、気付いたらいつも私の為に動いてくれていた。
アラン様。
彼を、こんな形で裏切ってしまって許される訳がない。
「っ……行け、ないよッ。行ける訳、っ……ない」
たくさん支えてもらいながら、私はまだ何も彼に返せていない。
いつも口うるさくして、怒って……。彼の優しさに、想いに気付いていながら、私は……。
「ーーアラン様のお気持ちを尊重されるのならば、心配いりません」
「っ……?」
ウェディングドレスに視線を移し、涙を流していた私にスズカが言った。
そして、「アラン様、申し訳ありません」とボソッと呟くと、彼女は複雑そうな笑顔を浮かべながら話してくれた。
不器用なアラン様が私にくれた、精一杯の望みを……。
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