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第25章(4)アランside
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しおりを挟むシャルマ様が、死んだーー?
動けない目の前で、信じられない事が起こった。
胸をナイフで貫かれ、ゆっくりと自分の元にもたれ掛かるように倒れたシャルマ様を抱き留めたディアスが、床に敷かれたカーペットの上にその亡骸を寝かせ、傍で跪いている。
突然の事態に混乱してただただ立ち尽くしていると、背後から抱き付くようにしてオレの手を握っていた手がゆっくり離れ、その"何者か"は歩き出した。
そして、オレの正面に来ると司祭のようなローブを身に纏った何者かは、被っていたフードをバサッと取り、その顔をさらして言った。
「貴方はここに居ては駄目よ。
さぁ、すぐにこの場から離れなさい」
「!っ、……ぁ、……ヴァ、ロン……?」
自由になり、その姿見たオレの口から思わず出た名前。
頭では違うと分かっているのに、そう問うように言ってしまった。
目の前に居るのは女性だ。
横束ねにして肩から前に流した長い黒髪。そして漆黒の瞳の、美しい女性。
けれど顔立ちが……。射るような強い眼差しが、記憶を失くす前の兄上にとてもよく似ていた。
その女性を見て"まさか"と思う。
だって、年齢がオレとさほど変わらないように見える大人の女性。目の前の女性と、今オレがまさかと思い浮かべている人物が本当に同一人物ならば、年齢はもう70歳に近い筈だ。
こんな事があるのか?
シャルマ様から兄上の母親の素性を聞いていなかったオレは、信じられない気持ちでいっぱいだった。
これは夢か幻か?、そう心の中で問いただした瞬間。
「信じられない、わよね?」
「!っ……」
「そう、これは夢か幻……。この場で起きた事、私を見た事。そう思って、忘れてくれたら有り難いわ」
心の中を覗かれたかのような言葉にドキッとする。
自分の目の前で、今起きている事の全てに混乱して、もう何にも縛られておらず自由な筈なのに身体動かない。
すると、もう永久に目を覚ます事がなくなったシャルマ様の傍に居たディアスが立ち上がり口を開いた。
「アンナ様、急ぎましょう」
!!っ……アンナーー。
まさか、とは思ってはいたのに、やはりその名を聞いて受けた衝撃はかなりのものだった。
雷に打たれたら、こんな感じなのだろうか?
身体の中心にある胸……。いや、心の奥がギュッと締め付けられて痛くて、ビリビリするように身体が小刻みに震える。
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