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(4)アランside
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しおりを挟む「俺も、家族ってどんなものなのか、ずっと知らなかったから」
「!……、ぁ……」
「両親に捨てられた、って思い込んでたし……。そんな自分が結婚して、家族を持って、ましてや子供を愛せるのかな?って、ずっと思ってた」
……そうだった。
自分ばかりが両親からの愛を得られず、不幸だと思っていたが……。兄上もまた、過酷な幼少期を過ごしていたのだ。
言われて思い出し、改めて自分の事しか考えていなかった事を腹立たしく、申し訳なく思った。
けれど兄上は少しも怒ったり嫌な顔をせず、教えてくれる。
「でもさ、なんとかなるんだよ。自然と」
「……」
「本当に好きな人と一緒に居ると、一人だった時とは違う景色や未来が見えるようになるんだ。
こんな事したい、あんな事したい。……愛おしくて、大切で、ずっと一緒に居たくて結婚する。共に過ごすうちに、オレはアカリが自分の子供も抱いてる姿を見たくなった」
「……。
一緒に居るうちに……自然と?」
「ああ。だって、そうだろ?自分と相手、二人の未来なんだぜ?
自分一人じゃ、絶対に見えない世界だろ?」
「!!ッーー……」
自分一人では、絶対に見えない世界ーー。
兄上のその言葉が、何よりもオレの心を動かした。
オレはずっと、勝手に思い込んでいた。
相手の気持ちや考えなんて聞かないまま、一人で先走っていたんだ。
自分とこの女とでは、住む世界が違うーー。
誰が、いつそんな事を言った?
女が今の関係をどう思っているのかも、これからどうしていきたいのかも知らず……。ただ自分一人で、考えて、想像して……不安がって、怯えていた。
「……まずお前が立つ土俵は、最初の最初だな」
「!……兄上?」
「まずは、"相手と一緒にスタートラインに立つ"事だ。
……言ってる意味、分かるよな?」
ようやく自分の間違いに気付けたオレに、兄上が週刊誌をもう一度見せながら問い掛ける。
今のオレがやるべき事。
それは、"この記事がデマであり、本当に想っている相手が誰であるのか"、あの女に……。
いや、スズカに伝える事だーー。
「はい!行ってきます、兄上!」
オレは笑顔になって頷くと、その日の仕事を全て他の者に任せて自宅へと急いだ。
仕事を投げ出して女の元へ行くなんて、これが初めての事だった。
……
…………。
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