王子様の世話は愛の行為から。

月野犬猫先生

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第二十八話 京都1日目(露天風呂にて)3

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葵が脱衣場に入ると、そこには既に上半身の服を脱いだ優一が立っていた。
そして今はベルトに手をかけているところだ。

「あーそういえば食休みした方が良かったかな」

「え、お、俺は大丈夫ですけど…」

(うわぁ…優一さんの上半身ってこんなに綺麗だったんだ…)

優一の上半身は細くて白くて、程よく筋肉質で、腹筋が割れていた。
確かに身長も高いしスタイルはいいんだろうと思ってはいたけれど、すらっとしてる体型で腹筋まで綺麗に割れていているなんて、いくら俳優でももはや尊敬に値するレベルで体型維持がプロだな、と思った。
それに綺麗な王子様フェイスとのギャップなのか、鎖骨辺りは妙に色気があって、葵は思わずそこに釘付けになってしまった。

自分の子供っぽい体型とはまるで、大違いだ。

「ん?葵くん?」

「…ふぇっ?あ、す、すみません!…」

(い、いけない。見入ってしまった…)

葵はぱっと目を逸らすと、自分も服を脱ぎ始めた。

「気にしないでください。」

けれど何だか無性にドキドキが収まらなくて、脱ぐだけなのに緊張のような感覚が手に伝わってきた。

(意味わかんねぇ…ただ男同士で風呂入るだけなのに…)

優一だってさっき言ったように誰にでも反応するわけじゃないのに。

それなのに自分は未だに変な偏見を抱いてしまっているのだろうか?

変なことなんて何も無い。
家賃分のキスだって旅行の時は無いし、これ以上触れるなんてことも、無い。

無いのに…

「葵くん」

「はっ、はい?…」

葵が優一の方に顔を向けると、既に全裸になった優一の身体が視界に飛び込んできて、葵は思わず大袈裟に顔を逸らしてしまった。

「ん?」

「あ、い、いや!すみません。…なんです?」

(うわぁあ…み、見てしまった…優一さんの裸…)

葵は目を背けたまま返事をする。
けれど一瞬にして優一の裸が目に焼き付いてしまった。

(ていうか、優一さんて結構……)

ドクン…ドクン…

葵は自分の腰に巻いているタオルをぎゅっと握る。
更にドキドキが激しくなってしまった気がして、けれどそれを出さないよう必死に冷静を装う。

「タオル…巻いていくの?」

「え?」

「いや、二人だけだし別に必要ない気がするなーって思うんだけど。」

「い、いや一応ですよ、一応…」

「もしかして見られるのが恥ずかしいの?」

「え、ま、まあ…そうですね」

「でも、大丈夫だよ?」

「え、な、何が大丈夫なんですか」

「ん?だって、僕はもう初日にしっかり見てるし」

「なっ……!!!」

その瞬間葵は初日にされてしまったことを思い出して、顔が真っ赤になってしまった。
ドキドキした胸が、相手にも聞こえそうで怖い。

しかし、その反応に対し優一はまるで面白いものでも見たかのように笑う。

「はは、そんな反応する?まあ、ごめんごめん。良いよ。タオルは付けてて」

その余裕な感じが、なんだか嫌になる。

「な、なんなんですかホントに…」

(変な事言ってきやがって…)

けれどそんな葵の事など知る由もなく、優一は楽しそうに笑ったあとで、「それじゃ入ろっか」と、露天風呂へ続く扉をガラッと開けた。
すると途端に外気が舞い込んでくる。
けれど夏の夜の風は思っていたよりも優しくて心地好い。

この部屋に付いている露天風呂は、石積みにされた中にあり、端には湯けむりを上げた温泉が滝のように上の方から流れていた。
ここの部屋は大通りの反対側で、山等の景色が広がっていた。
だからこそ、街明かりの映らない暗闇の中で、星の明かりがよく映り込んで、露天風呂近くに設置されたオレンジ色の淡い光とマッチして幻想的な空間を創り上げていた。

「うわぁ…凄い…」

「綺麗だね」

「ですね…」

こんなに美しい光景を見るのは初めてで、葵は上手く言葉に出来なかった。
ただただ、感動だけだった。



それから葵は優一と共にシャワーで軽く体や髪を洗い、もう一度、露天風呂の方へ戻った。

葵は早速露天風呂のお湯の中へ足を入れる。
しかしその瞬間足にジリッとした熱さが襲ってきて、瞬発的に足を引っ込めてしまった。

「あつっ…」

(温泉てこんなに熱かったっけ…?)

「はは、熱さに慣らしてから入らないときついと思うよ」

「そっか…」

と言いつつ、優一は平然と露天風呂の中へ入っていく。

「え、熱くないんですか」

「いやまあ僕は熱いの得意だし」

「そ、そうなんだ…」

(てそういえばいつも風呂の温度41度ぐらいにしてたなこの人…)

葵は足元や体に少しばかりお湯をかけて慣らしてからゆっくりと露天風呂の中へ入った。
まだそれでも身体は熱いな、と感じるけれど、外気とお湯のジーンとした熱さがなんだか気持ちよくて、次第に頭がボーッとなってくる。

ふと空を見上げると、満天の星空だった。

葵はボーッとした頭の中で夏の星座を探してみる。
この間は結局雨で天体観測が出来なかったけれど、やはり星は綺麗で、やはり夏の星座の観測をしたかったなと思った。

「ここの部屋で大正解だったな。反対の部屋だと街明かりがあって星はあまり見えなかったと思うから。」

「ですね。」

ふと優一の方へ向くと、目が合う。
先程のシャワーの時もあまりよく顔を見れなくて、だけど今見ると水に濡れた優一が、淡い光に映し出されてなんだか妙に色っぽく見えてしまった。

ドクン…

「なに?」

「え、あ…いや…」

そういえば、露天風呂は意外と広いのにやけに距離が近い気がする。
というか優一が寄ってきている…?
って、流石に気にしすぎだろうか。


「ていうか葵くん、もうタオル取っていいんじゃない?」

「え…あ…そ、そっか。忘れてました」

葵は優一に言われるままタオルを取る。
けれどそれだけで急激にドキドキしてしまって、葵は思わずタオルを握りしめた。

なんだか、変だ。身体が、熱い。

「葵くん、大丈夫?もしかして、逆上せた?」

「の、逆上せてないですよ」

「そっか。こっちの方がもっと星見れるからおいでよ」

「え、で、でも…そんな中の方まで入れないですよ」

「いいから、おいで」

突如優一に腕を引っ張られた。

「ちょっ……優一さんっ」

その瞬間掴んでいたタオルがはだけてしまう。
そして優一との距離も先程よりも遥かに近付いて、もう僅かな隙間しかない。
葵はその場で思わず固まってしまった。
足と足が触れている。
握られた手から相手の脈拍が感じられて、熱い。

とにかくこんな感覚は初めてで、葵は脳内が軽くパニックになっていた。

(え、な、なんでこんな近いんだよ…お、俺ど、どうすれば…!?)

ドクン…

「ほら、ここからの星の方がよく見えるでしょ?あの星はなんていう名前なのかな…」

ドクン…

(ーーーーあれ、俺もしかして)

もしかして。

「葵くんならあの星なんて名前かわかりそうだな」

葵は恐る恐る自分のに触れた。

(嘘だろ…)

少し大きくなっている。
でも、ここに女の人なんていないし。

ということはーーーー

まさか。

まさか…?

「って、葵くん?」

「は、はい!!」

「ごめん。うるさかった?」

「あ、い、いやいや!大丈夫です!ただ、やっぱり俺、あの手前の方でいいかなぁってお、思うんですけど…」

確かにここの場所は星が先程の場所よりもよく見える。
けれど、葵は今絶体絶命の大ピンチだった。
これ以上近くに寄れば自分の体がどうなってしまうのか、自分がどうなってしまうのかわからない。
むしろ、すぐにでもトイレに行ってそそれがであることを確認したい。

だって、まさか優一の、男の体に自分が反応してしまったなんて信じられるわけがないのだから。


「そうなの?なら、それでもいいけど…」

「は、はいっ」

(あぁもう最悪だ…)

葵は優一の手から解き放たれると、ゆっくりお湯に深く浸かりながら手前の方へと戻る。
こんなの、絶対に気づかれてはいけない。
気づかれたらどうなってしまうか分からないし。
風呂に入っただけで反応とか最低すぎるし、恥ずかしすぎる。


葵は優一と距離を取って、部屋の方を向いた。
とにかく落ち着かせようと必死だった。

けれど、だめだ。
男の体は1度反応してしまうと、ほっとけるわけがない。

やはり、トイレに行くべきか?

「す、すみません。優一さん…」

「ん?」

「お、俺もう出ますね」

「え?早くない?」

「あ、てか…トイレ…行きたくなってしまって」

(早くしないとっ)

「ああ、そう。」

「はい…」

(よし、急いで上がろう…)

葵はそう思ってタオルを探す。けれどタオルが見当たらない。

「あ、あれ、タオルは…」

思わず声が漏れる。
すると優一が気づいたようだった。

「ん?タオル?ーーーーあ、ここに沈んでる」

(おいおい!そっちの方かよ!)

「優一さん、と、とってください」

「そんないちいちタオル付けなくても…見ないし」

「で、ですけど一応…!」

(とか言いつつ見られたらマジでやばいし、!)

葵が必死になってそう言うと、優一が何かの異変に気づいたようだった。
葵が必死に手で抑えているそれに目を向けられる。

(ま、まずい……)

「な、なんですか…?」

こんなに熱いお湯に浸かっているというのに、冷や汗が湧き上がってくる気がした。
自分は少し必死になりすぎていたかもしれない。
素早く行けば別にタオルで隠さなくたってバレなかったかもしれないし、優一は本当に見なかったかもしれないというのに。

優一は立ち上がるとゆっくりとこちらに歩み寄る。

そしてギリギリまで近づいたところで、口を開いた。

ドクン…


 「葵くん。その手、どかして?」

「…は、はい!?」

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