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屋敷の中に踏み込んで、改めてリアンはこの屋敷がどれほどまで立派な建物なのかを実感したーーー
所謂このお屋敷はイングランドの上流階級しか住むことの出来ない古いお屋敷だった。
外装も細かな装飾が施されていたが、内装は想像を超えていた。
リアンもそれなりに良いお屋敷に住んでいたが、ここまでの広さではない。
リアンが先ず通された大広間には凝ったマントルピースや6人ほどは座れるであろう真っ黒いソファ、そして中央には大きなシャンデリアがダイヤの輝きを放っている。
「すごいでしょう?全部ヴァーレン様の功績を称えられ捧げられたこだわり抜いた逸品物なんですよ。」
蛇男はリアンを大きなソファに座らせると、満足気に説明した。
(功績…一体何をしているんだろう…?)
リアンはそう思いながらも聞き返さずにじっと蛇男を見つめた。
「あれもこれも全部美しいものばかりです。でもその中でもこの大きな振り子時計は私のお気に入りでもあります。」
蛇男はそう言うと、大広間の中央に立て掛けられた大きな時計を指さした。
年季が入っているが、汚れひとつなくガラス張りの奥に座している振り子はまるで新品そのものの輝きを放っている。
ただーーーー針は動いていない。
そういえば、さっきと打って変わって蛇男は優しい目付きになっていた。リアンを見てももう喉をうならせる事は無い。
(対応がここまで変わるなんて…)
「ファブル、そんな話はどうでもいい。屋敷のものはどうした。」
ふと、ヴァーレンが蛇男に尋ねる。
リアンはそこで初めて、蛇男の名前がファブルだということを知った。
「ああっ!すみません。あいつらは相変わらず私の言う事は聞かなくて。」
「そうか。夕暮れには帰るよう伝言を飛ばしておけ。私は用を思い出した」
「かしこまりました!あ、この…人間…どうしますか?」
ファブルはソファの端にちょこんと立ち尽くすリアンを指さす。
「…身体を洗っておけ。」
ヴァーレンはリアンを暫く眺めると、一言そう告げた。
「はっ!畏まりました。ではいってらっしゃいませ。」
ファブルはそう言うとコートを翻して玄関先に向かうヴァーレンの背に深々と敬礼する。
そしてヴァーレンが外に出ていくと、暫くしてこちらにぐるりと振り向いた。
「ーーー人間、お名前は?」
「あっ…えと。リアンっ…です」
リアンは咄嗟にそう答えた。
「ほう、リアンですか…。ふむふむ。低い身分にしては良い名前を貰ったんですね。」
「あ、ありがとうございます…」
リアンは母親を褒められたような気持ちで少し嬉しくなった。
恐ろしい義母の声がリアンの名前を侮辱する毎日だったからか怪物に褒められても嬉しいものは嬉しいのだな、とリアンはそんなことを思いつつ綻ぶ顔を伏せた。
「ーーーー私の名はファブル、そのままファブルでも、ブルでもお呼びください。この屋敷の第1執事です。他にも執事がいますが、身分が違うんですよ。私はその中でもヴァーレン様に選ばれたーーーー」
リアンはふと「ファブル、ブル…」と小さく名前を呟いてみる。確かにブルの方が言いやすいけれど、何となくこの男に対してはそう呼べない雰囲気だ。
「あ、あの、聞いてます?」
「あ、すみません…」
「ま、まあいいでしょう。それじゃあリアン、バスルームに行きますよ。その汚れた服でこれ以上屋敷を歩くとヴァーレン様に怒られますからね。あの方を怒らせると怖いんですから!」
リアンはファブルの気迫にビクッとなりながら薄汚れた裾をぎゅっと握る。
確かに気づけば、ホコリがついていてところどころ黄ばんでいた。
「あ、あの…でも着替え持ってなくて」
「ああ、そういうことなら着替えはこちらで全て新しいものを用意しますのでご心配なく。」
そう答えるファブルの手にはいつの間にか綺麗な白い布が畳まれていた。
(あれ、いつの間に…?)
「それともう1つ。このお屋敷は広いので迷わないで着いてきてくださいね。」
ファブルはそう言うと颯爽と大広間を抜け長い廊下に出ていく。
リアンはその後を慌てて着いていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
所謂このお屋敷はイングランドの上流階級しか住むことの出来ない古いお屋敷だった。
外装も細かな装飾が施されていたが、内装は想像を超えていた。
リアンもそれなりに良いお屋敷に住んでいたが、ここまでの広さではない。
リアンが先ず通された大広間には凝ったマントルピースや6人ほどは座れるであろう真っ黒いソファ、そして中央には大きなシャンデリアがダイヤの輝きを放っている。
「すごいでしょう?全部ヴァーレン様の功績を称えられ捧げられたこだわり抜いた逸品物なんですよ。」
蛇男はリアンを大きなソファに座らせると、満足気に説明した。
(功績…一体何をしているんだろう…?)
リアンはそう思いながらも聞き返さずにじっと蛇男を見つめた。
「あれもこれも全部美しいものばかりです。でもその中でもこの大きな振り子時計は私のお気に入りでもあります。」
蛇男はそう言うと、大広間の中央に立て掛けられた大きな時計を指さした。
年季が入っているが、汚れひとつなくガラス張りの奥に座している振り子はまるで新品そのものの輝きを放っている。
ただーーーー針は動いていない。
そういえば、さっきと打って変わって蛇男は優しい目付きになっていた。リアンを見てももう喉をうならせる事は無い。
(対応がここまで変わるなんて…)
「ファブル、そんな話はどうでもいい。屋敷のものはどうした。」
ふと、ヴァーレンが蛇男に尋ねる。
リアンはそこで初めて、蛇男の名前がファブルだということを知った。
「ああっ!すみません。あいつらは相変わらず私の言う事は聞かなくて。」
「そうか。夕暮れには帰るよう伝言を飛ばしておけ。私は用を思い出した」
「かしこまりました!あ、この…人間…どうしますか?」
ファブルはソファの端にちょこんと立ち尽くすリアンを指さす。
「…身体を洗っておけ。」
ヴァーレンはリアンを暫く眺めると、一言そう告げた。
「はっ!畏まりました。ではいってらっしゃいませ。」
ファブルはそう言うとコートを翻して玄関先に向かうヴァーレンの背に深々と敬礼する。
そしてヴァーレンが外に出ていくと、暫くしてこちらにぐるりと振り向いた。
「ーーー人間、お名前は?」
「あっ…えと。リアンっ…です」
リアンは咄嗟にそう答えた。
「ほう、リアンですか…。ふむふむ。低い身分にしては良い名前を貰ったんですね。」
「あ、ありがとうございます…」
リアンは母親を褒められたような気持ちで少し嬉しくなった。
恐ろしい義母の声がリアンの名前を侮辱する毎日だったからか怪物に褒められても嬉しいものは嬉しいのだな、とリアンはそんなことを思いつつ綻ぶ顔を伏せた。
「ーーーー私の名はファブル、そのままファブルでも、ブルでもお呼びください。この屋敷の第1執事です。他にも執事がいますが、身分が違うんですよ。私はその中でもヴァーレン様に選ばれたーーーー」
リアンはふと「ファブル、ブル…」と小さく名前を呟いてみる。確かにブルの方が言いやすいけれど、何となくこの男に対してはそう呼べない雰囲気だ。
「あ、あの、聞いてます?」
「あ、すみません…」
「ま、まあいいでしょう。それじゃあリアン、バスルームに行きますよ。その汚れた服でこれ以上屋敷を歩くとヴァーレン様に怒られますからね。あの方を怒らせると怖いんですから!」
リアンはファブルの気迫にビクッとなりながら薄汚れた裾をぎゅっと握る。
確かに気づけば、ホコリがついていてところどころ黄ばんでいた。
「あ、あの…でも着替え持ってなくて」
「ああ、そういうことなら着替えはこちらで全て新しいものを用意しますのでご心配なく。」
そう答えるファブルの手にはいつの間にか綺麗な白い布が畳まれていた。
(あれ、いつの間に…?)
「それともう1つ。このお屋敷は広いので迷わないで着いてきてくださいね。」
ファブルはそう言うと颯爽と大広間を抜け長い廊下に出ていく。
リアンはその後を慌てて着いていった。
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