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20話 ファルス家は多くを失う その1
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(ガイア公爵視点)
「アウグ・ファルス伯爵……本日の用件は分かっておりますわね?」
「は、はい……心得ております。エメラダ様……」
あの日から1週間が経過していた。あの日、というのは私の屋敷にヨハン王子殿下が来た日のことだ。私は現在、貴族街にあるアウグ・ファルス伯爵の屋敷を訪れていた。
エメラダや護衛を引き連れて……いや、違うか。エメラダに付き添っているのは、むしろ私の方になるだろう。アウグ殿はリグリットの浮気相手であった、アミーナ・ファルス伯爵令嬢の父親に当たる。私程ではないが、それなりの地位を確立している人物だ。
「では敢えて聞きましょうか? 私達が訪れた用件はなんでしょう?」
「はい……私の娘であるアミーナが、エメラダ様とガイア様のご子息であるリグリット様と浮気をしていた件です……」
「左様でございますわね。我が息子、リグリットを誑かした娘の罪はとても重いですわよ? エレナ嬢……つまりは、リグリットの本来の婚約者であるランカスター家の令嬢に慰謝料を渡す必要もありますので」
「うっ……」
何も言い返せないアウグ殿だった。エメラダに恐れを成しているのだろう。至極真っ当な、慰謝料請求ではあるのだが……おそらくアウグ殿は、その請求金額が非常に高くなるだろうと推測しているのだ。そして、それは間違っていない。
「請求額はそちらの封書に記してあります。ファルス家ほどの家系でしたら、まあ、支払い可能な範囲でございましょう」
「拝見いたします……」
封書を受け取ったアウグ殿はその中身を開いた。彼の額から流れ出る汗の量が、そのまま膨大な慰謝料請求金額を物語っていた。私にもその詳細な額は伝わっていないが、一体、いくらだったのだ? 気になって仕方がない。エレナ嬢への慰謝料も入っているはずなので、相当額になることは予測できるが。
「リグリットには今後、幼馴染との関係を絶たせる必要があるわね……まったく、私の見ていない間に余計な知識だけは付けたようだけれど」
「エメラダ……」
「あなたの教育の悪さが全てを物語っているわね……まったく。がっかりさせないでちょうだい、ガイア」
「す、済まない……」
アウグ殿が青ざめている間にも、エメラダの話しを続けていた。彼女がリグリットに対して言った「余計な知識」というのは女性関連の知識、と言う意味なのだろう。確かに、行き過ぎた女性経験は貴族には不要だ。エメラダの頭の中では既に、リグリットの今後について完全に道筋が立っているのだろう。
「エメラダ様……この金額は、いくらなんでも法外なのではないですか……?」
「は? 何を言っているの? 我がバークス公爵家が受けたダメージから見れば大した金額ではないでしょう?」
「ご子息は随分と手が早いお方のようだ……浮気に関しては何も、アミーナだけのせいではないでしょう?」
ここに来て、アウグ殿は反撃の狼煙を上げ始めた。先ほどまではとても弱腰だったにも関わらずだ。無駄な反撃になるので、やめておいた方が良いと言ってやりたかったが、もう遅かった。
「アウグ・ファルス伯爵……本日の用件は分かっておりますわね?」
「は、はい……心得ております。エメラダ様……」
あの日から1週間が経過していた。あの日、というのは私の屋敷にヨハン王子殿下が来た日のことだ。私は現在、貴族街にあるアウグ・ファルス伯爵の屋敷を訪れていた。
エメラダや護衛を引き連れて……いや、違うか。エメラダに付き添っているのは、むしろ私の方になるだろう。アウグ殿はリグリットの浮気相手であった、アミーナ・ファルス伯爵令嬢の父親に当たる。私程ではないが、それなりの地位を確立している人物だ。
「では敢えて聞きましょうか? 私達が訪れた用件はなんでしょう?」
「はい……私の娘であるアミーナが、エメラダ様とガイア様のご子息であるリグリット様と浮気をしていた件です……」
「左様でございますわね。我が息子、リグリットを誑かした娘の罪はとても重いですわよ? エレナ嬢……つまりは、リグリットの本来の婚約者であるランカスター家の令嬢に慰謝料を渡す必要もありますので」
「うっ……」
何も言い返せないアウグ殿だった。エメラダに恐れを成しているのだろう。至極真っ当な、慰謝料請求ではあるのだが……おそらくアウグ殿は、その請求金額が非常に高くなるだろうと推測しているのだ。そして、それは間違っていない。
「請求額はそちらの封書に記してあります。ファルス家ほどの家系でしたら、まあ、支払い可能な範囲でございましょう」
「拝見いたします……」
封書を受け取ったアウグ殿はその中身を開いた。彼の額から流れ出る汗の量が、そのまま膨大な慰謝料請求金額を物語っていた。私にもその詳細な額は伝わっていないが、一体、いくらだったのだ? 気になって仕方がない。エレナ嬢への慰謝料も入っているはずなので、相当額になることは予測できるが。
「リグリットには今後、幼馴染との関係を絶たせる必要があるわね……まったく、私の見ていない間に余計な知識だけは付けたようだけれど」
「エメラダ……」
「あなたの教育の悪さが全てを物語っているわね……まったく。がっかりさせないでちょうだい、ガイア」
「す、済まない……」
アウグ殿が青ざめている間にも、エメラダの話しを続けていた。彼女がリグリットに対して言った「余計な知識」というのは女性関連の知識、と言う意味なのだろう。確かに、行き過ぎた女性経験は貴族には不要だ。エメラダの頭の中では既に、リグリットの今後について完全に道筋が立っているのだろう。
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「は? 何を言っているの? 我がバークス公爵家が受けたダメージから見れば大した金額ではないでしょう?」
「ご子息は随分と手が早いお方のようだ……浮気に関しては何も、アミーナだけのせいではないでしょう?」
ここに来て、アウグ殿は反撃の狼煙を上げ始めた。先ほどまではとても弱腰だったにも関わらずだ。無駄な反撃になるので、やめておいた方が良いと言ってやりたかったが、もう遅かった。
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