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第1章
根室の不良少年
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主要登場人物
・河島琉太(かわしま りゅうた) 18歳。東月学園根室高校3年B組。札幌で父子家庭で育ったが中学3年の12月に父が病死したため、根室に住む父親の弟の家族に引き取られ養子縁組を成立。しかし、親を亡くしたトラウマから不良になってしまう。
・村野綾人(むらの あやと) 18歳。琉太の仲間。
・山下大毅(やました だいき) 18歳。琉太の仲間。
・濵池 瑛(はまいけ あきら) 18歳。琉太の仲間。半年前に高校を中退している。
・河島新一(かわしま しんいち) 15歳。悠一と紀香の長男で琉太の義理の弟。受験生だが、札幌進出を考えている。
・河島美穂(かわしま みほ) 10歳。悠一と紀香の長男で琉太と新一の妹(琉太とは義理の兄妹)。
・河島悠一(かわしま ゆういち) 45歳。新一と美穂の父。琉太の父の弟で叔父にあたる。根室市役所勤務。兄の死を受け、琉太を引き取り、新一や美穂と同様に優しく扱う。
・河島紀香(かわしま のりか) 45歳。新一と美穂の母で、琉太の叔母に当たる。専業主婦。
・河島琉一(かわしま りゅういち) 故人。琉太の父親で、悠一の兄。
第1章~根室の不良少年~
11月の下旬、雪が降る日本最東端の町、根室。駅からそう遠くない家で、携帯の目覚まし時計の音が永遠に鳴り響く。
「あぁ、寝みぃ、、、。だりぃしサボっちまお。」
また目覚ましを消さず、眠りにつく。5分後、また同じ音が鳴り響く。
「うるせぇ!!おい兄貴!寝るなら静かに寝ろやボケ!つーか、タバコくせぇよ!」
苛立った弟の声。いや、正確にはいとこだ。河島琉太は18歳の高校3年生。中学3年の12月に男手一つで育てていた父親が病死。その後、札幌から根室に住む父の弟の家に引き取られることになった。
「いってきまーす!」
15歳の新一と、10歳の美穂が家を出る。琉太はそんな声を聞きながらまた寝床につく。昨夜の集会で疲れていたのである。
「琉太はまたサボりか。全く、何やってんだかあいつは。」
「いつからあんな風になっちゃったかねぇ。札幌にいた頃は真面目でとってもいい子だったのに。」
「無理もない。父親が死んだんだ。しばらくやんちゃになるのも分かる。そっとしておこう。それじゃあ仕事行ってくるよ。」
下のリビングで話す、叔父の河島悠一と、叔母の紀香の会話が聞こえるが、寝不足のため、お構いなく寝床につく。
悠一が出勤し2時間後の11時頃、琉太のケータイにLINEが届く。同じく学校をサボる仲間からの連絡だ。
「んーっ!そろそろ準備すっかぁ。」
金髪に染めた髪をセットし、ダメージデニムと、革ジャンを身につけ、愛煙してるマルボロブラックメンソールをポケットに入れ、下に降りる。紀香がいた。
「おはよう。今日はどこに行くの?学校は行かないの?」
玄関で靴を履きながら答える。
「行くわけねぇだろ。今日も帰り遅くなるから。」と無愛想に言いながら、家を出ていく。
根室駅前で、仲間の綾人、大毅、瑛と合流し、いつもの喫茶店でエスカロップを食べる。これが日常だ。
「琉太の家はいいよなぁ。叔父さん叔母さんだからあんまガミガミ言われねぇべ!」
「でも弟と妹がまだガキだから、タバコとかバイクはちょっとうるさいかな。まぁ俺の事本当の息子のように扱ってくれてるから文句は言えんけどな!」
「まーた始まった。おめぇは堅いんだって!そーゆーのはたっぷり甘えとくもんだぞ!」
マルボロ、セブンスター、メビウス、ハイライトの煙を交じわせながら、いつも通り他愛ない会話を2時間ほどする。
タバコも切れ、4人が携帯をいじり出したところで、勘定をし、外に出る。
「とりあえず、ドライブ行くべ!」
高校を中退し、コンビニで夜勤をしながら生計を立てる瑛は一月前に自動車免許を取得し、自家用車を持っている。雪が降り出し、バイクに乗れなくなった琉太らにとってはとてもありがたいことである。
釧路へ向かう途中の車内も、タバコの煙と会話は止まない。2時間ほどの道。午後2時半頃、あっという間に釧路に到着し、釧路に住む友人と会う。
午後5時頃、和商市場で食事を済ませ、友人の家で他愛ない会話をした後、午後9時頃、根室へと帰路につき、帰宅する時間は午後11時過ぎ。琉太らは、瑛の仕事が休みの日は、このような生活リズムを送っている。
家に帰った琉太は自室へと向かう。その時、居間で今朝と同じように叔父と叔母が話しているのが聞こえてきた。
「琉太、高校出たらどうすんだろうか。」
「とても春からのこと考えてるとは思えないわよね。」
「大学には行って欲しいんだがな、今のままでは無理そうだな。」
「そうね、大学は諦めた方が良さそうね。」
琉太はふと気がついた。そうだ、もうすぐ高校卒業だ。もっと遊んでいたいな、でも仕事したらそうも出来なくなるなー。どうしよう。
そう、琉太は高3の11月であるにも関わらず、進路が決まっていなかったのだ。
翌日、またいつも通り昼前に、根室駅前の喫茶店でエスカロップを食べながら仲間達と話す。
「急に真面目な話になるけどさ、お前ら進路どーすんの?」
琉太がそのような話を切り出すと思っていなかったのか、何を言ってるんだと言わんばかりに固まる3人。数秒後、ふと我に返った綾人が、「俺は親父の漁継ぐよ。」と答えた。
そんな綾人の言葉を繰り返すように大毅が、「俺は札幌の美容専門学校行くよ。」と答えた。
なんと、進路を全く考えてなかったのは琉太である。これは想定外だった。琉太は、他の奴らも進路は考えてないと思っていたが、しっかり考えていたのである。
急に無気力になった琉太に、瑛が「お前はどーすんの?」
と聞く。
「いや、まだ何も決めてない。」
「え?マジで?仕事は?何の仕事したいとか無いの?」
心配した綾人が、問いかけるが、
「無い。そもそもこんな風に遊べる時間が無くなるのが嫌だ。仕事のことなんか考えられない。」と琉太は言う。
そんな琉太の言葉をひっくり返すかのように、大毅が、「じゃ、学校行けばいいっしょ!大学とか専門学校!社会人よりは時間あるべ!」と言う。
琉太はその時何を思ったのか、1秒経つか経たないかのタイミングで、大毅の胸倉に掴みかかった。
そして、「簡単に言うなよ!勉強も出来ねぇし学校なんてもう行きたくねぇよ!たかだかろくなもん学ぶ訳じゃねぇのにそんな大金払えるか!軽々しく言うんじゃねぇぞ!」と店の中で大毅に叫んだ。
数秒後、ふと我に返った琉太は千円札をテーブルに叩きつけ、そのまま出て行ってしまった。
店内は沈黙に静まる。どれくらい時間が経っただろうか、瑛が「あいつは今やりたいこと分かんないんだ。暖かく見守ってやろう。いざとなったら仕事の世話はいくらでも出来るから。」と綾人と大毅に言う。
店を出た琉太は、町中を徘徊していた。これからどうすればいいのか。その事ばかり考えていた。
「兄貴!!何やってんだよ!!」
雪の降る海辺で一服していると、後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。弟の新一だ。
「何って、お前学校は?まだ授業中だろーが。」
「何言ってんだよ、もう学校終わったわ!散歩がてらここに来ただけだよ!」
時計を見ると、もう午後4時だった。琉太は、店を飛び出してから4時間ほど経っていたのにびっくりした。
「そうか、そうだったな。いや、ちょっと友達と喧嘩しちまってよ、反省というか、頭冷やしにここに来た感じだな。」
「また喧嘩かよー。何やってんだよ全く、、、」
「うるせぇ、おめぇは喧嘩とかすんじゃねぇぞ。」
「分かってるわバカ。」
そんな会話の繰り返しをした後、新一が少し落ち込んだ表情を見せた。
「どーした浮かない顔して。お前らしくねぇぞ。」
弟の心配した琉太が声をかける。
「実は俺、この町出たいんだ。来年から高校生だけど、高校も全員顔見知りだし、居ても意味無いと思うんだ。札幌、札幌の高校に行きたいんだ。でも、伯父さんも死んじゃって札幌に身内も居ないし、どうしよう。」
新一の返答に琉太は困った。まじかよ、進路に悩んでる俺に進路の相談するなんて。そんな心境だったが、中学まで札幌に居た琉太にとっては、札幌は悪い所ではないが、根室と違い様々な誘惑が多いため、新一が自分のようになってしまうのでは?と心配だった。
「札幌なんていいもんじゃねぇぞ。ましてや田舎育ちのお前が、行ったところで人酔いするだけだぞ。それに親父が死んだ今、札幌近辺に誰も親戚は居ない。俺は札幌居たから友達とかは居るけど、お前は誰もいないだろ?親戚も友達も居ないんじゃやめた方がいいと思うぞー。」
2本目のタバコをふかしながら、琉太はそう答えた。
すると、今度は新一が「兄貴は卒業した後どーすんだ?」と聞いてきた。
さらに困った。なにも決まってない。どうしよう。なんて答えよう。でも適当に言ってその後叔父さん達に言われるのも嫌だったため、「特に何も決めてない。仕事も進学も、全く。」と正直に答えた。
すると、その言葉を待っていたかのように、新一が、「兄貴!一緒に札幌行こうよ!兄貴が行ってくれれば俺も一緒に行けるからさ!一緒に暮らそうよ!」と頼み込んできた。
思いもよらぬ返答。びっくりした。まさかそこまでして行きたいとは。しかし、琉太には不安があった。仮に一緒に札幌へ行って、自分が仕事をしたとしても、高校生の弟を養うことが出来るのか?家賃、光熱費、水道代、食費等、自分の生活に金がかかるのに、それが弟の分となると、とてもじゃないが賄いきれないのでは?と思っていた。
「金は?金はどーすんのよ。お前まだガキだから資金力無いだろ。悪いが札幌で暮らすなら俺はお前の生活費全てを賄うのは無理だぞ。高校生ならバイトは限られるだろうしさ。叔父さんに出して貰えるとは思うなよ?それをするなら根室に残れ。」
もうこれで諦めきれるだろう。安心して三本目のタバコに火をつけた瞬間だった。
「俺夜学通って昼間は仕事する!だから金のことは心配ないよ!ね!一緒に行こうよ!!」
困った。こいつはどこまで俺を困らせるんだ、、、。琉太はタバコを吸いながらそんなことを思っていた。もう言っても無駄だった。弟は自立しようとしている。自立の反対は教育ではないと思っていた琉太は、返す言葉が無くなってしまった。
「分かった。そこまで言うなら兄ちゃん考えてやる。ただ、二つ言っておくことがある。一つは叔父さんと叔母さんにちゃんと言え。それは守れるな?」
新一は頷いた。
「よし。次に、俺はまだ進路は未定だ。札幌でも何の仕事就くか全く考えてない。出来るだけ早めに決めるようにするけど、それが決まるまではOKは出せないからな。分かったか?」
また新一が頷く。
もう話すことが無くなった二人は、帰路についた。その間に、新一に「叔父さんにはいつ話すんだ?」と聞くと、「仕事と学校しっかり決まってから、来週の三者面談辺り。」と言ってたので、琉太は自分の仕事を探すことにした。
家に帰るなり、琉太は札幌の友人に片っ端から電話をかけた。中卒で仕事をしている友人、就職予定の友人、実家が自営業の友達等、片っ端から連絡をして行ったら、いくつか候補が挙がった。
翌日、琉太は3日ぶりに学校へ行った。クラスメイトも、琉太が週2~3回しか登校しないのはいつも通りだったので、あまり珍しがられなかった。綾人と大毅も学校に来ていなかったが、それもいつも通りで、3人とも同時に学校に来ることはあまりなかった。
担任が出欠をとり、ホームルームが終了したと同時に琉太は、担任の元へと走った。「先生。俺、地元帰って就職することにした。弟が札幌来たいって言ってるんだ。だから一緒に行こうかと思っててさ。それで確認したいんだけど、俺の出席日数足りてる?卒業は大丈夫?」
琉太は、弟のために高校は卒業しなくてはと思い、担任に報告と相談をした。
担任は、琉太から相談を受けるのは初めてだったため、びっくりしたが、出席日数の確認を行った。
「来月で3年は授業終わりだけど、お前と村野と山下は1月の補習出れば卒業は出来る。今まで通り週3位の登校でも卒業は出来るけど、出来るだけ来いよ。あといい加減その髪の毛どーにかしろ。」
「分かった、ありがとう。」
心配事を1つ解決し、職員室を出ようとした途端、担任に呼び止められた。
琉太は「やべぇ、今朝吸ったタバコの匂いバレちまったかな。」と思い、再び担任の横に座った。
「お前、進学する気無いのか?今のお前の状態じゃ仕事だけってのもあんまりオススメ出来ないなぁ。」
担任は、進学を進めてきた。しかし琉太は、「昨日大毅にも同じこと言われたよ。でも俺頭悪いから大学なんて行きたくないし、何より弟の面倒が見れない。弟も仕事はするけど、困ったとき俺が頼りだから、金だけは貯めときたい。大学行きながらバイトだったら小遣い程度にしかならないから無理だ。」と、昨日の出来事と共に自分の心境を素直に話した。これで誰も進学をどうこう言ってくることはないだろう。
しかし、予想外の返答が返ってきた。「それなら夜学行きゃいいじゃん。昼間は働いて夜は学校行けばどっちも出来るよ。」
琉太は唖然とした。なぜ、なぜ行きたくないものをそんなに勧めてくる、、、。大学行って何になるんだ。仕事してた方がいいだろうと思っていたからだ。
呆れ果てた琉太は、「考える」と言ってそのまま帰ってしまった。
家に帰る気にもならなかったため、いつもの喫茶店に行ったら、案の定綾人達が居た。
昨日の件は、確実に自分が悪かったからと素直に謝り、いつものようにエスカロップを食した。
1時間ほど経ったあと、瑛は夜勤のために仮眠すると言い、帰って行った。
暇になった3人は、根室市内をバカ話をしながら散歩し、気づいたら日が沈みかかっていた。
いつもならまだ解散する時間ではなかったが、琉太は弟のことが気がかりだったため、家に帰ることにした。
家に帰る途中、またしても聞き覚えのある声が聞こえた。叔母の紀香だ。夕飯の買い物に行く所らしい。今日は家で食事をするつもりだったから、琉太は紀香と一緒に買い物に行くことにした。
そのとき琉太は悩んでいた。新一の進路を話すべきか、それとも本人から言うべきか。
すると、紀香から「琉ちゃん、進路どうするの?」と、今の自分の悩みを読んだかのような事を聞いてきた。琉太は、新一の件は隠し、「地元帰って就職する。」と、自分の進路を話した。
大学のことは行く気がないため、聞かないで欲しかった。聞くな聞くなと願っていた。叶わなかった。案の定大学に行かないことをツッコまれた。
「今日学校行ったんだけど、担任に夜学薦められた。金は溜めたいから仕事はしたい。そしたら夜学が一番いいと思うんだってさ。まぁ、別に行く気ないけど。」と答えた。
紀香はその返答に対してリアクションはしなかった。
家に帰り、久しぶりに家族全員で食卓を囲んだが、誰もその話題には触れなかった。
琉太は部屋に戻り食後の一服を楽しみながら、昨日得た仕事の候補を絞っていた。そんな中、琉太の目を飛びつかせる仕事があった。「フットサルコート運営」という仕事だ。琉太は元々サッカーをやっていたため、その仕事に興味があった。とりあえず仕事はそこに決めることにし、紹介してくれた友達に連絡を終えたその時、琉太の部屋にノックが来た。不安そうな顔をした新一だった。
「新一、どうした?」
「兄貴、本当に札幌来てくれるのか?」
新一は申し訳なさそうに聞いた。
すると、琉太はニコッと笑い、「当たり前だべ!お前をあんな輩だらけの街に放り投げるのは怖いからな!守ってやらぁ!仕事も何となく決めたし大丈夫だ!アハハ。」と答えた。
新一は泣きながら「ありがとう、ありがとう兄貴。」と、ずっと繰り返していた。
しばらく琉太の部屋には、新一の鳴き声だけがこだましていた。そんな新一を、琉太は笑顔で黙って見つめていた。
新一も落ち着いたところで、琉太が口を開く。「吸うか?」 新一は首を横に振る。「まだやってねぇのか。俺はちょうどお前と同じくらいのときこんな感じに誘われた。後悔してる。高校生のくせしてタバコが手放せなくなっちまったんだからな、、、。でも札幌はそういう誘惑があるんだぞ。大丈夫か?」 琉太は、札幌に来る上で一番心配な事を聞いた。新一は黙って頷いた。
「まぁ明日は土曜日だ!兄ちゃんいいとこ連れてってやるぞ!とりあえず今日は寝ろ!おやすみ。」 と、琉太は新一を自室に帰した。
琉太は不良ではあるが、兄弟思いのいい兄であるのだ。
・河島琉太(かわしま りゅうた) 18歳。東月学園根室高校3年B組。札幌で父子家庭で育ったが中学3年の12月に父が病死したため、根室に住む父親の弟の家族に引き取られ養子縁組を成立。しかし、親を亡くしたトラウマから不良になってしまう。
・村野綾人(むらの あやと) 18歳。琉太の仲間。
・山下大毅(やました だいき) 18歳。琉太の仲間。
・濵池 瑛(はまいけ あきら) 18歳。琉太の仲間。半年前に高校を中退している。
・河島新一(かわしま しんいち) 15歳。悠一と紀香の長男で琉太の義理の弟。受験生だが、札幌進出を考えている。
・河島美穂(かわしま みほ) 10歳。悠一と紀香の長男で琉太と新一の妹(琉太とは義理の兄妹)。
・河島悠一(かわしま ゆういち) 45歳。新一と美穂の父。琉太の父の弟で叔父にあたる。根室市役所勤務。兄の死を受け、琉太を引き取り、新一や美穂と同様に優しく扱う。
・河島紀香(かわしま のりか) 45歳。新一と美穂の母で、琉太の叔母に当たる。専業主婦。
・河島琉一(かわしま りゅういち) 故人。琉太の父親で、悠一の兄。
第1章~根室の不良少年~
11月の下旬、雪が降る日本最東端の町、根室。駅からそう遠くない家で、携帯の目覚まし時計の音が永遠に鳴り響く。
「あぁ、寝みぃ、、、。だりぃしサボっちまお。」
また目覚ましを消さず、眠りにつく。5分後、また同じ音が鳴り響く。
「うるせぇ!!おい兄貴!寝るなら静かに寝ろやボケ!つーか、タバコくせぇよ!」
苛立った弟の声。いや、正確にはいとこだ。河島琉太は18歳の高校3年生。中学3年の12月に男手一つで育てていた父親が病死。その後、札幌から根室に住む父の弟の家に引き取られることになった。
「いってきまーす!」
15歳の新一と、10歳の美穂が家を出る。琉太はそんな声を聞きながらまた寝床につく。昨夜の集会で疲れていたのである。
「琉太はまたサボりか。全く、何やってんだかあいつは。」
「いつからあんな風になっちゃったかねぇ。札幌にいた頃は真面目でとってもいい子だったのに。」
「無理もない。父親が死んだんだ。しばらくやんちゃになるのも分かる。そっとしておこう。それじゃあ仕事行ってくるよ。」
下のリビングで話す、叔父の河島悠一と、叔母の紀香の会話が聞こえるが、寝不足のため、お構いなく寝床につく。
悠一が出勤し2時間後の11時頃、琉太のケータイにLINEが届く。同じく学校をサボる仲間からの連絡だ。
「んーっ!そろそろ準備すっかぁ。」
金髪に染めた髪をセットし、ダメージデニムと、革ジャンを身につけ、愛煙してるマルボロブラックメンソールをポケットに入れ、下に降りる。紀香がいた。
「おはよう。今日はどこに行くの?学校は行かないの?」
玄関で靴を履きながら答える。
「行くわけねぇだろ。今日も帰り遅くなるから。」と無愛想に言いながら、家を出ていく。
根室駅前で、仲間の綾人、大毅、瑛と合流し、いつもの喫茶店でエスカロップを食べる。これが日常だ。
「琉太の家はいいよなぁ。叔父さん叔母さんだからあんまガミガミ言われねぇべ!」
「でも弟と妹がまだガキだから、タバコとかバイクはちょっとうるさいかな。まぁ俺の事本当の息子のように扱ってくれてるから文句は言えんけどな!」
「まーた始まった。おめぇは堅いんだって!そーゆーのはたっぷり甘えとくもんだぞ!」
マルボロ、セブンスター、メビウス、ハイライトの煙を交じわせながら、いつも通り他愛ない会話を2時間ほどする。
タバコも切れ、4人が携帯をいじり出したところで、勘定をし、外に出る。
「とりあえず、ドライブ行くべ!」
高校を中退し、コンビニで夜勤をしながら生計を立てる瑛は一月前に自動車免許を取得し、自家用車を持っている。雪が降り出し、バイクに乗れなくなった琉太らにとってはとてもありがたいことである。
釧路へ向かう途中の車内も、タバコの煙と会話は止まない。2時間ほどの道。午後2時半頃、あっという間に釧路に到着し、釧路に住む友人と会う。
午後5時頃、和商市場で食事を済ませ、友人の家で他愛ない会話をした後、午後9時頃、根室へと帰路につき、帰宅する時間は午後11時過ぎ。琉太らは、瑛の仕事が休みの日は、このような生活リズムを送っている。
家に帰った琉太は自室へと向かう。その時、居間で今朝と同じように叔父と叔母が話しているのが聞こえてきた。
「琉太、高校出たらどうすんだろうか。」
「とても春からのこと考えてるとは思えないわよね。」
「大学には行って欲しいんだがな、今のままでは無理そうだな。」
「そうね、大学は諦めた方が良さそうね。」
琉太はふと気がついた。そうだ、もうすぐ高校卒業だ。もっと遊んでいたいな、でも仕事したらそうも出来なくなるなー。どうしよう。
そう、琉太は高3の11月であるにも関わらず、進路が決まっていなかったのだ。
翌日、またいつも通り昼前に、根室駅前の喫茶店でエスカロップを食べながら仲間達と話す。
「急に真面目な話になるけどさ、お前ら進路どーすんの?」
琉太がそのような話を切り出すと思っていなかったのか、何を言ってるんだと言わんばかりに固まる3人。数秒後、ふと我に返った綾人が、「俺は親父の漁継ぐよ。」と答えた。
そんな綾人の言葉を繰り返すように大毅が、「俺は札幌の美容専門学校行くよ。」と答えた。
なんと、進路を全く考えてなかったのは琉太である。これは想定外だった。琉太は、他の奴らも進路は考えてないと思っていたが、しっかり考えていたのである。
急に無気力になった琉太に、瑛が「お前はどーすんの?」
と聞く。
「いや、まだ何も決めてない。」
「え?マジで?仕事は?何の仕事したいとか無いの?」
心配した綾人が、問いかけるが、
「無い。そもそもこんな風に遊べる時間が無くなるのが嫌だ。仕事のことなんか考えられない。」と琉太は言う。
そんな琉太の言葉をひっくり返すかのように、大毅が、「じゃ、学校行けばいいっしょ!大学とか専門学校!社会人よりは時間あるべ!」と言う。
琉太はその時何を思ったのか、1秒経つか経たないかのタイミングで、大毅の胸倉に掴みかかった。
そして、「簡単に言うなよ!勉強も出来ねぇし学校なんてもう行きたくねぇよ!たかだかろくなもん学ぶ訳じゃねぇのにそんな大金払えるか!軽々しく言うんじゃねぇぞ!」と店の中で大毅に叫んだ。
数秒後、ふと我に返った琉太は千円札をテーブルに叩きつけ、そのまま出て行ってしまった。
店内は沈黙に静まる。どれくらい時間が経っただろうか、瑛が「あいつは今やりたいこと分かんないんだ。暖かく見守ってやろう。いざとなったら仕事の世話はいくらでも出来るから。」と綾人と大毅に言う。
店を出た琉太は、町中を徘徊していた。これからどうすればいいのか。その事ばかり考えていた。
「兄貴!!何やってんだよ!!」
雪の降る海辺で一服していると、後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。弟の新一だ。
「何って、お前学校は?まだ授業中だろーが。」
「何言ってんだよ、もう学校終わったわ!散歩がてらここに来ただけだよ!」
時計を見ると、もう午後4時だった。琉太は、店を飛び出してから4時間ほど経っていたのにびっくりした。
「そうか、そうだったな。いや、ちょっと友達と喧嘩しちまってよ、反省というか、頭冷やしにここに来た感じだな。」
「また喧嘩かよー。何やってんだよ全く、、、」
「うるせぇ、おめぇは喧嘩とかすんじゃねぇぞ。」
「分かってるわバカ。」
そんな会話の繰り返しをした後、新一が少し落ち込んだ表情を見せた。
「どーした浮かない顔して。お前らしくねぇぞ。」
弟の心配した琉太が声をかける。
「実は俺、この町出たいんだ。来年から高校生だけど、高校も全員顔見知りだし、居ても意味無いと思うんだ。札幌、札幌の高校に行きたいんだ。でも、伯父さんも死んじゃって札幌に身内も居ないし、どうしよう。」
新一の返答に琉太は困った。まじかよ、進路に悩んでる俺に進路の相談するなんて。そんな心境だったが、中学まで札幌に居た琉太にとっては、札幌は悪い所ではないが、根室と違い様々な誘惑が多いため、新一が自分のようになってしまうのでは?と心配だった。
「札幌なんていいもんじゃねぇぞ。ましてや田舎育ちのお前が、行ったところで人酔いするだけだぞ。それに親父が死んだ今、札幌近辺に誰も親戚は居ない。俺は札幌居たから友達とかは居るけど、お前は誰もいないだろ?親戚も友達も居ないんじゃやめた方がいいと思うぞー。」
2本目のタバコをふかしながら、琉太はそう答えた。
すると、今度は新一が「兄貴は卒業した後どーすんだ?」と聞いてきた。
さらに困った。なにも決まってない。どうしよう。なんて答えよう。でも適当に言ってその後叔父さん達に言われるのも嫌だったため、「特に何も決めてない。仕事も進学も、全く。」と正直に答えた。
すると、その言葉を待っていたかのように、新一が、「兄貴!一緒に札幌行こうよ!兄貴が行ってくれれば俺も一緒に行けるからさ!一緒に暮らそうよ!」と頼み込んできた。
思いもよらぬ返答。びっくりした。まさかそこまでして行きたいとは。しかし、琉太には不安があった。仮に一緒に札幌へ行って、自分が仕事をしたとしても、高校生の弟を養うことが出来るのか?家賃、光熱費、水道代、食費等、自分の生活に金がかかるのに、それが弟の分となると、とてもじゃないが賄いきれないのでは?と思っていた。
「金は?金はどーすんのよ。お前まだガキだから資金力無いだろ。悪いが札幌で暮らすなら俺はお前の生活費全てを賄うのは無理だぞ。高校生ならバイトは限られるだろうしさ。叔父さんに出して貰えるとは思うなよ?それをするなら根室に残れ。」
もうこれで諦めきれるだろう。安心して三本目のタバコに火をつけた瞬間だった。
「俺夜学通って昼間は仕事する!だから金のことは心配ないよ!ね!一緒に行こうよ!!」
困った。こいつはどこまで俺を困らせるんだ、、、。琉太はタバコを吸いながらそんなことを思っていた。もう言っても無駄だった。弟は自立しようとしている。自立の反対は教育ではないと思っていた琉太は、返す言葉が無くなってしまった。
「分かった。そこまで言うなら兄ちゃん考えてやる。ただ、二つ言っておくことがある。一つは叔父さんと叔母さんにちゃんと言え。それは守れるな?」
新一は頷いた。
「よし。次に、俺はまだ進路は未定だ。札幌でも何の仕事就くか全く考えてない。出来るだけ早めに決めるようにするけど、それが決まるまではOKは出せないからな。分かったか?」
また新一が頷く。
もう話すことが無くなった二人は、帰路についた。その間に、新一に「叔父さんにはいつ話すんだ?」と聞くと、「仕事と学校しっかり決まってから、来週の三者面談辺り。」と言ってたので、琉太は自分の仕事を探すことにした。
家に帰るなり、琉太は札幌の友人に片っ端から電話をかけた。中卒で仕事をしている友人、就職予定の友人、実家が自営業の友達等、片っ端から連絡をして行ったら、いくつか候補が挙がった。
翌日、琉太は3日ぶりに学校へ行った。クラスメイトも、琉太が週2~3回しか登校しないのはいつも通りだったので、あまり珍しがられなかった。綾人と大毅も学校に来ていなかったが、それもいつも通りで、3人とも同時に学校に来ることはあまりなかった。
担任が出欠をとり、ホームルームが終了したと同時に琉太は、担任の元へと走った。「先生。俺、地元帰って就職することにした。弟が札幌来たいって言ってるんだ。だから一緒に行こうかと思っててさ。それで確認したいんだけど、俺の出席日数足りてる?卒業は大丈夫?」
琉太は、弟のために高校は卒業しなくてはと思い、担任に報告と相談をした。
担任は、琉太から相談を受けるのは初めてだったため、びっくりしたが、出席日数の確認を行った。
「来月で3年は授業終わりだけど、お前と村野と山下は1月の補習出れば卒業は出来る。今まで通り週3位の登校でも卒業は出来るけど、出来るだけ来いよ。あといい加減その髪の毛どーにかしろ。」
「分かった、ありがとう。」
心配事を1つ解決し、職員室を出ようとした途端、担任に呼び止められた。
琉太は「やべぇ、今朝吸ったタバコの匂いバレちまったかな。」と思い、再び担任の横に座った。
「お前、進学する気無いのか?今のお前の状態じゃ仕事だけってのもあんまりオススメ出来ないなぁ。」
担任は、進学を進めてきた。しかし琉太は、「昨日大毅にも同じこと言われたよ。でも俺頭悪いから大学なんて行きたくないし、何より弟の面倒が見れない。弟も仕事はするけど、困ったとき俺が頼りだから、金だけは貯めときたい。大学行きながらバイトだったら小遣い程度にしかならないから無理だ。」と、昨日の出来事と共に自分の心境を素直に話した。これで誰も進学をどうこう言ってくることはないだろう。
しかし、予想外の返答が返ってきた。「それなら夜学行きゃいいじゃん。昼間は働いて夜は学校行けばどっちも出来るよ。」
琉太は唖然とした。なぜ、なぜ行きたくないものをそんなに勧めてくる、、、。大学行って何になるんだ。仕事してた方がいいだろうと思っていたからだ。
呆れ果てた琉太は、「考える」と言ってそのまま帰ってしまった。
家に帰る気にもならなかったため、いつもの喫茶店に行ったら、案の定綾人達が居た。
昨日の件は、確実に自分が悪かったからと素直に謝り、いつものようにエスカロップを食した。
1時間ほど経ったあと、瑛は夜勤のために仮眠すると言い、帰って行った。
暇になった3人は、根室市内をバカ話をしながら散歩し、気づいたら日が沈みかかっていた。
いつもならまだ解散する時間ではなかったが、琉太は弟のことが気がかりだったため、家に帰ることにした。
家に帰る途中、またしても聞き覚えのある声が聞こえた。叔母の紀香だ。夕飯の買い物に行く所らしい。今日は家で食事をするつもりだったから、琉太は紀香と一緒に買い物に行くことにした。
そのとき琉太は悩んでいた。新一の進路を話すべきか、それとも本人から言うべきか。
すると、紀香から「琉ちゃん、進路どうするの?」と、今の自分の悩みを読んだかのような事を聞いてきた。琉太は、新一の件は隠し、「地元帰って就職する。」と、自分の進路を話した。
大学のことは行く気がないため、聞かないで欲しかった。聞くな聞くなと願っていた。叶わなかった。案の定大学に行かないことをツッコまれた。
「今日学校行ったんだけど、担任に夜学薦められた。金は溜めたいから仕事はしたい。そしたら夜学が一番いいと思うんだってさ。まぁ、別に行く気ないけど。」と答えた。
紀香はその返答に対してリアクションはしなかった。
家に帰り、久しぶりに家族全員で食卓を囲んだが、誰もその話題には触れなかった。
琉太は部屋に戻り食後の一服を楽しみながら、昨日得た仕事の候補を絞っていた。そんな中、琉太の目を飛びつかせる仕事があった。「フットサルコート運営」という仕事だ。琉太は元々サッカーをやっていたため、その仕事に興味があった。とりあえず仕事はそこに決めることにし、紹介してくれた友達に連絡を終えたその時、琉太の部屋にノックが来た。不安そうな顔をした新一だった。
「新一、どうした?」
「兄貴、本当に札幌来てくれるのか?」
新一は申し訳なさそうに聞いた。
すると、琉太はニコッと笑い、「当たり前だべ!お前をあんな輩だらけの街に放り投げるのは怖いからな!守ってやらぁ!仕事も何となく決めたし大丈夫だ!アハハ。」と答えた。
新一は泣きながら「ありがとう、ありがとう兄貴。」と、ずっと繰り返していた。
しばらく琉太の部屋には、新一の鳴き声だけがこだましていた。そんな新一を、琉太は笑顔で黙って見つめていた。
新一も落ち着いたところで、琉太が口を開く。「吸うか?」 新一は首を横に振る。「まだやってねぇのか。俺はちょうどお前と同じくらいのときこんな感じに誘われた。後悔してる。高校生のくせしてタバコが手放せなくなっちまったんだからな、、、。でも札幌はそういう誘惑があるんだぞ。大丈夫か?」 琉太は、札幌に来る上で一番心配な事を聞いた。新一は黙って頷いた。
「まぁ明日は土曜日だ!兄ちゃんいいとこ連れてってやるぞ!とりあえず今日は寝ろ!おやすみ。」 と、琉太は新一を自室に帰した。
琉太は不良ではあるが、兄弟思いのいい兄であるのだ。
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