どうやら異世界転生しても最強魔法剣士になってしまった模様

あっきー

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第1章

13.郷愁の拠点

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空は既に茜色に染まり、陽が落ちようとしていた。


家々の窓には灯がポツポツと灯り始め、茜色の空の色と街灯のぼんやり温かみのある光が混ざり合い、街を照らし包んでいく。


ギルドを後にしたキサギ達は、夜の繁忙に向けて忙しそうに準備している露天や飲食店を視野に入れながら歩いていた。


「今日1日で色々あったねぇ」


「なんでも良い。腹減ったぁ。メシ食おうぜぇ」


キサギの隣でそのでっかい図体を前屈みに縮こませ、シュリがゲッソリした表情で文句を垂れる。


そういえばギルドを訪れた時からそんな事を言っていたなと思い出し、彼女はハハハッとその様子に軽快に笑う。


登録初日にまさかのS級冒険者達との模擬戦、そこから魔獣討伐からベリアルとの対峙、そしてS級冒険者への昇格。 


当初の予定ではE級からスタートし、のんびり薬草採集でもしながら各地を巡り、徐々にランクを上げて世界旅行を楽しむ目論みだった。


それが緑の魔宝石を意図せず粉々にしてしまった事を発端に、なんとも濃密で怒涛の1日となってしまった。


普段疲れ知らずの彼女も流石にグッタリ気味だ。


そんな一行のはるか上空で、一羽の鳥がピィーと甲高い声でひと鳴きし、旋回している。


降りるのを待っているかのように。


キサギが右手を掲げると、そこ目掛けて空から鷹が急降下しフワリと着地する。


翼をバサバサとはためかせた後にゆっくり折り畳み、クルクルと喉を鳴らし満足そうにするその様に、彼女は目を細め指でその喉をくすぐる。


(ご命令に従い、拠点に向いた好条件の場所を発見。御前よりお預かりした創造魔法符を展開し、完了しました事をご報告致します)


外からはピィピィと主人に甘えているかの様に見えるその実、低音の男性声が念話で彼女にそう報告していた。


(ご苦労さま。先に戻ってて)


念話でそう労うと、鷹は彼女の腕からゆっくり離れ、また空へと帰って行った。


「折角だし、露天で何か買って拠点で食べましょ」


「よしきた!目星は付いてる!ちょっくら行ってくるから、そこの噴水ンとこで待っててくれ!」


先程までゲッソリしていたシュリが急に元気を取り戻し、3人をその場へ置き去りにして、勢いよく目星をつけていたという店へとその大きな体躯を走らせて行く。


その様子を見送りながら彼女はクスクスと笑い、残りの2人は呆れて見ていた。


石造りの噴水は丁度目の前にあり、彼女らは近くの露天で果実水を買い、噴水の縁へと腰掛けてシュリが戻るのを待つ事にした。


大抵の冒険者は組合と直接提携をしている数店舗の宿屋で部屋を借り、多くの冒険者達がそこを定宿としているらしい。


一部街外れの安いアパートを借りている者もいれば、家庭を持つ者は家を買って住んでいるなど生活様式は様々だ。


だが基本的に世界各地を飛び回る仕事なので、宿を選ぶ者が多いとマティアスが話してくれたのを思い返す。


キサギ達は転移魔法が使えるので、元々どこかに家を建て拠点とするつもりであった。


先程の鷹はキサギが前世で出会った土地神で、土地が汚染され神力を失う直前に契約を交わした式神である。


ハロルド邸を出る前に、拠点探索の命令を出していたのだ。


鷹が話していた創造魔法符とは、その名の通り創造魔法を札に込めたもので、彼女がかつて作った物。


前世、己の死を覚悟したキサギは、彼女が式神である彼らと共に暮らした大切な空間をどうするか悩んだ。


死後に幻術と結界が解けて露わになった自邸を、他人に物色され踏み荒らされる事を嫌い、災厄に挑む直前、その札に丸ごと納めたのだ。


札を何となくいつもの癖で異空間収納ボックスに放り込んだのだったが、まさかそれが今ここで役に立つとは全く思っておらず、この事に気付いた時には「よくやった!あの時の私!!」と自分の行動を自分で褒めた程だ。


その札を先程の鷹に預け探索へと向かわせ、無事完了したと先程報告を受け取っていたのである。


今後はそこを拠点とし、家の事は式神や形代で作った使用人達に任せれば、いつでも清潔快適に暮らせる。


周囲に幻術魔法をかけ誰も近寄らせないようにし、不測の事態に備えて結界を張れば万事問題ない。


だがキサギにとっては、今の拠点はあくまで仮のもの。


(いずれ世界を見てまわった中からどこか素敵な場所を見つけて、お金が溜まって落ち着いた頃合いでドロンして、そこでスローライフを送る!!)


爽やかな果実水で口の中を潤わせながらそんなふわふわした人生設計を立てていると、ふと街の賑わいに目が留まる。


キサギは改めて良い街だな…と感慨深くなった。


「どうされました?」


いつもは静かに側に立つソウエイが、珍しく声を掛けてきた。 


「ん?……いや……ソウエイの言ってた通り良い街だなって……。前の世界もいい所はあったけど、こちらに比べたらひどく荒廃していたから……」


そうポツリと呟くキサギの前を、笑い騒ぎながら沢山の人々が行き交っている。


それはランテルに住む若い男女だったり、小さな子供をつれた家族だったり、商人だったり、冒険者であろう獣人と亜人だったり、冒険者パーティだったり…


「前は忙しくあちこち出向いて戦ってたから、こうしてゆっくり人々の営みを見るなんて事なかったなぁって」


どこか遠くを見るような彼女の目から郷愁を感じたソウエイは、賑わう街や人々へと視線を動かす。


「そんな荒廃する世界から、俺達を掬いあげて下さったのは貴女だ。俺はどこまでもお供するだけです。いつでも頼って下さい」


普段は自分の気持ちを口にする事など殆どない彼が珍しく優しくキサギにそう言うと、彼女は視線だけ彼へ向け口元に笑みを浮かべながら静かに「頼りにしてる」と応えた。


しばらくすると、あちこちで買ったのであろう食べ物の入った袋を大量に抱え持つシュリがその顔を満足そうに綻ばせ、こちらへ嬉しそうに走って来るのが見えた。


「帰りましょう、我が家へ」


ビャクランも普段の妖艶さを抑え、姉のような母のような慈愛の籠った笑顔をキサギに向けてくれる。


かつて共に暮らした家へ。


彼女は胸が暖まるのを抑えきれず、いつもとは違うちょっと緩んだ顔でヘラリと笑い「うん!」と大きく頷いた。


その後シュリと合流したキサギ達は人通りの少ない場所へと移動すると、周囲に気配がない事を確認して転移魔法を発動した。


そして土煙すらあげることなく、一瞬でその場から全員が掻き消えた。


瞬時に彼女らはどこかの森の中へと降り立つ。


空気は澄み清々しい魔力が漂わせる木々達に、ここがどこなのか気になるも、キサギは疲れた体が癒されていく感覚に目を細める。


木々の隙間からは、既に陽が落ち夜を迎えたばかりの空に淡く輝く月星が見え、森の中を薄らと照らしている。


目の前にはハロルド邸とまではいかないものの、一般的家庭では持てないであろう程よい大きさの石造りの屋敷が聳え立っていた。


キサギの胸を、郷愁の感情が埋め尽くす。


「あぁ…ただいま。懐かしの我が家」


思わず口から言葉が漏れ出た。


屋敷の玄関ポーチには、執事服に身を包んだ茶髪の男性が1人立っているのが見え、歩み寄る。


「おかえりなさいませ。お待ちしておりました」


そう言って扉を開けて、一行を出迎えてくれた。


「ありがと、アカガネ。さっきはお疲れ様」


キサギがそう声をかけると、彼は微笑み一礼した。


彼は先程の鷹で、他の3人より神力が少ない為行動を共にしないものの、人型も取れるため前世からキサギの身の回りの世話や、彼女からの指令を受け本来の鷹の姿となってあちこちを飛び回ったりしていた。


今回もとてもよく働いてくれている。


そんな彼に労いの言葉をかけ、彼女は改めて我が家へと入っていった。


「すごく魔力の流れが綺麗な森ね。ここはどこなの?」


「この国の北端に位置する辺境の森の奥地ですよ。魔獣も居らず人の踏み入った形跡もない為、拠点と致しました」


「へぇ~。北の辺境……といえば、アイルズ辺境伯が治める辺境領だわ。なるほど、良い所ね!ありがとう、アカガネ」


アカガネは目元を緩め、静かに主へ一礼する。


辺境領はイギリー王国の最北端に位置し、領地の大半には緑深い山がそそり立ち、広大な森が広がっている。


魔力が非常に潤沢な土地で、資源にも恵まれる分多くの魔獣が存在するものの、沢山の精霊や精霊獣もそこに住まうと言われている。


この地の冒険者にはS級は在籍していないとはいえ辺境伯軍と共に魔獣・魔人討伐を連携して行っており、屈強な者達が多い事で有名だ。


広大な森の奥地であれば、余程の事がない限り人と出会う事はないだろう。


「念の為に後で幻術魔法と結界を展開しておくわね」


「話はもういいか?!さぁメシだ!メシメシ!!アカガネー!酒、用意してくれー!」


シュリは彼女の話に被せてそう言うと、ズカズカと行儀悪く足音を響かせながら勝手知ったる我が家の食堂へと消えて行った。


アカガネは呆れた表情で肩をすくめ「はいはい」と軽くあしらうと、準備をする為使用人の姿に変化した形代へ指示を飛ばす。


「形代の数は足りてる?もし足りなかったら用意するから、遠慮なく言ってね」


「問題ないですよ。さ、御前も食堂へ。疲れた体をまずは休ませて下さい」


「ありがとう。私もお腹すいたー!アカガネも皆と一緒に食べよ!」


「では準備が整いましたら、ご一緒させて頂きます」


広い玄関ホールで皆で笑いあい、和やかな空気が流れる。


彼女はまた慣れ親しんだ家で、慣れ親しんだ者達と過ごせる幸せを噛み締め、食堂へと向かった。










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