どうやら異世界転生しても最強魔法剣士になってしまった模様

あっきー

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第1章

16.望まぬ邂逅

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この国には魔法学園が2校ある。


ひとつは、王侯貴族や裕福な商人の子息子女向けのロンダリア魔法学園。


もうひとつは、才能豊かな庶民の子供達の育成の為に開かれたスタンダード魔法学園。


目の前にいる彼らが着る制服を見ると、その身なりの良さからどうやら前者の学生達のようだ。


キサギの胸に、先程からどうにも嫌な予感が過ぎる。


先程話を聞く為に声をかけた女性らが、続けて状況を話してくれる。


「それが、学園の自由演習の課題とかで力試しでもしたいのか、奥の森に入らせろとかなんとか言ってんのよぉ」


「おエライさん達のお遊びで来られても迷惑よねぇ?全く」


「ここにはあんな身分の人達が泊まれるような宿屋だってないし、身分が身分でしょ?ほらぁ……」


「何かあっても大事じゃない?……もぉ、それでなくても魔獣が襲ってくるかもしれないって街がピリピリしてるのに……困るわよねぇ」


女性たちはヒソヒソと井戸端会議をするように、こちらに事情を話してくれる。


「へぇ……そんな事が……」


と、少し離れた場所でまだ言い争っている彼らに目を向ける。


門兵数人も困り顔で、何度も繰り返される問答に辟易しているようだ。


「駄目なものは駄目だ!この地は現在、非常事態の真っ只中だ!学生が来て良いような場所じゃない!帰るんだっ!!」


怒号にも似た声が、離れた場所にいるキサギの耳にすら届く。


門兵は目の前の彼らが貴族の子息子女とわかっていても、毅然とした態度と物言いで立ち向かっている。


その姿はここを守る門兵としての気概があり、頼もしくすらある。


だがどうにも相手が悪いようで、なかなか事態は膠着したまま好転しない。


「何度も言っているだろう!!そちらとて、魔獣による被害で困っているのだろう?我々は学生とはいえ、成績優秀者ばかりのエリートだ!別に問題などないだろう!?」


「さるやんごとなき身分の方が、わざわざこちらまで出向いて下さっているのだぞ!!不敬だ!!」


「あなた達では埒があかないの。さっさと責任者をここまで連れて来なさいな。これは命令よ」


などと学生たちが口々に、身分をカサに踏ん反り返って宣っている。


彼らは8人の集団で、身なりの整った学生服の上からピカピカの軽鎧をつけ、携える新品同様の武器からは攻撃職や魔法職を学ぶものの、実践などした事はないのだろうと一目でわかる。


ぬくぬくとした温室で育った彼らの様子から、現在その森で発生している深刻な問題により、一部の住人と冒険者以外の立ち入りが固く禁じられている事を知った上での暴挙のようだ。


(よくもまぁこんなトコまであんな格好で来て、盗賊とかに襲われなかったものね……あぁ、リムゼイは魔獣被害はあれども、そっち系の治安は比較的良いからその心配がなくてここを選んだのか)


静かに様子を伺う彼女は、呆れ顔で成り行きを静観していた。


その中に学生らに守られるように、1人の美しい青年が中心に立っている。


彼はその一団の中からゆらりと抜け出し、門兵の前へと歩み寄ると悠然とした構えで対峙した。


「君達の手を煩わせるつもりは毛頭ない。こちらの心配など、何一つする必要もない。我々の力量を持ってすれば、そちらに迷惑が降りかかる事などないと言えよう。ただ我々を、この先の森へ入らせてくれれば良いだけだ。さぁ、そこをどいてくれ」


現在進行形で大いに迷惑を被っているにも関わらず、どの口がほざくのかと皆胸の内に蟠りを残すものの、その一際目立つ人物に目を奪われ周囲は息を呑む。


緩やかなうねりのある金糸の髪が陽の光を浴びてキラキラと輝き、涼しげな碧眼を持つ、肌艶の良い非常に整った顔立ちの青年だった。


(うげぇっ?!)


キサギの視界に、いやでも彼の姿が飛び込んでくる。


潰れた蛙のような声をあげそうになるのを必死に呑み込み、一瞬心臓が止まりそうになった。


(ちょっとちょっと!彼、なーんでこんなとこにいるのぉぉぉぉぉぉ?!)


内心大慌てのキサギから少し離れた背後からも、驚愕にも似た声が飛ぶ。


「殿下??!!」


離れた場所で騎乗魔獣の背から様子を伺っていたグエンが彼の姿を見るや否や、勢いよく魔獣から飛び降りて走り寄り、彼の前に立ち頭だけ下げる。


騎乗していた他の天狼メンバーも驚いた様子で魔獣から飛び降り、グエンの元に走り寄ると彼に倣って頭だけ下げる。


カイルとテリーは野次馬集団に紛れて、様子を見る事にしたようだ。


そして旅団のメンバーはというと、気配を消しながらキサギの側に音もなく寄って来た。


「御前……あれは?」


「……やんごとなきご身分の第3王子サマだよ……アレ」


声を潜めて問いかけるビャクランへ、キサギは思わず遠い目をしながら頬をひくつかせて声を絞り出す。


(この非常時に、なにしてくれてんだ!?あの王子サマはっ!!)


何やら事態の雲行きが怪しくなりそうな気配を肌でヒシヒシと感じながら、彼女はこのまま離れた場所から様子を見守る事にした。


「ルシアン殿下、お久しぶりです」


「……あぁ」


グエンの挨拶に、ルシアンと呼ばれた彼は若干眉を顰めながら小さく応えた。


普通であれば王族には跪くのだろうが、冒険者は決してしない。


これは冒険者が、政治、政略には左右されない特殊な独立集団であると、ハッキリ一線を画すために作られたこの世界におけるルールだ。


もしも政治的介入で冒険者を意のままに操ろうとする動きがあろうものなら、冒険者はギルドごと国から消える。


そしてギルドは、その国に一切の関与をしない。


例外なく、一切。


大した事ではない様に見えて、最悪ギルドから撤収されたというだけで他国からの信用は失墜し交流を切られ、商人は去り、魔獣・魔人の対処や魔石の流通が自国だけで賄う羽目に陥るなど、あらゆる面で打撃を被る。


過去、地図上で名前の変わってしまった国で起こった事象だ。


故に、各国はギルドに敬意を払う。


またギルドも、それに応えるために力を振るい、国にも敬意を払う。


そんな立場から、グエン達の行動に異を唱える者はほぼいない。


だが、ごくごく一部を除いて。


「やんごとなき存在の殿下に対して、不敬だぞ!!」


ごく稀に、こういった脳内お花畑のおバカさんがいる。


主にこの目の前にいる、身分をカサにきた世間知らずの甘やかされた子息子女達の中に、だが。


どうにも彼らの中には、身分を持たない冒険者らを下に見る者達が一定数存在してしまう。


何せ彼らは貴族という狭い箱庭の中しか知らない。


英雄と同義とされるS級冒険者の存在は授業の中で知る程度で、実際に相まみえる機会などよっぽどで無ければないのだ。


(オイオイ、お坊ちゃん……その人達、この国の英雄~)


キサギが普段無駄にキラキラを撒き散らす優男な英雄へのお坊ちゃん学生の対応に、内心でツッコミをいれながら苦笑いをこぼす。


そこでふと気がつく。


(……ん?……んん??!!)


声を張り上げたお坊ちゃん学生をその目に捉えたキサギが、あまりにも誰かさんにそっくりな姿である事に驚愕し、またもや心臓を止めそうになる。


黄金色の髪に、美しいエメラルドの瞳、そしてやたら整った容姿。


(オイオイオイオイ!!グリードじゃん!!??アンタなんでここにいるの?!てか、知り合いオンパレードかよぉっ!!)


キサギが思わず頭を抱え、叫びたくなる衝動に駆られる。


容姿の整ったそのお花畑なお坊ちゃまはレイスリーネの兄で、隣国に留学していたはずの領主の息子のグリードだ。


彼は何故か魔法学園の制服に身を包み、しかも第3王子をはじめとした学友達と共にここにいるのだ。


(えぇぇ……グリード、こっちの学園に編入して来たのぉ?……こんなの絶対面倒臭いこと起こるじゃ~ん……)


キサギは痛みだしたコメカミを指でグリグリとほぐしながら、最早これから先の事などどうでも良くなり、既にここから帰りたくなってしまった。


「……よい。この国唯一のS級冒険者パーティ"天狼"の方々だぞ。彼はそのリーダーを務めるグエン殿だ。不勉強だぞ」


顰めた眉を一層深めながら、ルシアンは声を張り上げたグリードを静かに制する。


(さすが王族、無駄にカリスマ性だけはご立派)


キサギは様子を見つめながら、ルシアンの挙動に悪い言葉ながらも感心した。


グリードは長らく隣国に留学しておりまだ帰国したばかりで、己の領地でありながらも事情に乏しかったこともあり、彼の言葉に目を剥き慌てて謝罪している。


キサギは思わず「レイスリーネの兄がすんません…」となんとも居た堪れない気持ちになる。


改めて視線をグエンに戻したルシアンの眉は、まだ顰められたままだ。


「……グエン殿、何故ここに?」


「我々は仕事です。殿下は何故こちらに?」


いつもの軟派な雰囲気を完全に消し去り、真剣な面持ちで王族に対峙する彼からは少しの苛立ちが感じられる。


この非常事態時をわかった上で、王族がのこのこ日和見で学生達を引き連れ、ここにやってくるのは非常に由々しき問題なのだ。


「……この先の森へ演習に来ただけだ……」


「現在、森へは一部の住人と冒険者以外の立ち入りは固く禁じられております。この件はギルドを通じ、数日前には公表されているはずです。ご存知なかったのですか?」


「…………」


「ともあれ、どうぞご学友の皆さんと共に、王都へお帰り下さい」


ルシアンが眉を顰めながらも絞り出した言葉に、いつもは優しい雰囲気を崩さない彼が珍しく容赦なくハッキリと言い切る。


その姿は、まさに英雄たるS級冒険者として威風堂々としたものだった。


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