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三章 お守りと大学生
四 アスカと神社の男 四
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ショーゴさんと別れた私は、
消化不良の疑問を抱えたまま、
淳季さんと蓮さんのもとに戻った。
合流した私達は、
次なる目的地──カミコ神社へと向かった。
「でもなぁ、
マジでここには無いと思いますよ」
駐車場に降り立つやいなや、
淳季さんが弱気なことを口走る。
理由を聞くと、
神主が毎日掃除をしているからだと言う。
「もし見付けてたら、
俺に連絡くれるはずですから」
それはつまり、神主さんが
毎日探してくれているようなもの。
ならば、私達がわざわざ
探しに行くことはないのかもしれない。
「まぁでも、折角だし
パッと行ってパッと見てきますね」
私は二人を車に残し、
一人で神社に向かうことにした。
……が、早速気が引ける。
住宅街のど真ん中にそびえ立つ
標高一六〇メートル程の小さな山。
頂上まで石段が伸びており、
その一段目では、石の鳥居が
神社と駐車場を分断するかのように
厳かに佇んでいた。
この鳥居を潜り、
石段を上った先にあるのがカミコ神社だ。
ちなみに、神社に繋がる
他のルートは存在しないらしい。
参拝したければ、
この石段を上るしかないとのことだ。
この、一段一段の高さが不揃いで、
あちこちが苔むしている石段を。
それが嫌なら、
自然のままの山を進むしかない。
初めて来たけど……
参拝客が来ないはずだよ。
「うわぁ……ボロボロだ」
噂には聞いていたけど、本当に酷い。
心霊スポットになってしまうのも納得だ。
慎重に石段を上っていった
私を出迎えてくれたのは、
荒れ果てた参道と朽ちかけた本殿。
本殿の脇に佇む小さな木箱。
妖怪が使うポストのようにも見えるそれは、
お守りの無人販売だった。
淳季さんと先生は、
ここでお守りを買ったのかな。
売られているお守りは
雨避けがされていることもあり、
綺麗なものばかりだ。
でも、箱の方は汚かった。
見るのもおぞましい
主を失った蜘蛛の巣が
いくつも残されていた。
背筋が寒くなる光景から目を逸らし、
私は境内を軽く見回る。
いつの物かもわからない黒く変色した絵馬。
雨風に打たれたおみくじの残骸。
顔が欠けた狛犬。
神社を心霊スポットに
仕立てあげてしまう原因は
いくつも見付かった。
でも、お守りは見当たらない。
「この下にないかな」
野良猫の猫パンチで飛ばされているかもと、
私は賽銭箱の下を覗いてみた。
すると──
「さっきから何してんだ?」
突然、死角から知らない声が聞こえてきた。
出所は、
今の今まで無人だと思っていた本殿。
あまりの驚きで私は完全にフリーズ。
荒れ狂う心臓を落ち着かせながら、
私はゆっくりと恐る恐る立ち上がる。
よかった、人間だ。
もしかして、神主さんかな?
それにしては
小汚ないような気がするけど……。
無精髭も生えてるし、スウェットだし、
まさか……ホームレス?
「すまない、驚かせてしまったかな。
私はここの神主だよ」
神主だった。
こんな人が神主なんだ。
参拝客集める気あるのかな。
たまたま今日はお休みとか?
いや、だとしても本殿で寝泊まりする?
するのかな?
どうなんだろう。
「それで、さっきから何をしてるんだ?」
「実は、
知り合いが落としたお守りを探してまして」
私達が神社に来た理由を話すと、
神主さんはざらざらしていそうな
顎を触りながら「もしかしたら」と
興味深い話を聞かせてくれた。
「おとと……いや、三日前か。
そこの参道にお守りが落ちているのを
見かけたよ。白い、学業成就ってやつ」
「それ! 多分それです!」
二人がここに来たのも三日前。
落としたお守りは白い学業成就。
これは間違いないだろう。
「それ、今持ってますか?」
「いや、俺が拾う前に拾われちまったよ」
「え……」
「なぁに、
拾った人が誰だかはわかってるから。
住所教えるから、行ってみな。
話せば返してくれるよ、きっと」
そう言って、神主さんは
一枚のメモ切れを私に寄越した。
そこに記されていたのは、
ここから程近いアパートの住所。
「ここの二〇三号室。
留守だったら、ごめんね」
「いえ、ありがとうございます。
早速行ってみます」
一気に近くなった依頼のゴール。
私はこの嬉しい報告を抱えながら車に戻り、
喜ぶ二人と一緒に渡された住所へと
車を走らせた。
消化不良の疑問を抱えたまま、
淳季さんと蓮さんのもとに戻った。
合流した私達は、
次なる目的地──カミコ神社へと向かった。
「でもなぁ、
マジでここには無いと思いますよ」
駐車場に降り立つやいなや、
淳季さんが弱気なことを口走る。
理由を聞くと、
神主が毎日掃除をしているからだと言う。
「もし見付けてたら、
俺に連絡くれるはずですから」
それはつまり、神主さんが
毎日探してくれているようなもの。
ならば、私達がわざわざ
探しに行くことはないのかもしれない。
「まぁでも、折角だし
パッと行ってパッと見てきますね」
私は二人を車に残し、
一人で神社に向かうことにした。
……が、早速気が引ける。
住宅街のど真ん中にそびえ立つ
標高一六〇メートル程の小さな山。
頂上まで石段が伸びており、
その一段目では、石の鳥居が
神社と駐車場を分断するかのように
厳かに佇んでいた。
この鳥居を潜り、
石段を上った先にあるのがカミコ神社だ。
ちなみに、神社に繋がる
他のルートは存在しないらしい。
参拝したければ、
この石段を上るしかないとのことだ。
この、一段一段の高さが不揃いで、
あちこちが苔むしている石段を。
それが嫌なら、
自然のままの山を進むしかない。
初めて来たけど……
参拝客が来ないはずだよ。
「うわぁ……ボロボロだ」
噂には聞いていたけど、本当に酷い。
心霊スポットになってしまうのも納得だ。
慎重に石段を上っていった
私を出迎えてくれたのは、
荒れ果てた参道と朽ちかけた本殿。
本殿の脇に佇む小さな木箱。
妖怪が使うポストのようにも見えるそれは、
お守りの無人販売だった。
淳季さんと先生は、
ここでお守りを買ったのかな。
売られているお守りは
雨避けがされていることもあり、
綺麗なものばかりだ。
でも、箱の方は汚かった。
見るのもおぞましい
主を失った蜘蛛の巣が
いくつも残されていた。
背筋が寒くなる光景から目を逸らし、
私は境内を軽く見回る。
いつの物かもわからない黒く変色した絵馬。
雨風に打たれたおみくじの残骸。
顔が欠けた狛犬。
神社を心霊スポットに
仕立てあげてしまう原因は
いくつも見付かった。
でも、お守りは見当たらない。
「この下にないかな」
野良猫の猫パンチで飛ばされているかもと、
私は賽銭箱の下を覗いてみた。
すると──
「さっきから何してんだ?」
突然、死角から知らない声が聞こえてきた。
出所は、
今の今まで無人だと思っていた本殿。
あまりの驚きで私は完全にフリーズ。
荒れ狂う心臓を落ち着かせながら、
私はゆっくりと恐る恐る立ち上がる。
よかった、人間だ。
もしかして、神主さんかな?
それにしては
小汚ないような気がするけど……。
無精髭も生えてるし、スウェットだし、
まさか……ホームレス?
「すまない、驚かせてしまったかな。
私はここの神主だよ」
神主だった。
こんな人が神主なんだ。
参拝客集める気あるのかな。
たまたま今日はお休みとか?
いや、だとしても本殿で寝泊まりする?
するのかな?
どうなんだろう。
「それで、さっきから何をしてるんだ?」
「実は、
知り合いが落としたお守りを探してまして」
私達が神社に来た理由を話すと、
神主さんはざらざらしていそうな
顎を触りながら「もしかしたら」と
興味深い話を聞かせてくれた。
「おとと……いや、三日前か。
そこの参道にお守りが落ちているのを
見かけたよ。白い、学業成就ってやつ」
「それ! 多分それです!」
二人がここに来たのも三日前。
落としたお守りは白い学業成就。
これは間違いないだろう。
「それ、今持ってますか?」
「いや、俺が拾う前に拾われちまったよ」
「え……」
「なぁに、
拾った人が誰だかはわかってるから。
住所教えるから、行ってみな。
話せば返してくれるよ、きっと」
そう言って、神主さんは
一枚のメモ切れを私に寄越した。
そこに記されていたのは、
ここから程近いアパートの住所。
「ここの二〇三号室。
留守だったら、ごめんね」
「いえ、ありがとうございます。
早速行ってみます」
一気に近くなった依頼のゴール。
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車を走らせた。
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