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三章 お守りと大学生
五 ジュンとレン 五
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賑やかなファミレス。
外食を喜ぶ子供のように高鳴る心臓、
荒れ狂う高揚感。
何でも屋に依頼してよかったと、
何度も何度も喜びを噛み締める。
でなければ、俺達は
カミコ神社を再度探すことはなかった。
けれど、
一つだけ気になることがあった。
それは、現在進行形で俺達と共にある。
「なぁ、レン。お姉さんが会ったのって
神主じゃないよな?」
「たぶんな。中肉中背って言ってたし」
神社に行ったお姉さんは、
神主から有力な情報を得たと言っていた。
詳しく聞けば、お姉さんの言う神主とは、
中肉中背の無精髭を生やした男らしい。
その時点でお姉さんの会った人が
神主じゃないことは明らかだったが、
それよりもお守りの方が重要だったし、
その場では軽く聞き流していた。
「新しく誰か雇ったんかな」
「かもなー。
やっと修繕する気になったんじゃね?」
「あー、それでか」
お姉さんが神社で得た情報は、
お守りを拾ってくれた人の住所。
それは、
神社から程近いアパートの一室だった。
三人で押し掛けても迷惑になるからと、
お姉さんが一人で会いに行った。
しかし、部屋の主は不在。
だから、俺達は今こうして、
ファミレスで食事をしながら
部屋の主の帰宅を待っている。
「お守り、今度はどこに付けるか」
「また落とすから部屋にしまっとけよ」
「付けなきゃ意味ねぇんだよ」
「なら接着剤で固めとけ」
接着剤か。
いや、それならいっそ
メッシュのポケットを縫い付けて、
そこに入れておくのもいいかもな。
「でも、あれだな。
レンの写真がなかったら、
こんなスムーズに見付からなかったな」
お守りがいつ無くなったのか、
どこに落としてしまったのか、
候補を一気に絞れたのは、
レンの写真があったからこそだ。
「俺に感謝しろよ?」
「そうだな。
いつも無駄にパシャパシャしてたけど、
ようやく役に立ったな」
「無駄とか言うなし。──そういや、
お前の家庭教師もパシャパシャ女的な
あだ名で呼ばれてなかった?」
「ああ、パシャ子な」
「それそれ。
誰が言い出したんだっけ、それ」
「文化祭で迷子になってた中三女子。
俺らと同い年だから、今は十九か」
先生は、母校の文化祭を見に行った時、
広い校内で迷子になっている
二人組の女の子に遭遇したそうだ。
その二人は中学三年生で、
高校見学も兼ねて
文化祭を見に来ていたらしい。
その結果、中学校よりも広い校内で
迷子になってしまったのだとか。
卒業生で校内地理に詳しかった先生は、
その二人を連れて文化祭を回ることにした。
するとどうだ。
母校の文化祭に抱く懐かしさ、
友達と一緒にいるような感覚、
青春時代の情熱が一気に蘇り、
先生は写真を撮りまくった。
「それでパシャ子か。
どんだけ撮ってたんだよ、お前の先生は」
笑いながら突っ込みを入れるレンだが、
その目線が不意に俺から外れた。
「お姉さんこっちです」
中腰になったレンが声をかけた方を見ると、
入店と同時に
トイレに行っていたお姉さんが、
俺達が案内された席を探していた。
お姉さんは席に座ると、
お冷やを一口だけ飲み込んで、
悩ましげにため息を吐いた。
「……お姉さん、
あのアパートでなにかあったんですか?」
お守りが見付かる。
それを心から喜びたい俺達の邪魔をする
たった一つの気がかり。
アパートに行ってから、
お姉さんの元気がない。
必死に明るく振る舞っているが、
空元気であることが見え見えだ。
「いえ、なにもなかったですよ。
それよりほら、なに頼みますか」
目と一緒に話題を逸らされた。
何も話すつもりはないらしい。
気にはなるが、俺達よりも大人なんだ。
自分でどうにかできるのだろう。
「あ、そうだ。
お二人に渡すものがあるんでした」
メニューを見ていた顔を上げると、
お姉さんから紙を一枚手渡された。
レンにも俺と同じ紙が手渡され、
俺達はそれぞれ
紙に書かれた内容に目をやった。
「これ、ニュースの……」
手渡された紙は、
行方不明の鮫島秋文の捜索願だった。
友人からの依頼で
捜索に協力しているらしい。
「お二人は、
この人についてなにか知りませんか?」
お姉さんからの問いに、
俺達は首を横に振った。
鮫島秋文は
俺達と同じC県F市に住んでいるらしいが、
知り合いではないし、会ったこともない。
とはいえ、「なにも知らない」で
終わるのは、ここまで親身になって
お守りを探してくれたお姉さんに
申し訳なくもある。
「一応、友達にも聞いてみます」
俺達にできることと言えば、
これくらいしかない。
それでも、お姉さんは笑顔で
「ありがとうございます」と言ってくれた。
その後、食事を終えた俺達は、
再度あのアパートへ向かった。
そして、今度は無事にお守りを
返してもらうことができたのだった。
「ありがとうございました」
「いえ、無事に見付かってよかったです」
お守りが手元に戻り、
自然と元気を増す俺の声。
それに対して、お姉さんの声は
最後まで空っぽだった。
ゲームのNPCと
会話しているかのような、
そんな感覚を俺は覚えていた。
外食を喜ぶ子供のように高鳴る心臓、
荒れ狂う高揚感。
何でも屋に依頼してよかったと、
何度も何度も喜びを噛み締める。
でなければ、俺達は
カミコ神社を再度探すことはなかった。
けれど、
一つだけ気になることがあった。
それは、現在進行形で俺達と共にある。
「なぁ、レン。お姉さんが会ったのって
神主じゃないよな?」
「たぶんな。中肉中背って言ってたし」
神社に行ったお姉さんは、
神主から有力な情報を得たと言っていた。
詳しく聞けば、お姉さんの言う神主とは、
中肉中背の無精髭を生やした男らしい。
その時点でお姉さんの会った人が
神主じゃないことは明らかだったが、
それよりもお守りの方が重要だったし、
その場では軽く聞き流していた。
「新しく誰か雇ったんかな」
「かもなー。
やっと修繕する気になったんじゃね?」
「あー、それでか」
お姉さんが神社で得た情報は、
お守りを拾ってくれた人の住所。
それは、
神社から程近いアパートの一室だった。
三人で押し掛けても迷惑になるからと、
お姉さんが一人で会いに行った。
しかし、部屋の主は不在。
だから、俺達は今こうして、
ファミレスで食事をしながら
部屋の主の帰宅を待っている。
「お守り、今度はどこに付けるか」
「また落とすから部屋にしまっとけよ」
「付けなきゃ意味ねぇんだよ」
「なら接着剤で固めとけ」
接着剤か。
いや、それならいっそ
メッシュのポケットを縫い付けて、
そこに入れておくのもいいかもな。
「でも、あれだな。
レンの写真がなかったら、
こんなスムーズに見付からなかったな」
お守りがいつ無くなったのか、
どこに落としてしまったのか、
候補を一気に絞れたのは、
レンの写真があったからこそだ。
「俺に感謝しろよ?」
「そうだな。
いつも無駄にパシャパシャしてたけど、
ようやく役に立ったな」
「無駄とか言うなし。──そういや、
お前の家庭教師もパシャパシャ女的な
あだ名で呼ばれてなかった?」
「ああ、パシャ子な」
「それそれ。
誰が言い出したんだっけ、それ」
「文化祭で迷子になってた中三女子。
俺らと同い年だから、今は十九か」
先生は、母校の文化祭を見に行った時、
広い校内で迷子になっている
二人組の女の子に遭遇したそうだ。
その二人は中学三年生で、
高校見学も兼ねて
文化祭を見に来ていたらしい。
その結果、中学校よりも広い校内で
迷子になってしまったのだとか。
卒業生で校内地理に詳しかった先生は、
その二人を連れて文化祭を回ることにした。
するとどうだ。
母校の文化祭に抱く懐かしさ、
友達と一緒にいるような感覚、
青春時代の情熱が一気に蘇り、
先生は写真を撮りまくった。
「それでパシャ子か。
どんだけ撮ってたんだよ、お前の先生は」
笑いながら突っ込みを入れるレンだが、
その目線が不意に俺から外れた。
「お姉さんこっちです」
中腰になったレンが声をかけた方を見ると、
入店と同時に
トイレに行っていたお姉さんが、
俺達が案内された席を探していた。
お姉さんは席に座ると、
お冷やを一口だけ飲み込んで、
悩ましげにため息を吐いた。
「……お姉さん、
あのアパートでなにかあったんですか?」
お守りが見付かる。
それを心から喜びたい俺達の邪魔をする
たった一つの気がかり。
アパートに行ってから、
お姉さんの元気がない。
必死に明るく振る舞っているが、
空元気であることが見え見えだ。
「いえ、なにもなかったですよ。
それよりほら、なに頼みますか」
目と一緒に話題を逸らされた。
何も話すつもりはないらしい。
気にはなるが、俺達よりも大人なんだ。
自分でどうにかできるのだろう。
「あ、そうだ。
お二人に渡すものがあるんでした」
メニューを見ていた顔を上げると、
お姉さんから紙を一枚手渡された。
レンにも俺と同じ紙が手渡され、
俺達はそれぞれ
紙に書かれた内容に目をやった。
「これ、ニュースの……」
手渡された紙は、
行方不明の鮫島秋文の捜索願だった。
友人からの依頼で
捜索に協力しているらしい。
「お二人は、
この人についてなにか知りませんか?」
お姉さんからの問いに、
俺達は首を横に振った。
鮫島秋文は
俺達と同じC県F市に住んでいるらしいが、
知り合いではないし、会ったこともない。
とはいえ、「なにも知らない」で
終わるのは、ここまで親身になって
お守りを探してくれたお姉さんに
申し訳なくもある。
「一応、友達にも聞いてみます」
俺達にできることと言えば、
これくらいしかない。
それでも、お姉さんは笑顔で
「ありがとうございます」と言ってくれた。
その後、食事を終えた俺達は、
再度あのアパートへ向かった。
そして、今度は無事にお守りを
返してもらうことができたのだった。
「ありがとうございました」
「いえ、無事に見付かってよかったです」
お守りが手元に戻り、
自然と元気を増す俺の声。
それに対して、お姉さんの声は
最後まで空っぽだった。
ゲームのNPCと
会話しているかのような、
そんな感覚を俺は覚えていた。
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