何でも屋と季節外れの夢

水之音 霊季

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四章 アスカと一〇一号室

二 不安な朝 ─二〇一九年 五月七日─ 二

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 今朝もまた、
 彼氏さんの夢に起こされたルミ。

 いつもと違っていたのは、
 抱き合っていた時間の長さ。

 いつもなら
 泣き止んだルミが自ら離れていくけど、
 今回は泣き止んでも離れようとしなかった。

 いつもとは違う、
 啜り泣く声の聞こえない静かな抱擁。

 お互いの鼓動が聞こえてきそうな静寂の中、
 私はルミが離れようとしない理由を
 何となく察していた。

 やっぱり、怖いのだろう。

 たった一人、
 彼氏さんの残り香が満ちる空間に飛び込む。

 二人で過ごした幸せな記憶が
 津波のように押し寄せて、
 その引き波が彼氏さんが
 いなくなったという事実を突き付けてくる。

「私も行こうか」と、何度も提案した。

 でも、その度に断られた。

「もし色んなものが腐ってたら
 アスカには見られたくないし、
 今日だって依頼の予約入ってるんでしょ?」

「そうだけど……」

「そんなに心配しないで。
 昨日も言ったけど泊まりじゃないし、
 それにほら、地獄絵図の片付けで
 アッくんどころじゃないと思う」

 向こうで涙を流すとすれば、
 腐った臭いと埃のせいだとルミは笑った。

「だから、大丈夫だよ」

 ルミは子供じゃない。

 向こうで本当に辛くなってしまった時は、
 片付けを切り上げて帰ってくるだろう。

 それができない人ではない。

 だから、心配はいらないはずなんだ。

 なら、この胸の締め付けは何なのだろう。

 元気良く手を振りながら
 駅に遠ざかっていくルミに、
 私は力なく手を振り返した。
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