何でも屋と季節外れの夢

一章 アスカとルミ①

一 寂しくなったら ─二〇一九年 三月二十八日─ 一

『おー、珍しいね。
　お姉ちゃんがこんな時間に起きてるなんて』

「……寝てたよ」

　朝七時。

　普段ならまだ夢の中なのに、
　今朝は妹からの電話に起こされた。

　向こうに聞こえないよう、
　大きな欠伸を一つ。

　うん、まだまだ眠い。

　寝足りない。

『だと思った。でも、よく起きたね』

「……たまたまだよ。それで？
　ユズこそ、こんな朝早くにどうしたの？」

『んー、なんとなく』

　なんとなく……か。

　なるほどね。

　妹は、この春から大学生。
　
　ずっと一緒に暮らしてきた家族と離れ、
　知らない土地で一人暮らしをする。

　朝起きるのも、ご飯を作るのも、
　洗濯に掃除にごみ捨て、全ての家事を
　一人でこなさなければいけない。

　その日常に慣れるため、
　妹は早めに引っ越していた。

　生まれ育ったＩ県から
　旅行でしか行ったことのないＫ県へ。

　そこに知り合いはおらず、
　大学もまだ始まっていない。

「……ホームシックか」

『違っ──違うよ。そんなんじゃない』

　ふふふ。

　声でバレバレだぞ、我が妹よ。

　何故わかるかって？

　私も通った道だからだ。

　朝起きて、誰にも「おはよう」を言えず、
　誰からも「おはよう」を言ってもらえない。

　一人の朝は、とても静かなんだ。

「寂しくなったら、いつでも帰っておいで」

『……うん。ありがとう』

　私を早起きさせた突然の電話。

　それは、可愛らしい感謝の言葉で
　静かに幕を下ろした。