幻想素材拾話集

卯堂 成隆

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薬草買取の裏舞台

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 世の中に光があれば陰が出来るように、華々しく表で活躍する奴がいれば必ずそれを支える裏方がいるものである。
 冒険者ギルドの職員は、そんな裏方の存在だ。
 それでも、受付の連中はまだマシである。
 一番目立たなくて一番悲惨でつらい思いをするのは……間違いなく俺達『素材管理課』の連中に違いない。

「だぁぁぁっ! もう嫌だ! 薬草なんて見たくもねぇっ!」
 隣のソバカス野郎が絶叫とともに仰向けに倒れる。

「……うるさいぞ、リンツ。 サボらずに手を動かせ。 俺の負担が増える」
「少しは労わってくれよ、シエル。 俺達相棒だろ?」
 情けない声を上げる年下の相方に、俺は迷わず蹴りをいれた。
 泣き言を言っている暇など無い。 薬草――こと、ネアカコダチソウの処理は時間が勝負なのである。

 この植物、その名の通り根っこの部分が赤いのだが、採集するとこの赤みが徐々に薄れてゆき、緑になったら完全にアウト。
 毒にも薬にもならないただの雑草にはやがわりである。

 その処理の手順も大変だ。
 まず、茎から葉をすべて取り除き、茎を熱湯に30秒つける。
 そして柔らかくなった茎を湯から取り出し、茎の表面を覆う皮を全部剥ぎ取らなくてはならない。
 しかも皮をはいだ茎が空気に触れて変色する前にアルコールに漬けなくてはならないので、無駄口を叩いている暇などあるはずも無かった。

 今日はなぜかこの薬草が豊作で、普段ならば10本程度がいいところなのに、なぜかその10倍近い量が持ち込まれたのである。
 いったいどこのどいつだ、こんな面倒を持ち込みやがって!
 嬉しいのは、報酬を受け取った冒険者と、この薬草を業者にもってゆく営業の奴らばかりである。

 ……とまぁ、そんなわけで今日は昼からずっと薬草の処理にかかりっきりだ。
 見れば、俺の爪の先はすっかり緑に変色している。
 このあとは時間が経つにつれて汚い茶色に変わり、数日ほどは落ちないだろう。
 ほんと、ため息しか出ないよ。

 その音を聞くだけで不幸になりそうな溜息を吐きながら、俺は皮をむき終わった薬草の茎を一定の長さに切りそろえ、アルコールの入った瓶につめる。
 重さを量って規定の量になっているのを確認したら、これでようやく薬局に卸せる商品の出来上がりだ。

 ちなみに葉っぱにも同様の効果があるらしいのだが、茎と比べると薬剤が余分にかかるので買い手はつかないらしい。
 なので、半端に余った茎と一緒に保管して、もっぱら俺たちが自分で使う傷薬の材料として重宝している。

「さてと、あともうひといきだ。 がんばろう!!」
「おー」
 そしてようやく長かった作業も終わりが見えてきた、そんなときだった。

「そんなお前らに朗報だ」
 先輩が何かを抱えて部屋にやってくる。

「たった今、戻ってきた冒険者からネアカコダチソウ20束を受け取ってきたぞ」
 その瞬間、部屋の中になんともいいようのない怒りとざわめきが満ちた。
 20束……だと?

「死ねっ!」
「くたばれ!!」
 俺たちの心の叫びを、先輩は手をヒラヒラさせて受け流す。
 この程度の罵声でたじろいでいたら、素材管理の職員はやっていられない。

「はいはい、俺達の飯の種を運んできてくれるんだから悪態つくんじゃないの」
「ケッ。 俺達、数こなしても報酬増えるわけじゃないってのにいいきなもんだぜ」
「労力のわりに月収安いよなぁ」
 だったらなぜこんな仕事をしている?
 そう言われても仕方が無いのだが、あいにくとそれぞれにやめられない理由が存在しているのだ。

「……とりあえず、仕事するか」
「そうだな」
 俺は相方に声をかけると、先輩の持ってきた薬草の束の処理に入る。
 この部署にいる限り、俺たちが報われる日はたぶん無い。

******

【ネアカコダチソウ】
 魔力容量:3
 属性稀度:Ars0070
 固有属性:外傷治癒

 基本査定額:210イリクス
 ※単価が安いため、通常は10本一束で取引される。
  このデータは一束あたりの数字である。

 ※1イクリス=1円ぐらいの感覚
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