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蟇蛙の末路 (2)
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「いやあぁぁぁぁカエルがきちゃうぅぅぅぅ!」
「静かにしろ、ディオーナ。 騒ぐと本当にジャイアント・トードが寄ってくるぞ」
俺がそう告げると、ディオーナは即座にそのくちをつぐんだ。
そして真っ青な顔のまま全身を強張らせ、小刻みに震えている。
なるほど……こいつは重症だ。
たしかにこの状態では、ジャイアント・トードを狩るのは無理だろう。
さて、ディオーナをつれてジャイアント・トードの住む沼地に到着した俺であったが、二人っきりではなかった。
俺は渋い顔をつくって後ろにいる人物を振り返る。
「で、お前はいつまで付いてくるんだアルトリノ」
「なぜって……ディオーナさんが無体な扱いを受けないか冒険者を代表して見張っているんですよ」
嘘つきめ。
あの冒険者共がそんなことを気にするものか。
「本音は?」
「素材管理課の狩りのやり方について興味があります。
貴方たち素材管理課が独自の狩猟技術を持っていることは、ベテラン冒険者の方から伺ったので。
特にシエルさんは一番の腕利きだそうじゃないですか」
驚いたな。
このことを知っているのはかなり限られているはずだ。
どうやら、よほどの古株と縁を結ぶことが出来たらしい。
「ほう? 俺の忠告どおり他の連中とも交流しているみたいだな」
「おかげさまで、色々と目から鱗が落ちる毎日ですよ」
苦笑いを浮かべながらそう呟くところを見ると、そうとう厳しくしごかれているようだ。
連中……腕はいいが教えるのはてんで下手糞だからなぁ。
さぞや理不尽な思いをしているに違いない。
いや、厳しいのはその指導料として徴収される酒代のほうかもしれんが。
「シエル……本当にジャイアント・トードを狩るんだ?」
「冗談でこんなところまで来るはず無いだろ。
まぁ、黙って見学していろ」
涙目でガタガタと震えるディオーナをよそに、俺は荷物の中から金属で出来たボールのようなものを取り出す。
如意天宝臥褥香炉……一見してただの鉄にしか見えないだろうが、実は神珍鉄という伝説級の素材で出来た俺の愛用の品だ。
魔力を注ぐと自在にその大きさを変え、ドラゴンが殴りつけても傷一つ付かないという代物である。
物を知っている貴族や鍛冶屋が見たら俺を殺してでも奪いにくるかもしれない貴重品だが、あいにくとこいつは異界の神から賜ったという俺の一族の宝であり、その血を受け継がないものには加工はおろか持ち上げることすら出来ない。
なんでも、もともとは世界の大きさを測るために神が作り上げた物質で出来ているそうな。
「ね、ねぇ……その道具、何?」
俺がその球体を開いて中に香料をつめていると、ディオーナが恐る恐る尋ねてくる。
足っているのもやっとだろうに……好奇心が恐怖に勝るあたり、魔術師の業を感じざるを得ない。
「こいつは香球、もしくは臥褥香炉と呼ばれる代物で、どんなに激しく転がっても中身が水平に保たれる構造になっている。
本来は布団の中を香りで満たすための道具だ」
「なんで布団の中に香りをたくの?」
お、お前、それを聞くか!?
「……子供は知らんでもいい話しだ」
ディオーナの疑問を、俺は露骨に切り捨てた。
さすがにアルトリノは知っていたのか、顔を少し赤らめて前かがみになっている。
せっかくの美形が台無しだな。
「ねえ、そもそも香りなんて焚いてどうするの?」
「こいつは乾燥させたサボテンとホウズキの根、勿忘草なんかを中心に配合した香だ。
天蠍宮の力を持つ植物で、月の影響力を阻害する働きを持つ。
だから、月に属する生き物がこの匂いを嗅ぐと、怒りくるってその源を潰しに来る」
ようするに、タバコ嫌いの前でタバコを吸うような感じだと思ってくれたらいい。
あと、巨蟹宮の祝福を受けた人間にとっても有効で、蟹座である同僚に聞いてみたところこの世に存在することすら許しがたい匂いがするのだと語っていたな。
「なるほど、こちらから探すのではなく向こうを呼び寄せるということですか。
つまり、罠猟ですね?」
「察しがいいな、アルトリノ。
俺達には正面切って喧嘩をする力はないが、こうやって罠を使っておびき寄せれば十分に狩が出来る。
……軽蔑するか?」
俺が試すように俺がそう告げると、奴は件名にも苦笑しながら首を横に振った。
「まさか。 あなた方のその知識は、確かに力ですよ」
そう、これは俺達の誇るべき力なのだ。
誰にも侮辱する権利は無い。
「じゃあ、罠の設置に入るから少し離れていてくれ」
俺は菊石と呼ばれる古い巻貝の化石を埋め込んだ短杖で拘束用の魔法陣を地面に描き記し、如意天宝臥褥香炉に火をつけてから地面に転がして陣の中心に設置する。
さすがにジャイアント・トードを相手に石の檻では強度が不安なので、念のために今回は『ヘファイトスの寝台・表』と呼ばれるドラゴンでも束縛できる上位の魔法陣を用意していた。
「さて、ジャイアント・トードが来る前にここを離れるぞ」
「そうですね……それがいいと思います」
俺の言葉に、アルノルトが大きく頷く。
さっそく香の力に反応したのか、遠くからズシン、ズシン、と何かが飛び跳ねる音が近づいてきているからだ。
「ね、ねぇ……ジャイアント・トードってどのぐらいの大きさなの?」
どうやら、カエルが嫌いなあまりジャイアント・トードについての情報を避けていたのか、走りながらディオーナがそんなことを聞いてくる。
「そうだな、成長すると全長は20メートルぐらいになる。
魔術師ならばともかく、近接職が喧嘩を売るのは自殺行為だな」
その瞬間、ディオーナは言葉も無く白目をむいた。
「静かにしろ、ディオーナ。 騒ぐと本当にジャイアント・トードが寄ってくるぞ」
俺がそう告げると、ディオーナは即座にそのくちをつぐんだ。
そして真っ青な顔のまま全身を強張らせ、小刻みに震えている。
なるほど……こいつは重症だ。
たしかにこの状態では、ジャイアント・トードを狩るのは無理だろう。
さて、ディオーナをつれてジャイアント・トードの住む沼地に到着した俺であったが、二人っきりではなかった。
俺は渋い顔をつくって後ろにいる人物を振り返る。
「で、お前はいつまで付いてくるんだアルトリノ」
「なぜって……ディオーナさんが無体な扱いを受けないか冒険者を代表して見張っているんですよ」
嘘つきめ。
あの冒険者共がそんなことを気にするものか。
「本音は?」
「素材管理課の狩りのやり方について興味があります。
貴方たち素材管理課が独自の狩猟技術を持っていることは、ベテラン冒険者の方から伺ったので。
特にシエルさんは一番の腕利きだそうじゃないですか」
驚いたな。
このことを知っているのはかなり限られているはずだ。
どうやら、よほどの古株と縁を結ぶことが出来たらしい。
「ほう? 俺の忠告どおり他の連中とも交流しているみたいだな」
「おかげさまで、色々と目から鱗が落ちる毎日ですよ」
苦笑いを浮かべながらそう呟くところを見ると、そうとう厳しくしごかれているようだ。
連中……腕はいいが教えるのはてんで下手糞だからなぁ。
さぞや理不尽な思いをしているに違いない。
いや、厳しいのはその指導料として徴収される酒代のほうかもしれんが。
「シエル……本当にジャイアント・トードを狩るんだ?」
「冗談でこんなところまで来るはず無いだろ。
まぁ、黙って見学していろ」
涙目でガタガタと震えるディオーナをよそに、俺は荷物の中から金属で出来たボールのようなものを取り出す。
如意天宝臥褥香炉……一見してただの鉄にしか見えないだろうが、実は神珍鉄という伝説級の素材で出来た俺の愛用の品だ。
魔力を注ぐと自在にその大きさを変え、ドラゴンが殴りつけても傷一つ付かないという代物である。
物を知っている貴族や鍛冶屋が見たら俺を殺してでも奪いにくるかもしれない貴重品だが、あいにくとこいつは異界の神から賜ったという俺の一族の宝であり、その血を受け継がないものには加工はおろか持ち上げることすら出来ない。
なんでも、もともとは世界の大きさを測るために神が作り上げた物質で出来ているそうな。
「ね、ねぇ……その道具、何?」
俺がその球体を開いて中に香料をつめていると、ディオーナが恐る恐る尋ねてくる。
足っているのもやっとだろうに……好奇心が恐怖に勝るあたり、魔術師の業を感じざるを得ない。
「こいつは香球、もしくは臥褥香炉と呼ばれる代物で、どんなに激しく転がっても中身が水平に保たれる構造になっている。
本来は布団の中を香りで満たすための道具だ」
「なんで布団の中に香りをたくの?」
お、お前、それを聞くか!?
「……子供は知らんでもいい話しだ」
ディオーナの疑問を、俺は露骨に切り捨てた。
さすがにアルトリノは知っていたのか、顔を少し赤らめて前かがみになっている。
せっかくの美形が台無しだな。
「ねえ、そもそも香りなんて焚いてどうするの?」
「こいつは乾燥させたサボテンとホウズキの根、勿忘草なんかを中心に配合した香だ。
天蠍宮の力を持つ植物で、月の影響力を阻害する働きを持つ。
だから、月に属する生き物がこの匂いを嗅ぐと、怒りくるってその源を潰しに来る」
ようするに、タバコ嫌いの前でタバコを吸うような感じだと思ってくれたらいい。
あと、巨蟹宮の祝福を受けた人間にとっても有効で、蟹座である同僚に聞いてみたところこの世に存在することすら許しがたい匂いがするのだと語っていたな。
「なるほど、こちらから探すのではなく向こうを呼び寄せるということですか。
つまり、罠猟ですね?」
「察しがいいな、アルトリノ。
俺達には正面切って喧嘩をする力はないが、こうやって罠を使っておびき寄せれば十分に狩が出来る。
……軽蔑するか?」
俺が試すように俺がそう告げると、奴は件名にも苦笑しながら首を横に振った。
「まさか。 あなた方のその知識は、確かに力ですよ」
そう、これは俺達の誇るべき力なのだ。
誰にも侮辱する権利は無い。
「じゃあ、罠の設置に入るから少し離れていてくれ」
俺は菊石と呼ばれる古い巻貝の化石を埋め込んだ短杖で拘束用の魔法陣を地面に描き記し、如意天宝臥褥香炉に火をつけてから地面に転がして陣の中心に設置する。
さすがにジャイアント・トードを相手に石の檻では強度が不安なので、念のために今回は『ヘファイトスの寝台・表』と呼ばれるドラゴンでも束縛できる上位の魔法陣を用意していた。
「さて、ジャイアント・トードが来る前にここを離れるぞ」
「そうですね……それがいいと思います」
俺の言葉に、アルノルトが大きく頷く。
さっそく香の力に反応したのか、遠くからズシン、ズシン、と何かが飛び跳ねる音が近づいてきているからだ。
「ね、ねぇ……ジャイアント・トードってどのぐらいの大きさなの?」
どうやら、カエルが嫌いなあまりジャイアント・トードについての情報を避けていたのか、走りながらディオーナがそんなことを聞いてくる。
「そうだな、成長すると全長は20メートルぐらいになる。
魔術師ならばともかく、近接職が喧嘩を売るのは自殺行為だな」
その瞬間、ディオーナは言葉も無く白目をむいた。
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