幻想素材拾話集

卯堂 成隆

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毛はまた戻り、繰り返す (8)

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「よし、我々の目的は達成された。
 では他にもよさそうな技術を見繕って撤収だ」
 その後のことは、あまり思い出したくは無い。

 俺達の職場から、大切な研究結果の資料が次々と引き抜かれ、そして売れないと判断された資料はその場で地面にぶちまけられて踏みにじられる。
 研究者として、これほどの屈辱がはたして存在するだろうか?

 だが、俺達はじっと耐えるしかなかった。
 騎士たちの行動を止めるだけの力を持たないがゆえに。

 強く唇から血の味が染み出し、口の中に鉄臭い匂いが立ちこめる。
 あぁ、その血反吐を騎士の顔に吐きつけてやれたらどんなにスッキリするだろうか?

 やがて、めぼしいものをすべて奪いつくした騎士たちは、意気揚々と引き上げてゆく。
 だが、その後姿に声をかける者がいた。
 リンツである。

「覚えておけ、お前ら!
 我々の仕事は、新しく商品をつくり、それを公開して国の産業を発展させること。
 その使命を妨げたお前たちを、我々は決して許しはしない!!」

 だが、その言葉を騎士たちは鼻で笑う。

「それがどうした? 力の無いお前らが、何を言っても無意味だ」
 ……悔しいが事実である。
 すべては奴らの狼藉を止める力がなかった我々が悪いのだ。
 そしてその騎士の言葉を、騎士たちの団長が引き継いだ。

「これは我々がもらってゆく。
 弱いお前たちはそのまま地面に転がって泣き喚いていればいい。
 あぁ……またよいものを作ることが出来たら、何度でも奪いにきてやろう。
 せいぜい業務に励んでくれたまえ……我々のためにな」
 そう告げると、騎士団は俺達をあざ笑いながら闇の向こうに消えていった。

 だが、しばらくすると……。

「おい、行ったか?」
「あぁ、もう気配は無いな」
 夜の静寂の中に先輩の声が響き、その声にどこからとも無く冒険者ギルドから派遣された斥候の男の声が響いた。

「ふふふ……もって行っちまったよ」
「あぁ、そうだな。 連中はアレをすぐに使うかな?」
 騎士団がもう行ってしまったことを確認すると、今まで打ちひしがれていた素材管理課の連中が、次々に明るい声で雑談に興じはじめる。

「使うだろうさ。 あのでたらめレシピ、星の配置の指定があるから作成までには数ヶ月かかるはずだ。
 それもで待てるとおもうか?」
「いいや、無理だね。
 それが出来るような奴らなら、最初から力づくで奪うようなことはしないさ」
 同僚たちの声は次第に明るさを取り戻し、やがてリンツがボコボコになった顔を天井にむけ、蹴られた腹を押さえながら笑い転げる。

「ぶはははははははは! もう我慢できねぇ! ……痛ってぇぇぇぇ!
 あいつら、よくも蹴りやがったな! 畜生、アバラが折れてるぞこれ!!」
「おーい、どっかにポーション残ってるかー? 誰かリンツの手当てしてやれよ」
 誰も動こうとしないので、俺はため息をつきつつ立ち上げると、備品のふりをしている鏡に手のひらを押し当て、魔力認証で動く地下室の扉を開いた。
 何のことは無い。
 本当に貴重なものはすべてこの中に保管されており、連中が持っていったのは俺達が業務の傍らで作り上げた精巧なゴミである。

「なにが『お前たちはそのまま地面に転がって泣き喚いていればいい』だよ!
 その言葉、そっくりそのまんまお返ししてやるぜ!」
「脳みその足りないお前らこそ、歯噛みして悔しがるがいいさ!!」
 俺が隠し倉庫からポーションをもって戻ってくると、いったいどこに隠し持っていたのか同僚たちは酒を片手に盛り上がっていた。
 ついでに、ギルドの母屋のほうから料理が運ばれて来ている。

「おい、リンツ! お前の調合した全身毛生え薬、簡単に除去できたりしないだろうな?」
「心配しなくても、半永久的に解毒できないように気合をいれて作ったに決まっているだろ!
 ついでに、頭の天辺だけは生えないように調整済みだって!」
 ポーションを手渡しながらリンツに問いかけると、奴はわき腹の痛みに顔をしかめながらも実にいい笑顔を見せた。
 まぁ、俺もあの薬のせいでどんな結果が生まれるかを考えて、思わず噴出しそうになってしまう。

「よーし、じゃあ……改めて。
 我々の勝利にかんぱーい!!」
 先輩がそんな音頭を取ると、俺達は笑顔で杯を酌み交わすのであった。

 そして一ヵ月後……隣の国の宰相が突如として引退し、件の騎士団が解散したというニュースが入る。
 職を失った騎士たちの何人かは冒険者に身を落とすだろうが、奴らが何をしたかは世界中の冒険者ギルドに報告済みだ。
 せいぜい路頭に迷うがいい。
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みんなの感想(1件)

社怪人
2019.02.12 社怪人

技術者を舐めた半可通どもは
その技術に泣かされました。

騎士団:『泣かされました』じゃすまんかったわ~(ギャン泣き)

解除

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